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二章(一年目五月の七)

目の前の学生はもうすっかり人ではなくなっていた。その姿は、蔦が複雑に絡まり、表皮を覆い隠した樹木を連想させた。これもまた、魔物。ジュリー様、私は、法で裁かれるべき相手を、魔物にしてしまったのでしょうか?


植物は私に、その指のような蔦を伸ばす。魔物であるならば、私への害意を例外なく持っているのだろう。


しかし、私は火属性の魔法を扱えない。この植物と化した対象を効率的に処理できない。精神的にも、動揺してしまっている。あまりにも異常なことばかりだ。癒しが欲しい。


様子見で、相手が生きている可能性も考えて腹に穴を穿った。この風魔法も決して弱い威力じゃない。肉の部分が残っている存在だったら、致命傷だったかもしれない。ああ、複数の考えのせいで行動がちぐはぐ。


予想通り、相手は葉と蔓を撒き散らしただけ。もう完全に人間の肉の部分がなくなっている。そういう能力を持つ種だったのだろう。一体なぜそんな種が生まれた?いや、今は植物に対処を。


あれで足りないと言うのならと、充分な威力をもつ風魔法で両断する。杖にかなり魔力を込めた。床すら切り裂く威力、細い樹木ならば過剰ともいえる。ああ、やっと終わった…


「分裂?」


二つに分かれたその魔物の死体、力なく床に倒れるのみと思ったそれが、倒れなかった。倒れないばかりか、それぞれ完全に独立した動作でもう一本の足と手を形作る。


「まずい」


倒し方がわからない。ドレインでは不十分、風では足止め…移動補助の風魔法は杖に記憶されてたっけ?


「逃げないと」


判断が遅れた。行動速度で魔物に軍配が上がるのは当然。伸ばされた蔦は、私の指先から腕へ螺旋を巻いて這い、私を絞め殺そうと周期的に圧迫する。それは、引きちぎろうとしても、より太くなっていく。


「っ、ならば肉薄して攻撃を」

「リリー、貴女は優しすぎです。最初にひと思いに殺して仕舞えばよかったのですわ」


片方の人型植物のいた場所に、火柱が立った。圧倒的な火力で、私の息まで焼け焦げたかのような感覚。燃焼が終わった床は真っ黒になっていた。当然、魔物なんて残っていなかった。


「もう一体は残しておきましょう」


ジュリー様は、新しく呪文を編む。輻射熱で枯れかけたもう片方の魔物に、軽く水をかけてから、


「少し封じ込めますわ」


ジュリー様の右手に持った木の枝が、異常にうねり、魔物を包む小さな球体となって残った。その速度は、魔物の蔦の成長速度すら凌駕しているように見えた。


私にはわからないことがあった。それを問う私の声は硬く、震えていたように思う。恥ずかしい!


「なぜ、燃やさなかったのですか」

「リリー、それは彼女を復活させられるかもしれないからですわ」


それは、私には思いもつかないことだった。ジュリー様は、私が(事故とはいえ)人殺しになることを防いでくださったのですね。全く、ジュリー様の視野は私よりはるかに広い、ご冷静でいらっしゃる。


それは、少しは私の心にとっても救いになることでしょう。


「まあ、復活は難しいことだと思いますわ。…それに、折角実験道具を揃えたのに、実験を行わなかったら怪しいでしょう?」


そう、あの種はひとつしかなかったから…ジュリー様は、あの種のために用意した実験道具で、この魔物を調べるらしい。


「彼女の親族になんと伝えるかは、これから考えますわ。だから、安心なさいな」


私は、私を拘束していた椅子に座り込んだ。ああ、そうか、ジュリー様は椅子か、私の手首に残った跡を見て、何が起こったかを予想されたのだろう。ひょっとすると、あの強力で過剰な火の魔法を放つ前に、すでに。


「貴女が魔法で負けるなんて、一体相手はどのような手を使いましたの?」


私は、ジュリー様と一緒にいられて幸せです。

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