一章(一年目四月の十)
あ〜、ようやく逃げ切った。逃避行で思ったより時間が経ってしまった。もう空は赤い。さらに、来た道もいまいちわからない。走っての移動で、頭が回らない。
しかし、全く見覚えのない区画だ、結構追っ手も頑張ったのだろう。目の前にあったアンティークショップが、魔法を用いてか急に光を灯して輝くのが見えた。
ふと、道端に置かれたランタンに目が引かれる。なんの変哲も無い、どこにでもあるようなものだ。いや、何かが違う気がする。気になる。少し考えたが理由も分からず、私はその場を後にした。
ようやく何とか地図を見つけて、移動用の馬車に乗り込むことができた。
いや、今日は良い日でした。素晴らしいものを目撃させていただきました。あの本と学院と…全てに感謝。今夜はよく眠れそうです。
さて、今日の授業を受けよう。妖精に関する知見を得ておくと、ジュリー様の質問にいち早く答えられるでしょう。答えられれば評価されるでしょう。評価されれば…!あ、また授業から意識が逸れてしまった!
次の授業。本が多くて重くて移動が間に合わないかも?魔法で移動補助…あれ、作りかけの式が杖に記憶されてる。式の内容が気になったが、それは後にして移動しなくちゃ。今日は、ジュリー様の対面の席に座りたいのです。
未公開ならびに閲覧不可になってる魔法かぁ。私たち魔法使いは、既にある言葉を並べかえて、新しく調整した魔法を使うことができる。でも、新しい言葉を知ることができなければ、使える魔法は限られる。例えば拷問に関する魔法のための言葉は拷問官しか見れないし、魔法を封じる魔法のための言葉は見つかってない。えーと、他人を洗脳して操る魔法も言葉が未発見かなんかで使えないらしい。あれ、それは昔は知られてたけど失伝したんだっけ?いや、失われたのは大爆発の魔法だったかもしれない。いかにも失われそうだし。あとは、記憶を消す魔法も…。
「洗脳の魔法…私たちだけ使えれば便利ですわね」
ああ、板書以上の内容を含むため字が雑なノートが、横のジュリー様に見られた!丁寧に書けば綺麗なんですよ!
「第一王子を洗脳して…王家の魔法を…」
「ジュリー様、そんなこと囁かないでください。ジュリー様はさておき、私は捕まってしまいます」
動揺からジュリー様相手に強気な発言をしてしまった!ジュリー様がお怒りになって、私をとらえてしまうかも。本望です。いや、むしろもう遅いですね。
「それなら、リリーにかけようかしら。普段から何を考えているのか教えていただきますわ」
「いえ、そんな大層なことは」
わああああ!それは、それは的確な使用法すぎて怖いです!嬉しいです!目が一瞬開いたり体温が上昇したりしちゃったの、視認されたかな?いや、体温は視認できないよ。




