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二章(一年目六月の七)

リリーはいつ洗脳されたのでしょうか。後書きに一応記載しますので

洗脳されかけている?洗脳の魔法なんて…


そもそもこの狼がジュリー様と遭遇するなんてあの本には書かれていなかった。

主人公が第一王子と傷ついた狼に勝利するという話だけ。

裏を読めなかった私のミスだ。


こんな魔法、いつ誰にかけられたのだろう?


ああ、また右手が魔法を発動させようとしている。ジュリー様がそこに立ち塞がる。


ジュリー様は、ご自身が斜線に入れば(何か事情があるのかもしれない)リリーは止まるとお考えなのだろう。その通りです。何としてでも止めてみせます。


魔力を必死で暴発させた。

私を取り押さえようとしていた取り巻きCは、唖然としてこっちを見ている。

暴発の結果、数十秒の苦痛の末、私は運良く意識を失うことができそうだった。

こんな非常時に騒ぎを起こしてしまって、申し訳ないなぁ。


気づいたらホテルの医務室にいた。近くには狼に噛まれた生徒が、治療されている。セーリオもいる、生きていたようで良かった。だけれど、なぜ私と同じ空間に?私はなぜ拘束されてない?


「あ、目覚めましたか?」


取り巻きBが横にいた。ジュリー様じゃないのか。ソウデスヨネ、私はその程度ですよねー。いや、現実逃避気味にそんなことを考えたが、それより、私は他の生徒を故意に傷つけてしまった、ように見えただろう。血が引くのがわかる。


「わ、私は、なんて事を…」

「 リリーさん、辛いなら医者を呼んできますね!」

「いや、待って。ちょっと、ひとりにしてほしい」


ふらつきながら立ち上がる。暴発の影響は大きいが耐えられないわけじゃない。まだクラクラするけど。取り巻きBは慌てている。


「無理して動かないでください!寝てないのがバレたら大変です」

「じゃあ、私の代わりにベッドの毛布にくるまってて貰えますか」

「え?」


動揺して何を言っているのか自分でもよくわからないまま、私は自室に戻った。膝を抱える。あの魔法の発動条件を考える。私はいつの間にか『セーリオを殺せる時に殺せ』という洗脳の魔法をかけられていたのかな?誰に?


思い当たるのは四月、作りかけの式。あれを作った時の記憶を洗脳で忘れさせられている?女装を見た後にぶつかった『セーリオへの追っ手』が怪しい。変なランタンとかもあったし。そういえば、作りかけの式を見つけた後、ジュリー様と洗脳の魔法など未公開魔法について話したんだったなぁ。これは偶然だろうけど。


しかし、今日。魔法で生徒を(しかもかわいいイケメン)殺そうとしてしまった。私にはどんな罰が待っているのだろうか?最悪、退学?こんな不祥事を起こすなんて、私、あの子みたい。酷すぎる。家名にも泥を塗ってしまう。退学にならなくてもいじめられるかもしれない。


運良く、誰にも見られてなかったりしないかな?それだったら、さっきの状態にも説明がつく。私がそんな狡い考えに逃げようとした時、ドアがノックされた。


「リリー?」


ああ。こんな顔では会えない。


「リリー、出てきなさい」


申し訳ありません。出ていけそうに、ありません。


「私から隠れるとは、感心しませんわね。貴女の行動を誰かに話されたくないなら、ドアを開けなさい」


ジュリー様の声の調子が低い。これには小声で応えざるを得なかった。


「わ…私を脅そうっていうんですか!?」

「そうですわよ」


ヒエッ、と喉がなってしまった。今まで考えてたことを全部忘れるくらい、怖い。


「だって、私、どちらかといえば悪い貴族ですもの」


何かの魔法でドアが勝手に開けられてしまった。慌てて顔を隠すように毛布をかぶる。


「リリー、貴女のやったことは私たち四人しか知りませんわ」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。あのような緊急事態でしたから、誰も気づいてはいなかったようですわ。狼が魔法を使ったという噂はありますけれど」


そんな都合のいいこと…いや、この説得には穴がある。


「それでも、私、セーリオと目が合ってしまいました。彼は自身の負傷の原因を知っています」

「いえ、今度彼に聞いてみなさい。彼は知らないと言いますわよ」


何か引っかかる表現だ。


「ジュリー様、ああ、まさか!」


ジュリー様は彼を金と権力で黙らせたのだ!これが、悪役の力!


「そして、ひとつ優しく教えて差し上げますと、貴女は私たちには弱みを握られたということですわよ」


ジュリー様と取り巻きふたりに。


「貴女、もう私からは逃れられませんわよ?それこそ一生」


体調が悪いのに、こんなこと言われて、私は狂ってしまいそうだった。


「だから、元気になって頂戴」


毛布の上から腕が回される。誰の、この温かみは誰のもの?体温。あまりの感情に意識が遠のいていく。そう、感情が限界を超えている。


こんな、ジュリー様と折角二人っきりなのに意識を失ってしまうなんて、あまりに勿体ない…。

(四月の八と十の間)

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