二章(一年目六月の六)
普段通りの時間でも、環境がリゾートになるだけで生徒たちは興奮ぎみである。わ、私もそうだった…。ジュリー様の部屋が、部屋が私の部屋の隣だなんて!ジュリー様側の壁に寄って寝てしまった。ジュリー様のくぐもった声が真夜中より前は聞こえたので、よく眠れなかった。ひどい話である。
でも寝息は聞こえなかった。
ジュリー様が最上級の部屋なのは当然。この国指折りのお嬢様ですから!
朝食はレストランで頂きました。食べすぎないように注意したけれど、最高級の料理でついパンの枚数を増やしてしまった。食べすぎですわと笑われたから幸せになれた。
そう、取り巻きCのことはあまり見ないようにしつつ。あれだけ、最低限マナーは守りつつも栄養を積極的に吸収していく様は賞賛されるべきかもしれない。普段はふわふわしてるCがあんなに必死な顔なのは初めて見たかもしれない。
『魔法に関係する生物の実習」は午前中が終わり、今は午後の魔狼狩りである。杖に攻撃系統の魔法式を構成しておき、魔狼を狙い撃つ。(必要ないけれど)護衛と私たち四人とで、樹木が点在する場所を移動し、魔狼を探して倒す。この周辺は丘が多く、見通しが効きにくい。魔狼の牙が特殊な物質で、護衛がそれを採取してくれる。護衛はジュリー様の強さに慄いていた。まあ、これは魔法に関係する生物について学ぶのが目的という授業なので、牙を採取し、魔狼の攻撃を見れたなら、後は適当にやっていてもいいものである。
しかし、馬に乗って先生がこちらへやってきた。纏う雰囲気が緊迫している。何かあったのだろうか?
「強力な魔狼が現れたので、授業は中止だ。ジュリー様の班もホテルへお戻りください」
先生と護衛が会話している。ロイドという大狼がこの周辺の地方を荒らしているという話は、私も聞いたことがある。
「もう少しジュリー様と歩きたかったのに、不幸です」
「あら、それなら街を歩きましょう、きっと楽しいですわよ?」
私たちは、そんな平和ボケしているようにも取られかねない会話をしていた。例の(騎士志望の美青年)セーリオの班とも合流でき、帰ろうとしていた矢先である。
先行する護衛が窪地の前で急停止した。様子がおかしい。ジュリー様の質問。
「どうしましたの?」
「…魔狼の大群です!」
「早く逃げろ!」
こちらからは狼なんて見えなかったので、対応が少し遅れた。しかも大群って。強力な狼が集団を率いるのは当然だが、大群だとは思ってもみなかった。迂闊!
「ジュリー様!」
「吹き飛ばしますわ!」
窪地から上がってきた群れにジュリー様の魔法が衝突した。数匹が空中に跳ね飛ばされる。しかしその後にも途切れずに狼が上がってくる。ジュリー様の杖は材質も超一流、魔法式を十本覚えさせることができる最高級のものである(私の杖は三本)。しかし、今、軍団に対する魔法は覚えさせていない。こんな集団に遭遇すると思っていなかったから。
本当は正面から叩き潰せる火力があるのに、これは、少し後退するべきかもしれない。
私たち四人は固まっているが、他の人々はばらばらに逃げる。杖を構え、自身の周囲に攻撃しつつ逃げる護衛、一目散に逃げる生徒…。
怪我人が出なければいいけどな〜。そんなことを思っていた私は、自身が無意識に、他の生徒に攻撃魔法の照準を合わせていることに気づいた。
「えっ?」
私も驚いたし、彼も驚いている。私は必死に自分の利き腕を押さえる。しかし、奇妙な間の後に、彼は地面に倒れる。
私の頭の周りを何かがぐるぐるしている気がする。それはセーリオを殺せと囁いている。
次数日後に




