08 前のめり少女とエクスプロージョン
「では自分はこれで失礼します」
「ご苦労」
アラクネ討伐から数日。ギルド『夢の国』はその功績を評価され、連日王城に呼び出されている――というわけではなく。
王国の次の勇者パーティーという抑止力の誕生を望む政治的背景から、その討伐内容は王国好みに書き換えられ。元勇者パーティーという余計な肩書きを持つ自身ごと、ギルド『夢の国』はアラクネ討伐への参戦とその功績を抹消されるに至っていた。
そして世論を含め、王国の求める勇者像として白羽の矢を立てられたのが次の勇者パーティーと称されていたミランダ・ジーナスさん一行であり。その礎としてミスター・マウスさんが上げた戦果もまた、ミランダさん率いる一行の箔付けの一つとして、王国全土へと喧伝されるに至っていた。
それでも公には参加していないことになっているギルド『夢の国』が、その過程で蜘蛛の骸とアラクネの糸を手に入れることが出来たのは――あくまでも交渉の結果というよりかは――口封じとしての側面が大きいのだろう。
「ご案内します」
ここ数日で何度目かという王城の一室を後に、見慣れた廊下へと出ればいつものようにこちらに先んじて先導を始める男。その背中を足早に追いかけては、廊下から窓の外に広がる王都の街並みをぼんやりと眺める。
王都の上空にはここ最近の王国の情勢を表すかの如く、まだ昼前だというのに色鮮やかな大輪の花が咲いていた。
「ご苦労様でした」
しばらく無言のまま歩き続けては、城の入り口でピタリと足を止める男。後は真っすぐに伸びた道を歩いて城門を目指すだけだ。
「ありがとう」
代わり映えのしないやり取りに、流石に歩きなれた道のり。それでもいざ城門へと向かって歩き出せば、今日は馬車もいなければ人の往来も少ない。
折角だから道の真ん中でも歩いてみるかなどと、遊び心を刺激されるのだからやはり王城という場所はどこか特別なのかもしれない。
ただその日がいつも通りだったのはそこまでだった――。
「クロナアアアアアアアアアアアアアア!」
自身を呼ぶ声に背後へと振り向けば、眼前に迫る宙に浮いた二つの靴底。
「エクスプロージョン!」
――城を出てすぐ。
道の真ん中で、何故かドロップキックが爆発した。