04 牛頭クロナの律儀
勇者パーティーの訃報が王国全土に知れ渡ってから早十日。
王国の打ち出した冒険者支援策である依頼料のアップによって、王都はかつてないほどの熱気に包まれていた。
そして"元"とはいえ、今話題の勇者パーティーの生き残りが代表を務めるギルド『夢の国』もまた、王都における冒険者たちの一大観光スポットと化していた。
「あんたが勇者パーティーの生き残り?」
――開け放たれた入口から姿を見せる、真夏でもないのに、やけに露出度の高い一人の女性。
王国で現在最も次の勇者パーティーに近いと言われるミランダ・ジーナスとその一行は、どこかがっかりした様子でそれでもこちらに期待の目を向けてくる。
「違うけど、そうだね」
「噂通りの律儀な性格。それにそのふざけた格好。冒険者というより、人として生き辛くない?」
憂いを帯びた目で、どこか呆れるように眉をひそめるミランダ・ジーナス。
そんな彼女の背後に控えるお仲間たちもどうやら同じ感想を抱いているようで、こちらに対して似たような反応を示している。
「さぁ……どうだろうね。ただここ数日はよく言われるよ」
隠すことでもないので聞かれたままを告げる。すると何やら気に障ったようで、彼女を含め、彼女"たち"は一層その寄せた眉をきつくした。
「良く言われる? あんた舐められてるんじゃないの? それでも勇者パーティー?」
「今は違うけどね」
「ったく。前任者がこの調子じゃ、次の勇者パーティーになった時の苦労が今から思いやられるわね」
「まぁ、うん。応援してるよ。頑張ってね」
「はぁ……?」
そろそろと業務に戻ろうとするこちらに、あからさまに気を悪くした様子のミランダ・ジーナス。
険しさを増すその表情からして、何やらまたこちらの言動が彼女"たち"の気に障ってしまったらしい。
「何……? 何なのあんた? 折角次の勇者パーティーって言われてる私たちが、わざわざ顔を見せに来てやったっていうのにさ。何? 何なの? 邪魔なの? 帰れっての? あんたがそんなんだから王都の観光スポットなんて言われるのよ。ギルドとして恥ずかしくないわけ? マスターとしての矜持はないわけ? 勇者パーティーの生き残りとして、仲間の仇をとってやるっていうぐらいの心意気は持ち合わせていないわけ?」
「いや、うん。そうだね。その通りだと思う」
矢継ぎ早に捲し立てる彼女の勢いもそうだが、その正論に押されてただただ首を縦に振る。しかし昂った彼女の感情は、まだまだおさまりがつかないようで――。
「な・に・が! その通りよ」
彼女は力強くこちらを指さしては、引き続きと問い詰めてくる。
「折角のギルドも顔を出してみればただの雑貨屋くずれがいいところ。肝心の掲示板には依頼の一つも見当たらない。何も分かってないからこんなことになってるって、あんた自分でわかんないわけ?」
「君の言う通りだよ。国の政策で新人冒険者もこなせる依頼の量も増えてるのに、相変わらずメンバーは増えないし、依頼も回ってこない。ただ最近はギルドのメンバーたちを見てるとこうも思うんだ。ギルドは何もその規模や依頼をこなすだけが全てじゃないってね」
「ギルドが……あんたがそんなんだから――!」
「ミランダ」
怒り心頭といった彼女をその背後から伸ばされた複数の腕が引き留める。
そして彼女"たち"もまた静かな怒りをその目に宿しては、こちらを一瞥したのち――今にも飛び掛かって来そうな彼女をギルドホールの外へと無理やり引っ張っていく。
ずるずると引きずられては、一人の女性を残してやがて入口の向こうへと消えていく一行。
そうして残った女性はこちらに背を向ける間際。その目にどこまでも深く、同時に果てしない失望を浮かべてこういった。
「一週間後。大森林の奥でアラクネを狩る。公式には発表されてないが勇者パーティーの仇だ。公示を前に大手ギルドはもう準備を始めてる。参加するかはあんたの勝手。王国は世代交代を望んでるし……私も今はそう思ってるけどね」