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二章(一年目五月の四)

微かな気配の元、それは小さい方の妖精。見逃された妖精。金髪で、緑色や青の渦巻の模様?そんな感じのワンピースを着ている。


「…あなたは…」


私を見た記憶があるらしいが、それ以上に、弱っていて喋れていない。妖精さん、あなたの記憶の中、そこにいらっしゃるジュリー様の隣には、私がいるということでしょうか?


妖精を手の上に乗せる。妖精の扱いにしては、ちょっと大胆というか危険かな?妖精学の記憶が蘇る。先程より、はっきり目が覚めたらしい、妖精がちいさな口を開いた。


「わたしは、お姫様にあいにきたの。あなたも、しっているよね」

「お姫様…ですか?」


王子の妹というか姫は私の学年にはいない。多分来年入学する。そして、私は彼女を遠目にしか見たことがなく…って、知ってるよ!多分ジュリー様のことなんだろうな!やはりこの子も取り巻き候補か。


「このへやから、お姫様のにおいがしたから、わたしは、お姫様にはいえつするきょかをいただこうとおもい、きのうからここにいました」


やはり、この妖精は幼い。『拝謁』は片言で、ぎこちなかった。さて、この妖精と仲良くなるもよし、見なかったことにするのもよし(学院から出られず魔力不足で消滅するはず)、恩を売るのもよし。気に入られないように注意する。まあ、ジュリー様を見てるなら今更他の人間のことなんて考えまい。私が選んだ選択肢は、


「彼女に拝謁する許可は、少し私と会話をしていただき、与えられるか判断します」


とりあえずお話をしてみる事。


昼間の教室の窓は明るい。少し円形に歪んだ透明なガラスが日光を通しているが、この教室は外から見える場所にあるのだろうか。「窓を開けるな」という張り紙が目につき、不思議な寒気を感じた。


「お姫様は、ほんとうにお日さまみたいにおおきいので、あいたいのです」

「そうですか。私も、彼女の魅力は大層なものだと思います」


「ところで、あなたはお姫様に謁見してからどうするのですか」

「えーっと、お姫様にごほうびをあげて、それから、おうちにかえる!お姫様もきてくれるといいな〜」

「…!おうちは、どこなのですか?」

「おうちはね〜、きれいなもりだよ?どうやっていくのかというと…」


妖精は戸惑ったように言葉を止め、それから顔を歪ませた。ああ、やっぱり。この妖精は、迷子。


「おうちのいきかたが、あの、わかんない!ええっ、どうしよ、おうちかえれないよ?お姫様にあいたかったのに、あってもおうちがわかんないよ!うっ、うっ」


ああ、これは泣き出す。そう思った瞬間、妖精は泣き出した。正直騒がしく、このまま廊下なんて歩けないし、どうも疲れる。私がちょっと得意な魔法を使いまーす。うーん、組み立てに集中できない。


「ドレイン」

「え、ちょっとなにするの!?おねえさん、えーっと、えい!」


え、私がもう一人!?こんな魔法は知らない!この妖精は一体…。ドレインを強めないと!でもとりすぎたら消える、それは研究家としては惜しい!


妖精はのびたけれど、妖精が出現させたハリボテの私も消えてしまいそう。ちょっとポケットの中を見たい!ふむ、中は真っ暗と。やはり完全に私を再現しているわけではないか。いや、何で出したの?時間が経ち、消滅。歩きながら考えるかな。


妖精を手のひらにしまい、足早に教室を出る。三度同じ方向に角を曲がり、角を曲がり、角を曲がったところで元の廊下を観測する。戻ってきた。私は妖精を森に返そうと思う。つい、ドレインしてしまったけれども。敵対したくはない。


というか、普通の妖精ではない。心持ち姿も大きい気がするし、明らかに五大属性に含まれない魔法を使っていた。しかもジュリー様を家に誘うと言った。妖精らしい上から目線で。かなりまずい。いや、現在も籠の鳥を封じ込めているジュリー様なら大丈夫か。しかし、知られていない魔法というのはそれだけで強い。さっきの魔法も目的こそわからないが、私の大切な人を再現し、私の魔法に対する盾として使ったら精神ダメージが見込めるだろうし。


ジュリー様は、偽物の私を殺してしまったら、傷ついてくれるかなぁ。


そんなことを考えていたので、私は例の女学生が私につきまとっていることに気づけなかった。まあ、最終的には無意識に撒いていたらしいが。


学院の中でも森はある。そこに、この妖精を捨ててこよう。いや、預けてこよう。そう思って森まで来た。森ならば妖精の魔力も回復し、帰る手段を探せるだろう。ところで、私もおどかされたんだし、ちょっとぐらい妖精を触ってもいいだろう。神秘的な細い脚。柔らかいほほ。ひゃっほい。かわいい。


妖精を守るよう、丁寧に草を編み、魔力を編んで揺籠とした。後は、周りの風を乱し、目を覚ました妖精が私を追跡しないようにした。


さて、ジュリー様に会いに行こう。


ジュリー様は魔道具を説明していた。


「この転写した式に魔力を流すのですわ」

「はい!うう…うまくいきません」

「リリー、貴女からちょうど良さそうな魔力を感じますわ。試して御覧なさい」


私の妖精から奪った魔力は、初めてみるはずの式にうまく変換されていった。


授業へ移動する前、ジュリー様に目配せされた。二人だけで話す必要があるみたい?風の糸電話で時間を相談しなきゃ。あ、妖精が私のハリボテを出した理由って。


もしやハリボテの中に入って、自由に手足を動かせたりするの?事実上の変身能力?他人に成り変われる!ジュリー様の皮を被った化け物がいたら、私泣いちゃう。


あー、まあ、言葉で分かるか。今は。

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