21 糧
シャルロッタは日ごとの糧をシスターたちから少しずつ得る。シスターたちは彼女に血を与えても命に影響なく、普通の食事をしながら生きている。そしてシスターたちは吸血鬼化することはなかった。
「ねえ、あなたも食事をしてよ」
拘束を解かれたアンドレイはあれから一口も何も食べず、じっと部屋にこもっている。
「私はいい……」
いまや修道院はシャルロッタのえさ場になった。今はまだ何とかなるだろうが、最高齢のシスターもつい先日亡くなった。本当はもういつでも天に召されても良い年だったろうに、血を吸われるまで死にたくない執念でもあったのだろうか。順番にシスターがいなくなった時、シャルロッタは修道院から外の世界へ血を求めていくだろう。
バラ色の頬の生き生きとしたシャルロッタをじっと見る。口の端に血の塊がこびりついている。彼女は人の生き血を吸わずに、動物の血肉で生きるのは無理だろうかとアンドレイは考えるが、吸血の快楽を知った以上無理な気がしていた。
アンドレイですら、吸血の快楽の波にのまれるところだった。彼がそうならなかったのは何百年もの間の培った禁欲生活と、母親に似て慎ましい理性的な性質に寄るのかもしれない。
シャルロッタは好奇心の強い、未成熟な乙女だ。快楽にあらがう精神はもちえない。アンドレイは今しばらく様子を見ることにした。
シャルロッタの食事は毎日ごちそうだった。新鮮な生き血は人によって味わいが違い飽きることもない。吸われたシスターは涙を流して、快感を得て彼女に感謝する。
「なんて素敵なんでしょう。アンドレイはどうしてこんな日々を送らないのかしら」
シャルロッタには全く理解ができなかった。自分だけが美味しい思いをするのではない。彼女たちも十分な恩恵をシャルロッタから受けている。需要と供給のバランスはとても良いはずだ。
しばらくするとシャルロッタに異変が現れる。血を吸えば腹は満たされるが、なんだか身体の奥のほうで飢えを感じる。吸血が足りないのかととうとう一人のシスターの血を飲み干してしまった。
「あ、あああ、あああっ!」
吸い尽くされることがわかってもそのシスターは抵抗なく、快感に身を投じる。中年のシスターは血を吸われながら自身の身体中を懸命に愛撫していた。
「?」
シャルロッタはその光景を見て、そういえばロクサーナもそんなことをしていたかもと思い出していた。
死んだ中年のシスターの亡骸をみんなで埋葬する。死を迎えたシスターを誰も可哀想だと思うことはなかったし、シャルロッタを責める気持ちもない。誰もがいつか自分も彼女のような死を迎えたいと願うのだ。それまではシャルロッタが与えてくれる快楽で日々を過ごそうと耐えている。




