4.時間遡行
俺はいつの間にか宿屋のベッドの上にいた。
ギルド部屋借りる前に戻ったのかい!
いい天気だ。
今日は何日だろう?
この部屋を借りてるってことは、街の傍の川にいってワニを倒してる頃だよな。
2階から降りて1階のギルド受付で確認する。
ここ数日、ワニばっかりだったからそんな差はないよな。
ギルドを出ると何かが後をついて来てる気がする。
あ、これはもしや?
普通に街の門から出ると見せかけて、立ち止まる。
やっぱりあの子だ。
念のため『千里眼』で見てみると名前はアレン、職業は『なし(勇者かも?)』になっている。
どっちなんだ?
睨んでいたら目をそらして街の中に戻っていく。
うーん?あいつ勇者なのか?
悩んでいたら別の冒険者が門をくぐったのを確認して横道に走っていくようだ。
おや?これはもしかして?
毎回危ないと言われつつ、門番が通すわけないと思っていたらやはり隠れ出入り口があるようだ。
そっと後をつける。
塀の継ぎはぎ部分の石が一部外れるようになっており、そこから出入りしていたようだ。
大人は入れない小さい穴だ。
俺は早速門番に報告して穴をふさいでもらう。
さらに子供では動かせない大きな石を手前においておく。
これでむやみに街の外へ出たりしないだろう。
ほっとしていたら、冒険者たちが外に出てしまったアレンを連れて帰ってきて、仕事にならないと文句を言っていた。
相変わらず『勇者かも?』のアレンはワーワー騒いでいる。
親はどうしてるんだ?
「あの子は貴族の子なので苦情が言いにくいんですよ」と門番の衛兵さん。
「でも怪我したら野放しにしてる親の責任じゃね?」
「何故か街の外に出すほうが悪いと怒られるみたいで」
「ひでーな」
「とばっちりですよ」
想像以上にひどい親だった。
バカな親を持つと子供もバカになるのか。
俺は前回と同じくギルド部屋を借りにいく。
まだ掃除は依頼してなかったので、最初は自分でやらなくてはいけない。
また最初からはじめるのかよ。
ムカツク。
◇
翌日。
いつも通りワニを狩りにいこうとしたら、街門で衛兵に捕まる子がいた。
「どいてよ!とおしてよ!」
ああよかった。
門を通ろうとするならちゃんと止めてもらえるんだ。
これで成人になるまでは生き延びるはず。
なんて甘かった。
こいつがそんなことであきらめるはずはなかったんだよな。
ギルドから出てくる優しそうな冒険者の足に絡みついてツレテケーって泣きわめくようになったんだ。
捕まった冒険者、ご愁傷様。
多少迷惑でも街にいるのなら安全だ。
そう思っていたら、猿ガキを蹴とばして剥がす冒険者続出。
他人の子供を蹴とばすなんて俺には理解できない。
が、アレンの力は相当なものらしく足が折れそうな勢いなんだそう。
獣に襲われた人間のような気持になるのだろう。
貴族様から「うちの子が蹴とばされた」とついに苦情がきたんだそうだ。
うわぁ~めんどくせー。
貴族なら猿ガキ一匹野放しにするなよ!
ギルドに来るたび何度も転ぶように魔法をかけるようにした。
貴族様から「うちの子が怪我してるのに放置ですか」とまた苦情がきたんだそうだ。
親バカすぎるだろ。
さすがのギルドも「逆に危ないから入らないでください」と注意したそうだ。
貴族に命令するのかとまたまた逆切れ。
「子供を放置する貴族がいる」とギルドは逆に王家に訴える。
「ちゃんと保護して家に無事に送り届けること」と上から目線の返事。
俺はこっそりギルド職員に提案をする。
提案通りちゃっかりと『送り届ける仕事』として請け負ったんだとか。
だって王家からの指示だもんね。
猿ガキ捕まえて家に送り届けるだけで1銀貨。(=1万円)
美味しい仕事だ。
Fランクの新しい仕事として皆に追いかけまわされる『勇者かも?』のアレン。
いい仕事ができたし、猿ガキは安全だし完璧だよね。
そして毎日どころか1日に何度も請求が来ることで、貴族に指導が入ることになりそうだ。
送り届けちゃ、また逃げ出してるんだから当然だよね。
猿ガキの足も丈夫になるし、がんばれよ。
◇
職業をもらったので『成人の儀』に行く必要がなくなった。
神の使い初めてのグッジョブ!
千里眼で見る俺のステータス。
◆◆◆
名前:リュウ
種族:人族
性別:男
年齢:17
職業:剣士
ランク:E
スキル:剣術、言語取得、身体強化、千里眼、命中、弓術
称号:勇者を守るもの
◆◆◆
子供の安全も確保できたので俺は次の仕事を探す。
毎日ワニを捕まえてたので激減して見つけるのが大変になったためだ。
ちょっと遠出してスモール村のハチ退治に出かける。
魔獣なのででかい。一メートルもある大型のハチだ。
通常はウサギ辺りを狙うらしいが、最近一部が民家のコッコと言われる鳥を狙うようになったんだとか。
コッコはニワトリのような飛べない鳥で卵が美味しい。
逃げ回るウサギよりも柵の中で逃げ回る鳥のほうが断然狩りが楽。
なのでハチが民家に来たら倒す依頼だ。
体が柔らかいので当たれば弓でも倒せる。
<命中>スキルがいい仕事してくれた。
しばらくしてハチ3匹まとめて飛んでくる。
1匹は弓であっさり倒す。
残り2匹が怒って追いかけてきたので、逃げながら弓でもう一匹射る。
残り1匹が猛攻撃をしかけてきた。
ハチの毒針だ。羽の風で俺の体が吹きとばされたので当たらなかった。
あぶねぇ。
剣を向けたら向かって来たので、そのまま滑り込んでハチをかわしつつ蹴り上げてみた。
ブ、ブブブブ。
ハエみたいな音を出す。
そのままあっさり剣で突き刺した。
これで終了かと思いきや、また来たら困ると言われた。
屋根でも付けとけばといったら、広すぎて大変だと言われる。
「ハチより小さいコッコがもぐりこめる場所をいくつか作っとけば
コッコもバカじゃないから逃げるんじゃね?石で囲んでおけば安全だ」
なぜか感謝される。
普通気が付くだろ。この世界の人たちなんかおかしいぞ。
村長に確認してもらえないかと言われたので、話して了承してもらう。
新しいことをするのにそこまで慎重になるのか?
この俺の見立ては正しかった。
平民の大部分は余計なことをしないようにと常に教育されている。
昔の俺。ブラック企業の戦士のようだ。
だからこそ危険だけど自由な冒険者が大人気なのかもしれない。
◇
翌日はコッコの避難所作成を手伝う。関わったからには最後まで。
きっとこの性格のせいでブラック企業から抜け出せなかったんだろうな。
食費や宿もラージ街と比べたらかなり安い。
長期間滞在するなら村のほうがいいかもしれないな。
多少保守的でも、冒険者なら大して関係ないだろう。
そして可愛い女子たちが作業している俺にむかってニコニコと手を振ってくれるんだぞ。
最高だよな。
まあでも定住するならもう少しこの国を知ってからだよな。
俺は部屋のあるラージ街へと向かう辻馬車で帰っていく。
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