二章(一年目六月の三)
久
「いーち、に、さん、し…じゅう。
いーち、に、さん…にじゅう。
さんじゅう。よんじゅう。ごじゅう…
そこまで聞いて、私はようやく離れ始めた。せっかくワンフロアを使って遊んでいるというのに、これではその利点を十分に生かせない。それでも、私は聞いていたかったのだ。魔法は禁止だし。
ジュリー様の声!瞳を閉じたジュリー様のかんばせ!その瞼がゆっくり開くところまで見ていたかったが、さすがにそこまでやる気のない態度だと怒られてしまう。
私は広間の像の裏側に体を滑り込ませた。ここにある像は、その見た目の悍ましさで新入生を竦みあがらせる。精巧に作られたばけもの。取り巻きBとかもつい先日顔を青くしていた。キャー怖い怖いっなんていっても、私の祖父の部屋の三つ目の怪物ほどではない。あっちは古さが恐怖を助長するのだ。
あの本では、この目玉まみれの異形が最後の方に登場する。なんと、ここ学院の地下最奥に封印されていたのが、その体を捻って這い出てくるのだ!このことを知っていても、あまり気味が悪いとは思わない。今は実感もなければ害もないからだ、私は合理的なのだ。
この事実を知っているのは、学院でも私と一部の教師だけなはず。この知識で、なにか悪いコト、できないかな?
それはともかく、今は進行中の遊戯、隠れん坊(hide-and-seek)に集中しよう。といっても、ジュリー様は反対側、取り巻きBが逃げてった方に行ってしまったようだし、何もすることがない。新しい隠れ場所を探す?私は最後に見つかるのならば、なるべく早く見つかりたい。
…この勝負は、ジュリー様が入手した茶菓子の最後のひとつを賭けて、取り巻きABCに対して執り行われています。元はと言えば、誰かが図書館で「隠れんぼしたい」と言ったのが事の発端でした。お菓子は取り巻きBが推薦したものだったっけ。悔しいけど、もっと食べたい。
あ、足音が聞こえる。廊下を去っていく、誰だろう?覗いて確認する?
音を立てないように動いたのが仇となったか、覗き込んでも、もう誰もいない。私は像の裏側に戻ろう。
あれ、また足音だ。妙に大きい。というか、鎧のような音がする。しばらくすると行ってしまった。一体誰だったのだろう?
不意に部屋のドアがすばやく開かれた。取り巻きBだ!様子がおかしい。顔が青く、息も荒い。
「何かあったのですか?」
「リリーさん、大変です!変なんです!鎧が、勝手に歩き回っているみたいで…」
「取り巻きCでは?」
「いえ、空洞のようでした」
Bの頭をなでて落ち着かせる。この誰もいない校舎で、私たちは時間が止まったかのように寒かった。




