黒歴史『太陽神黙示録』は従妹の幼稚園児を救う。
3話で完結で書き上がってますのでサクサク投稿します。
「ハルキおにーちゃん、ただいま!」
その声に振り向くと従妹で幼稚園児の日佐倉陽茉莉が俺の胸に飛び込んできた。
「えへへー、久しぶりのハルキおにーちゃんのにおいだっ!」
そう言いつつ俺のお腹に顔を埋めてグリグリする陽茉莉。
「おいコラ、やめろよ!」
俺は人目を気にしながら陽茉莉を引き剥がす。
だってお腹にあった顔がだんだん下の方に移動していくんだぞ。
このままだと幼女に下半身を触らせている変態になるからな!
「何が久しぶりだよ?昨日会ったばかりだろ?」
陽茉莉の家は俺の住んでいるアパートのお隣で、従兄である俺の家に毎日のように遊びに来ているのだ。
というか、在宅勤務の俺がシングルマザーである陽茉莉の母親であり俺の叔母でもある霞さんから、午後3時には帰ってきてしまう陽茉莉の面倒を見るように頼まれているのだ。
「5年、ううん15年ぶりだよ!」
「5歳児が15年ぶりとかありえないだろ?前世でもあったのかよ?」
「前世はハルキおにーちゃんとヒマリンは夫婦だったんだよ!って思う!」
無邪気に微笑みながらそう言われて悪い気はしないけど、俺を誘惑するには10年早い。
霞姉さんなら大歓迎だけどな。
俺の母親は小さい頃に死んでいて、再婚した義母の妹が霞姉さんだ。
すごくプロポーションが良くて美人で優しくて、時々怖いけど俺の初恋の人でもあるんだよね。
霞姉さんは俺よりひとつ年上の25歳。
ちなみに俺、阪上陽輝は24歳で塾の経営者だ。
うちの塾はリモートで生徒に勉強教えているから陽茉莉の面倒を見ながら仕事をすることも可能だ。
何しろ陽茉莉はマセガキで俺の事が大好きだの結婚したいだの言ってくるけど、仕事中は大人しくしてくれているから楽なんだよね。
「んもう、その顔は信用してないな?」
「いや、当たり前だろ?前世のことなんか分かるわけないし」
「そっちじゃなくて、15年ぶりってところ!」
「その方がもっと信じられないだろ?」
「んもう、せっかく異世界に行って無事に戻ってこれたのに!労いの言葉とかないんですかあ?」
異世界?!
「へえ、異世界もののマンガでも読むようになったのか?」
「ラノベならとっくに読んでますよーだ!」
そうだった。
こいつは俺の授業風景を見ながら色んなことを覚えてしまう天才園児で、難しい自分や母親の漢字を書けるのはもちろん、高校生の授業内容まで分かるんだよな。
飛び級があったら有名大学に入れたかもしれんぞ。
「わかりましたっ!もうこうなったら証明するからねっ!」
そう言うと陽茉莉は俺の家の中に入っていこうとする。
「おい、鍵を掛けてあるからちょっと待てよ」
「勝手に開けるもん!『堅牢なる扉を守りし錠前よ!我が命に従いてその役割を終えよ!』」
ババッと両手を突き出したり上げたりしながら厨二なセリフを言う陽茉莉。
うわあ、まさか園児が中二病になるなんてな。
ガチャリ
「は?」
「開いたよー」
トテトテと俺の家に入っていく陽茉莉。
俺、鍵をかけ忘れてたか?
「ここなら、誰にも見られないから魔法使っても平気ね!」
「魔法って、さっきみたいなことする気か?」
あの恥ずかしいセリフとポーズを?!
「どーせ疑っているでしょうから、とりあえずこれ、異世界のお土産ね」
ドサドサドサドサ
目の前の空間からいきなり色々なものが降ってきた。
「アイテムボックスだと?!」
俺は驚きながら目の前にある剣を手に取る。
「重い…本物なのか?」
でもこの剣に懐かしさすら感じるのはなぜだろうか?
「少しは信じる気になった?」
「う、うん」
さすがにこんな手品はありえないと思う。
信じるしかないよな?
「じゃあ決定的な証拠として魔法を使うね!」
そう言うとバッと手を挙げ、陽茉莉の服装が幼稚園の制服から異世界っぽいものに変わる。
「『我は七曜の神を統べたる太陽の神ヒマリン!我が力は万物の成長を司る!』」
そ、その文言は?!
「『我が肉体よ、仮初の姿から解き放たれ、真の姿を見せよ!』」
シュババッと両手を下から上に振り上げた瞬間、陽茉莉の体は光に包まれた。
「…霞姉さん?」
目の前に立っているのは霞姉さん…ではない。
似ているがもっと胸が大きい。
霞姉さんもFカップ(なぜ知っているかは秘密)だけどそれ以上に大きい。
「これが陽茉莉アルテミット究極フォームの姿だよ!」
なんだその頭痛が痛い表現は?
「まさかここまでしてヒマリンのことを信じられないとか言わないよね?」
「いや、アイテムボックスの時点で信じたよ」
それにしても驚いた。
いや、それ以前に!
「陽茉莉!おまえ、その呪文どこで習った?!」
「この『太陽神黙示録』だよ」
「ああっ?!やっぱりかっ!」
陽茉莉が持っているのは俺の『黒歴史の集大成』。
絶賛中二病だった頃に作った秘密のノートだ!
「ハルキおにーちゃんがエッチな本を隠してないかベッドの下とかタンスの引き出し抜いた下とか探してたら、エッチな本と一緒に出てきたの!」
「そっちも見つけていたのかよっ!」
「ハルキおにーちゃんがロリコンじゃなかったのは残念だったけど、このノートのおかげでヒマリンは異世界で生き残れたんだよ!」
陽茉莉は幼稚園から帰る途中で異世界転移したらしい。
その時、陽茉莉の鞄には俺の部屋から持ち出した『太陽神黙示録』が入っており、そこに書いてある呪文を唱えると、書いてある通りの効果を持つ魔法が使えたらしい。
そもそもこのノートを持ち出したのは俺、陽輝と同じ『陽』の字を名前に持つ陽茉莉ならこの魔法が使えると信じたかららしい。
「異世界では魔法は自分で作らないといけないの!でもヒマリンはハルキおにーちゃんのおかげですぐに魔法が使えたし、その魔剣だって生み出せたんだよ!」
魔剣?
この剣の事かああっ?!
『太陽神黙示録』には呪文だけだなく剣などの武具やアイテムまで書き留めてあった。
「するとこの魔剣は『エクスカ・リバース』かっ!」
聖剣エクスカリバーと対になっているとされている、いや、そういう設定にしておいたのがこの魔剣エクスカ・リバースだ。
今となっては説明するのも恥ずかしいのに、手に持っているとどうして懐かしく、俺の手に馴染む気がするんだ?
「ハルキおにーちゃん。その剣抜ける?」
「こうか?」
すいっと魔剣エクスカ・リバースを抜き放つ。
おお、刀身に描かれた紋様も俺が考えた通りなんだな。
この紋様ひとつひとつにもちゃんと意味を込めてあってだな……はっ?!
いかんいかん!
この歳になってまた中二病の頃の気持ちが蘇ってきたじゃないか!
「やっぱり簡単に抜けるんだね」
「…まさか?!」
「そう。その魔剣は『真の持ち主』以外は抜けないんだよ」
そうだった。
この魔法エクスカ・リバースは真の持ち主である『太陽神=陽輝』にしか使えないと設定してあったんだ。
「もちろんヒマリンも使えるよっ」
「いくら同じ『陽』の字があっても使えないはずだろ?」
『太陽神=陽輝』にしか使えないと明記しているもんな。
「このノートって何ページか空いてるよね」
「ああ」
それは書いている最中に中二病が治ったからだ。
「だから続きをヒマリンが書いていの!」
「ええっ?!」
陽茉莉が開いたページにはこう記されていた。
『太陽神陽輝は永遠の伴侶を見つけた。それが陽茉莉であり、彼女も太陽神黙示録の力を使えるようになった』
「他にもいっぱい書き足してあったんだよ!二人の合体魔法とか、子供は七曜の神の残り6人分作るとか!」
そんなことまで?!
いや待て、ということは…
「異世界ではヒマリンの旦那様としてハルキおにーちゃんのこと知れ渡ってるから!」
「なんだとおおおおっ!」
恥ずかしっ!
異世界に連れて行ってくれたら嬉しいかもとかおもっていたけど、絶対に無理じゃん!
俺が幼稚園児を嫁にしたロリコンって思われている世界になんか行けるかっ!
「それで、ハルキおにーちゃん♡」
すすっと俺に近づいてくる美女。
いやいやいや、コイツはあの陽茉莉だぞ。
可愛らしいけどマセガキで生意気な陽茉莉なんだぞ!
好きになんかなるわけ(むにゅ)…あるかも…。
大人モードの陽茉莉に胸を押し付けられてあっさり撃沈する俺。
情けないっ!
だって初恋で正直言えば今でも大好きな霞姉さんの顔をしてもっと胸が大きいんだぞ!
ほとんど上位互換じゃないかっ!
「ヒマリンとデート、しよっ♡」
「う、うん…はっ?!な、無し!今の無しな!」
「どうして?」
「お前は幼稚園児だろ!デートなんかしたら社会的に抹殺されるわ!」
「ヒマリンは異世界で15年過ごしたからハタチなんだよ!だから問題ないわよね?」
「それならどうして小さいままだったんだよ?!」
「こっちの世界に戻るために若返ったんだよ。そうしないとお母さんとか驚くでしょ?」
確かにそうだな。
「だから、中身はハタチだから問題なし!それに今は外見もハタチになったからね!」
そうか、問題ないよな。
「じゃあどこに行きたい?」
「ゆーえんち!」
その言い方が幼稚園児のままじゃないかよ!
とか言いつつ、俺は大人モードの陽茉莉と遊園地に行くことになったのだった。
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