合同誕生日会~前編~
レオンハルトの元を訪れてから五日が経過した5月21日、私はレオンハルトに迷いを覚えながらも王都のジェネシス邸にて忙しなく動き回っていた。
今日は私とリビーの合同誕生日会ということで多くの者がジェネシス公爵家を訪れるのだ。
私の屋敷ではそれこそ狭すぎて招待客を多く呼ぶ事が出来ないのでジェネシス公に頭を下げると快く返事してくれた。
伯爵家当主と公爵家令嬢を祝うため国の重臣から王家まで幅広く招待している。
レオンハルトやナーナもやってくる様だ。
結局あの日は、ナーナには会えなかった。
寂しいと言えば寂しいのだが、レオンハルトから少しだけ話を聞く事が出来た。
曰く私にすこしでも近付く為に魔法や剣技、知識を磨いているという。
『センティス伯に憧れているんだ。少しでも貴女に近付きたい、ナナリアはそう言ってましたよ』
とは、レオンハルトから聞かされた言葉である。
でもナーナに会えなかったのはそれだけが理由では無い気がする。
多分王位継承のゴタゴタに巻き込まれない様に誰かしらが配慮したのではないかと予測する。
彼女の憧憬として恥ずかしい姿は見せられない。
私はその話を聞いてからより一層研鑽に励んだ。
「おぉ、センティス伯!こんなところに居たか!すまないが、剣舞について打ち合わせをーー」
一人中庭で思考を巡らせていた私の元にリビーの父、ジェネシス公爵本人である。
重そうな身体を引き摺りながら、私を探し歩く姿は何処か野生の熊を連想させた。
「分かりました、行きましょう」
誕生日会の出し物として私は剣舞を披露する。それの時間や立ち位置などのリハーサルをしたいとジェネシス公は私の元へやってきたのだ。
私はその場を離れることをジェネシス家の家臣に謝り公爵と屋敷の方へ向かうのだった。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
「リリ、あそぼ?」
公爵との話し合いを終え、執務室を出ると左側の通路からメイドに手を引かれたリビーと鉢合わせする。
開口一番そう告げられた私は破顔して口角を上げると優しい手つきで絹のように柔らかい水色の髪を撫でた。
「リビー、遊ぶのも良いけどこれからいっぱいお客さんが来るよ?私とリビーの為に来てくれるんだから精一杯飾り付けをしなきゃ!ね?」
「そか!ボクも頑張る!」
「偉い偉い!」
私はリビーの頭をもう一度撫でるとリビーは気持ち良さそうに目を細める。
九歳になったばかりの少女と前世を含めると二十八年間の経験がある私とリビーではそれこそ、文字通り大人と子供だろう。
微笑みあいながら手を繋ぐ私とリビーを公爵家のメイドや執事ら周囲の人は仲の良い姉妹の様に温かい眼差しで見送っていた。
間もなく開宴する会場へと足を運んだ。
「それはあっち、これはそこ!ほら、急げ!時間がないぞ?!ーーおや、リリアナ様、お嬢様!これはこれは、仲の宜しいようで!」
「こんにちは、セバス!何か手伝えることはある?」
リビーと繋いでいる手を見せ付け言外にリビーも含めてということを知らせる。セバスは感じ取ったのか、一つ頷くと私にだけ見える角度でウィンクを飛ばしてきた。
「それでは彼方で花輪を作っていただけますか?かなりの数を用意していたのですが、メイドの一人が体調を崩してしまいまして…」
「分かったわ!行きましょリビー!」
私とリビーはセバスの示す方向へと足を向けるとそこには三人ほどのメイドが花輪を作っていた。
短冊状に切られた色とりどりの紙を鎖状に繋いでいくアレだ。パーティーの装飾の定番とも言えるだろう。
黙々と作業を進めていくと日は傾き間もなく16時だ。
「リリアナ様、お嬢様、そろそろお時間となります。ドレスにお着替え下さいませ!」
頃合いを見たのかセバスが訪ねてきてそう伝えてくれた。少し作りすぎたのでは?と、思ったがメイド達はまだまだ忙しそうである。
ちなみに今日は私もドレスだ。
この二年でかなり髪が伸びたので男と間違えられることは少し減った。
というのも年中ポニーテールに半袖短パンというガキ大将ファッションの為、新兵や私を知らない移住者に勘違いされる事件が多発している。
だって体温調節の魔法を開発しちゃったからそっちの方が楽なんだもん。
この話は置いといて、えーと…あぁ、ドレスの話だったか。
真紅のドレスに身を包んだ私は伸びた金髪をサイドロールに纏め結わえている。
細いシルエットにスリットが入ったチャイナドレス風だ。
金の刺繍で花と蝶がアクセントになっている。
耳には小振りな宝石をあしらえ胸元にはルビーのトップ。
リビーは私と対極の純白のフレア調のふんわりとしたドレスだ。
背中には羽をあしらった装飾が施されており天使力を爆発させている。
無論私のデザインである。
うん、可愛い!
私は無言でリビーの頭を撫でた。
「リリ、くすぐったい!」
「ごめんごめん、それじゃ行こうか?」
「ん!」
一文字で返事をするリビーの手を引き、私はメイン会場となるダンスホールへと移動する。
一度直ぐ手前の控え室に入ると呼ばれるまで待機させられた。
窓から正門を見ていると伯爵家の当主や私達と年の頃が近そうな子を引き連れていた。
やがて家格が上がっていき、侯爵家、そして他の三公も姿も見え始めた。
そして一際豪華な馬車が入ってきた。王家のものである。
走らせる馬は四頭建て、更に二十人は入りそうな巨大な室内から男女が大人子供合わせて七名ほど降りてくる。
ナーナとレオンハルトの姿も見えた。
おや?ナーナ、髪切ったんだ。
前の私みたいに肩口で切り揃えている。そして服装も男装に近いパンツスタイルだ。
特に正装などは取り決めてないので、違反にはならない。
しかし、周囲の目が集まる事だろう…優しくて臆病なナーナに堪えられるかな?少し心配だ…!
王家を最後に訪問者は居なくなり、夜会が始まった。
今年の二月、三年続いたガルム帝国との戦も大勝とは言えないが勝利し、目出度い事も続いている。
手腕を振るったジェネシス公は今をときめく話題の人である。
そして御隠れになった前陛下の寵愛を受けた(と周囲は思っている、実際は無茶ぶりばかりである)私、リリアナ・アルデン・センティスはかなり話題の人間である。
私の今までしてきた事は多岐に渡る。
新型女性用下着の普及、
娯楽の開発、
六才での初陣にて第一功、
領地を賜り先住騎馬民族を吸収合併し発展させ、
魔法研究機関【梟の塔】の立ち上げ、
そして一代で伯爵に成り上がるという功績のせいである。
娯楽の少ない庶民、貴族…この国の人達からしたら羨ましい…もしくは妬ましいとも思うかもしれない。
少し目立ちすぎたかな…?でもこれからもっと派手に動くつもりなんだよなぁ…
「リリアナ様、お嬢様、そろそろお時間でございます。招待客の皆様が席に着きました。」
セバスが扉を少し開いてから伝えてくれる。
護衛のジョセフが扉の前に立っているので余計な人を寄せ付けない。
ジョセフの許可を取り扉を開き知らせてくれたのだろう。
「行こうか、リビー?」
「ん!どーなちゅ食べれるかな?」
「いっぱいあるから大丈夫!でも挨拶が終わるまでは我慢してね?」
わがままな妹を諭す様な口調で私は語り掛けるとリビーは満面の笑みを私に見せ、手を繋いで扉を出た。
間もなく会場入りである。
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