嘘つきの少年の成長
とある小さな村に少年がいました。
少年には親がいませんでした。なので誰かの気を引こうといつも嘘をついていました。
そうしているうちに人を困らせるような嘘をつくことが楽しくなってしまいました。
村の人だけでなく、いろんなところで嘘をついて回るようになりました。
そんな少年に神様が罰を下しました。
それは少年が嘘しか伝えれなくなる、というものでした。
少年は孫罰を受けてもけろりとしていました。嘘をつけなくなるならともかく嘘しかつけないのは嘘だらけの自分にとって何の罰にもならない。少年はそう思いました。
しかしそれは間違いだったのです。
ある日村で窃盗事件が起こりました。
村人たちは少年がやったのではないかと疑いました。嘘をつくような人間だから盗みくらいはやるだろうということです。
村人たちが少年の家の前で問いつめます。
少年は窃盗をしていないので否定しようとしました。
ですが……
「そうだよ、僕がやったよ、えっ?」
自分の考えと真逆の言葉が出て思わず口を覆いました。
そうです。少年は嘘しか言えないのです。
「やっぱりお前がやったのか!」
「ち、違わない、僕がやった!」
慌てて否定しようとしてまた言ってしまいました
逆の言葉が出るなら肯定すれば否定になるのではと肯定して見せましたが……
「僕がやった!」
そう言ってしまいます。
『逆の言葉が出る』、ではなく『嘘しか伝えられない』なので当然です。
今度はやってないと身振り手振りで示そうとしましたがそれもできませんでした。
首を横に振ろうとすれば縦に振ってしまいます。
手を横に振ろうとすれば自分を指さしてしまいます。
文字で書いても『僕がやった』と書いてしまいます。
「よし、正直に話したから牢に入るのは数日で許してやろう」
結局少年はそのまま捕まってしまいました。
牢屋の中で少年は反省しました。
(嘘ばっかりついていたからこんなことになったんだ、これからも嘘しかつけない、これでは人に迷惑をかけてしまう、これからは1人で生きよう)
数日後、釈放された少年はこっそり村を出ていきました。
村から離れたところで少年はあるものを発見しました。
それは盗賊のキャンプです。
こっそり木陰から様子をうかがってみると
「へへっ、あと1時間くらいしたら行くか」
「そうだな、あそこの村、結構ため込んでるみたいだぜ」
このあたりの村といえば少年がいた村しかありません。
逃げてしまえば自分は助かります。しかし少年は自分育ててくれた村人は見捨てられませんでした。
急いで村に戻る途中少年は大切なことに気づきました。
自分は嘘しかつけない。盗賊が来たと伝えられないということです。
どうすればいいか少年は考えました。
言葉でも筆談でもジェスチャーでも伝えられない。
「そうだ!」
少年は矢を取り出しました。
「すー、はー」
息を整え思いっきり腕に刺しました。
「ぐぎぃ!!」
痛みに耐えながら少年は村に着き叫びました。
「ああああああ!」
村人たちが慌てて出てきました。
「大丈夫か、誰にやられたんだ?」
「盗賊が、盗賊が僕を撃ったんだ!」
盗賊に撃たれた。これは嘘なので口にできました。
それを聞いた村人たちは村の守りを固めました。
そして盗賊たちを返り討ちにしました。
身を挺して村人を助けた少年を見て神様は呪いを解いてあげることにしました。そして今までのことを村人たちに伝えてあげました。
「そこまでして私たちを救ってくれたのか、お前はすごいやつだ」
皆が少年を讃えました。
「しかしあれが嘘だったら窃盗をしたのは誰なんだ?」
「わ、私です」
小さな女の子が盗んだものを持って名乗り出ました。
少年は女の子の罪を被った、普通なら怒ってもいいところですがそうはしません出した。
女の子もまた少年と同じで身寄りのいない子でした。
気を引くために盗みを働き、牢に閉じ込められると知って怖くなって言い出せなかったのだろう。そう察した少年は女の子の頭を撫で言いました。
「正直に話してくれてありがとう、みんな、この子の罪は僕が償ったから許してあげてくれないか?」
「まあ、いいんじゃないか」
「これからはこんなことしちゃだめだよ」
「うん」
少年は今回のことで成長しました。
嘘はつくけれど、人のためになる嘘しかつきません。
そんな彼は大人になり、村長として村人たちから尊敬される立場になりましたとさ。
やっぱり童話とか子供向けの話には教訓みたいなのが必要だと思います。
なので今回の教訓は、嘘ばかりついてると痛い目見る、とついてもいい嘘があるということでしょうか?