一章(一年目四月の七)
悪か悪役か
きょう、わたしはとってもきれいなお姫様にであいました。
きょうはおでかけの日だったので、わたしはお母さんとまちにいきました。まちにはお花がたくさんあり、わたしはたくさんめうつりしました。
お花のなかに、ふしぎなくろい花があったので、わたしはちかづいて見ようとしました。ですが、くろい花はわるいお花だったのです。お花のつぼみがわたしの手をかもうとひらいたので、わたしはびっくりして大きな声を出しました。そのとき、わたしはお姫様にであったのです。
少女は花の奥にひとりの令嬢を見た。目の前に迫る危険よりも、その奥のたったひとりの女性に目を奪われたのは、その華麗さ故だろうか。それとも、彼女の魔力に本能的に惹かれてだろうか。襲いかかる黒い花よりもはるかに早く、令嬢は魔法を組み上げ、放つ。
放った魔法は瞬く間に黒い花の水分を奪い去り、枯れさせて塵へと還した。さらに、もう一つ魔法を。誰も気づけないような早業。そして、休日で多くの人通りがあるため、少女はあっという間に令嬢を見失ってしまう。白昼夢のような一幕。
「ジュリー様、今すごい早さで魔法を使いませんでしたか?」
「あら、私はたった一本花をつみ上げただけでしてよ?そんな大した魔法は使っておりませんわ」
「ジュリー様…!」
華のある令嬢に話しかけた、どこにでもいそうな見た目の令嬢はひとり呟く。
「またジュリー様の気まぐれで、取り巻き候補が誕生してしまったのかも…」
平凡な令嬢は、表面上は取り繕っているどころか内心を微塵も感じさせないが、心の中ではその「候補」に大人げもなくひどく嫉妬していた。羨ましい、私も記憶を失って最高の出会いを全身で味わいたい、そう思っていたが、幸い誰もそれを知ることはない。
お姫様は、ふしぎなことにいつのまにかいなくなっていました。そういえばお母さんも、いつのまにかどこかにいってしまいました。それはかなしいけど、あのお姫様はぜったいに、お花のお姫様で、にんげんの世界におりてきていたのだとおもいます。
いちにちたっても、お姫様のことがわすれられません。きっと、あのととのったかみの毛には、お日さまのにおいがしみこんでいるのでしょう。お姫様にあいたいので、わたしは明日、のはらのお花を見にいこうとおもいます。お花のお姫様は、きっととてもやさしくて、きっと今もみんなに笑顔をふりまいているのです。
「どうしてもわからないのですが、ジュリー様、なぜ片方の妖精を助けたんですか?」
「それはねリリー、小さな妖精は、成長しないと使えないでしょう?」
美しい笑みを浮かべた令嬢は、手元の小さな檻を一瞥した。




