一章(一年目四月の十二)
休み時間、私たちは食事をしていた。学院内でも食事のできる場所は多い。寮があり、食堂もあり、広い庭やテラスもある。仲の良い教師の研究室なども…。
私たちは、たいてい庭のテーブルで食事をしている。この庭、魔力の強さがある値を超えている方がいないと入れないんだよね。そして、レストランに出かける王子や研究狂いの教師などが利用することもなく、つまりはジュリー様のみがこの先への道を拓ける。
なんでこんな仕組みなのか?わからない。新入生が迂闊に入ろうとして弾かれるのは、もはや様式美だ。でも、私たちが使っていることを知っている人は少ないかも?
今日は天気も良く、春の陽気が温かい。平和な日だ。私たちは午前の授業について話す。
「あの内容、魔法の構成に関しては最適ではありませんわね」
「そうですね。前の式を繰り返せば、より簡潔に魔法を発動できます」
「妨害されやすくはなりますけれど」
「仰る通りです」
魔法を封じることはできなくとも、ジュリー様の言葉のとおり、魔法の発動を妨害することはできる。
「でも、妨害には高度な魔法の知識と高い適性が求められると聞きました」
「そうですわね。相殺や回避が戦闘方法の主とされる所以ですわ」
淀みない受け答えは、さすがジュリー様としか。
「あ、お姉様…ジュリー様、先日のスコーンはお気に召されましたか?」
「ええ。リリーのお陰で、よいひとときを過ごすことができましたわ」
それはそれは。隠し味も気に入って頂けたのなら幸いです。作ったの私じゃないけど。
「お姉様呼びがまだ抜けていないのですか?リリーさんの甘い所ですね」
「ええ、つい」
ちいさな取り巻き仲間に敬語でからかわれ、少し恥ずかしい。
「四月もいろいろなことがありましたわ。皆様、ぜひ辛いことなどありましたら、この私を頼っていいのですわよ?」
これは、明らかに悩みがないと推察した上での問いなのだろうが…。
「ジュリー様、どうしたらジュリー様になれますか?」
「リリー?」
ふと悪戯心からそう問うてしまった。普段しないような、切なく苦しいような表情をしてしまった。色々間違った気がする。
「リリー、貴女は私を偏向なく見ることができるでしょう?それだけで、私を知るには十分ですわ。そして、貴女には偽る力があります」
このちょっとひねった言い回しが、ジュリー様の丁寧にひねられた髪の毛と対応しているということ?自身がどんな人間かは、自身が見せている行動だけで伝わるというすごい自信。だじゃれみたい、ジュリー様に頭を覗かれたら幻滅されるかも。
そして、ジュリー様を理解できるなら、私はジュリー様みたいに振舞える、と?ジュリー様は、私を随分と買ってくださってるなぁ。あれ、何かまずいことにも解釈できるような…まあいいか。
「ありがとうございます、ジュリー様」
お陰で今日も生きていけます。私の望みは、この世界で多くの名シーンを目撃すること。その結果ジュリー様に咎められようと、そうするだけ。うーん、いや、しないかもしれないけど。
「さて、今日はあの平民に除霊を依頼しますわ」
ジュリー様は立ち上がる。
「貴女の品はどうかしら?」
私は鞄から箱を取り出す。
2/26 ジュリー様が言葉足りなくて不親切なのを修正




