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二章(一年目五月の二)

私は、世界の仕組みが変わってしまうような出来事を望んでいる。


この世界とはまた別の世界が存在するという考え方は一般に広く検証されており、妖精界の存在は確かではないが、可能性としては十分にありえるのだそう。また、冥界ははたして存在するのか。私は、永遠の命や不老不死は恐ろしいと思う。故に、理想郷では任意の年月日に死亡できるという画期的な考えを初めて知った時には、共感を覚えた。


あ、世界の仕組みの話ですね。話が飛躍に飛躍を重ねていた。反省です。私のいる世界にはさまざまな制約があり、例えば『発動した魔法を魔法式への干渉で止めることはできず、現実に起きている現象への干渉で元に戻すことはできる』など。だから、魔法で出した炎は魔法を使わず(風や水で)止めることができるし、魔力の多いジュリー様らが強大な現象を発現した場合は誰にも止められない。


ただ、発動前なら妨害はできる。ジュリー様には通じないけど。


他にも制約として、『時間は魔力をもつ物体には少し遅く流れる』というのがあるらしい。正直私にもよくわからない話。『生命は寡多の差こそあれ魔力をもつ』というのもあって…。ちょっと眠いなぁ。いや、かなり眠い。


そんなことを考えていたからか、変な夢を見たというのが今日の私だ。そう、その世界では、私は魔力の多い人間を完全に認識できないのだ。つまりどういうことかって?ジュリー様のお体が半分くらいしか見えない。触れられない。でもそれを私は当然のことのようにとらえていた。夢だからね。


私は魔法学院の正門でジュリー様を待っていた。私は、大半の学院生の全身を見ることができるが、第一王子やダルクやセーリオ(女装以来!でもよく考えずともこれは現実ではなかった)らの全身は見ることができない。第一王子などは特に顕著で、頭を除く上半身が見えない。もやがかかったような、あるはずなのに理解できない感じ。


「リリー、ごきげんよう」

「ジュリー様!」


接近に気づけなかった。私もまだまだですね。それからジュリー様と授業を受けた。ジュリー様のお体は見えない部分が移り変わり、それでも右手はどうしても見えなかったので、何かナイフなど危険物をジュリー様が右手にお持ちでも、私はそれに気づけない。


休み時間に、ジュリー様の右手のもやに教科書が吸い込まれたので、たぶん何も持っていなかったんだとは思うけれど。


授業の後は昼食。ただ、この日はいつもと違う場所だった。私とジュリー様だけで食事を摂っていた。メイドもいない。取り巻きBCも、用事があるのだという。古風で人気のない、かなり上の階のレストラン。学院にはレストランがいくつもあるが、私はここを知らない。窓から見える人々は異様に小さい。


「ジュリー様、このクランブルは美味しいですね」

「そうですわね、リリーの食べたことのない味だと思いますわ」


落ち着き払ったジュリー様の口元が見えず、私は表情を確信できない。なんとかジュリー様のお顔を拝見したく、しばらくちょこまか動いているとストロベリーのアイスをこぼしてしまった。私のスカートに。


「あっ!失礼しました!」

「リリー、立ち上がらないで。溶けて広がりますわ」


あまりの失態に頭が回らない。少し経ってもまだキャパオーバーだ。ジュリー様に幻滅されたよね。ナプキンを取るとアイスがこぼれてしまう。


「私が拭いて差し上げますわ」


ジュリー様が右手にナプキンを持って、私に一歩近づくたびに、私にはジュリー様のもやが大きくなって見えた。そしてアイスが拭き取られていく。その時点で、ジュリー様の顔以外はほとんど見えない。私には何かが触れている感覚もないのに、アイスが拭き取られていく。ジュリー様が手でナプキンを持っているのか、肘に巻きつけているのかもわからない。いや肘ってどういうことですか?


そんな夢だった。


それで、起きた私は、もやをまとったジュリー様のもやの部分を空想した。もしかしたら、早着替えで私の知らない服をお召しになっていたかもしれない。そう考えると、この夢が非常に新鮮な体験のように思えて、冒頭の結論に至った。


すなわち、私は少し変わった世界が見たい、と。


あれ、ジュリー様の夢を見たいだけでは?

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