二章(一年目五月の五)
ざあざあ降っている。
あの本の筆者は(いるとすれば)『五月雨』という表現を時折使っていたが、私たちの国では、この季節に長雨が来る、といったことはない。くもりが多い。そのはずなのに。
陰鬱な雰囲気。暖炉で温まりたい。
窓の外で慌てる人々。夕暮れの空。時間が重く、止まっているように流れていく。
せっかくだから、この気持ちを理解してもらおうと思った。一心不乱に辞書を捲っていくジュリー様に声をかける。
「ジュリー様…」
「あら?今、あの子の声が聞こえたような」
「ジュリー様!」
「リリー!?いつからそこにいましたの?」
やはりジュリー様は私に気づいていなかったらしい。静かに入ってきたからね。少し動揺しているジュリー様も、愛おしい。
「ジュリー様のあるところに、私もまた存在します。取り巻きですから」
「雨の音に紛れて現れたのかしら?そうでしょう?」
「当然そう解釈することもできます」
そう、私は雨とともに現れた。私は恵みの女神。
「憂鬱な雨ですわね」
「夜になったら、一緒に帰って頂けませんか?雨に流されてしまいそう」
「我の強い貴女は大丈夫でしょう」
そういう問題なのだろうか。
「夜の闇は孤独を齎します」
「それは、貴女も安心でしょうね」
「ジュリー様には、私の存在を観測し続けて頂きたいのです」
「あら、珍しい。やけに心配顔ですわね。仕方ありませんわ」
私たちは、小雨の夜の中に帰った。ジュリー様の護衛者たる従者の方々にはちょっと迷惑だったかも。でも、飛び道具や毒に私は対処できないからね。
ジュリー様は、こんな時間まで必死に勉強していたのを、同級生には隠したかったのだろうなぁ。でも、私はあえて踏み込んだ。それは私の心の為でもあったけれど、努力を止められないジュリー様が少し辛そうに見えたというのも〜、あと、ジュリー様を孤独にさせないよう〜。なんちゃって。これは、私の我儘でしかないよ!
いやぁ、驚くジュリー様は新鮮でした。




