レオンハルトとの会談
「陛下、お久し振りで御座います。お忙しい中お会い出来て恐悦です、この度は御就任おめでとう御座います!これは就任のお祝いになります、試作品ではありますがどうぞお試し下さい。完成の際はいの一番にお贈りさせていただきます」
現在私は王城の一室に出向いていた。
陛下…レオンハルトは優しげな笑みを湛えつつ微笑んでいる。
試作品のカメラを手土産に渡すと彼は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに笑みへと変わった。
約二年振りに会うレオンハルトは長い金髪を後ろに結わえ、蒼き瞳は意思の強さを物語っていた。
初めて会ったときに問われた
『貴方は日本人ですか?』
という問いは今も私の胸に残っていた。
そう、彼は前世、(性別は分からないが)日本人という確証とともに私はここに訪れていた。
「ハハッ!気にしないでくれ。それにまだ即位前だ、レオンで構わないよ。センティス伯爵とは友宜を交わしたいと思っている。どうか気軽に接して欲しいな。」
レオンハルトはそう言うと椅子に腰掛けた。
手で座るよう私に促すと私も席に着く。
「分かりました、レオンハルト様と呼ばせて戴きます。貴重な時間をお借りし、重ね重ねお礼申し上げます。」
「堅っ苦しいのは無しだ、フランクに行こう。」
「はい。」
それから日常的な会話をしつつ、彼の性格や思考の傾向を分析する。
私は頭があまり良くない。だからいつも失敗し、周囲の人に助けられっぱなしなのだ。
少しは学習しなければならない。
今回はその予習と復習を主に心掛けた。
大方、分析が終わった。
彼は周囲には王子然と振る舞い人気を高めようと躍起しているが、多分陰謀術数を張り巡らすタイプの人間であると推測する。
遠からずとも当たっていると考えるがあまり先入観を持ちすぎるのも良くない、ことはゆっくり正確に、だ。
「レオンハルト様、一つお耳に入れたい事がございます。」
私は一つの賭けに出てみる。
話に乗ったレオンハルトは耳を此方に向け興味深々そうな表情をしている。
「どんな話だい?センティス伯爵は話が上手いからね。いつまでも聞いて居たくなるよ。」
「いえ、それほどの事では。その様なご評価を戴き恐悦至極にございます。」
「謙遜しないでくれ、本心を言ったまでだ。私はーー」
「レオンハルト様、それ以上はいけません。宮中に混乱を招くだけです。そして私の気持ちは…とだけ申しておきましょう。私の持つ情報はそれこそ極秘…レオンハルト様以外のお耳に入れるのは少し…その、憚れます。」
茶目っ気が出るようウィンクをしておどける。
確信は話していない。
レオンハルトが勝手に勘違いするだけだ。
レオンハルトは周囲を確認し、部屋付きのメイドを視界に入れると
「すまないが二人きりにしてくれないか?」
と声を上げ、メイドを追い出した。
よし、条件はクリア…後は勝負を…覚悟を決めるだけだ!
『レオンハルト様、以前は失礼を致しました。貴方の察する通り私は元日本人です。先程贈呈したカメラも前世の知識を活用し、生活を豊かにするため開発しました。』
そう、日本人として打ち明けたのだ。
レオンハルトは目を驚愕したかの様に見開くもすぐに真剣な表情に戻り、私の顔を見る。
『驚いたよ…だけど、私の考えは間違ってなかったんだ…良かったぁ…』
安堵のため息を漏らしレオンハルトはごちた。
その彼本来の口調は女性的特徴も見受けられるが、まだ確定はしていない。
《聖アムスティア学園》は男性ファンはもちろんだが、女性ファンもそれなりに居る。
もしもレオンハルトの前世が女性だったのならば、なるほど凄い演技力であり、良く十一年も耐えられたものだ。
『以前は話せず申し訳ありません。ナーナ…ナナリア殿下や他の目もあったため明かせずに居ました。今回人払いをして戴いたのもこの為です。』
『そうなんだ、有り難う。あ、もしかしたら私より年上の可能性もあるんですよね。宜しければ前世のお名前や年齢を教えていただけませんか?』
彼は安堵したようにそう言った
仮に私がレオンハルトに転生していたならば多分絶望し、最悪自殺していただろう。
継承関係で泥々の王家に、未来の婚約者は主人公に略奪され(他ルートもあるが)、何より女から男の身体になるなんて嫌悪感で死ねる。
だが、彼(彼女)はレオンハルトを演じてきたのだ。
その根性は称賛に値するだろう。
『あ、名乗るなら此方からですよね。私は吉川 美樹って言います。年は21で、衰弱死でした。……実はお恥ずかしい話なんですが、親友の志波梨乃という女の子を事故で亡くしまして…普通では考えられないとおもうですけど、その梨乃に片思いをしていたんです。彼女の死を受け入れられず、大学を中退した私は就職せず引きこもっていました。転生する前にアム学をやっていると気付いたらこの世界に…最初はーー……』
そうレオンハルトこと美樹は朗々と語る。
久方ぶりの同胞(日本人)にテンションが込み上げ感情が喜びに振り切っているのだろう。
冷静で居るのはこのくらいで良いよね…?
というか良く我慢出来たと称賛したい。
偉いよ私…!
嘘でしょ…!?
まさかレオンハルトに転生していたのが嘗ての親友だったとは…。
美樹が私に片思いをしていた?
臆病で自分に自信を持てなかった美樹がまさかね。
でもそれを踏まえて考えると確かにスキンシップ多めだった様な…
胸を揉まれたり、太股を擦られたり…あれ?
いや…確かに思い当たる節はあったんだ。
大学時代、私以外の者とは接さず常に孤独だった。
それに死ぬ直前の一ヶ月ほどは私を見る目が妖しく時折見つめられていたような…
大切な親友との思い出が茫沱のごとく甦る。
私の事を…!
『あ、あのリリアナさん?大丈夫ですか?』
無言で口に手を置き、黙っている私を見てレオンハルト…美樹は心配してくれる。
彼(彼女)の焦り様はもっともなのだが、私は正体…梨乃であることを告げるべきか悩んだ。
なぜ美樹が王位を継承したのか?
本来リアスティーナが継承するはずだったが病に臥し、レオンハルトが王位継承をする事が出来たのか、その理由を悟ってしまう。
予測ではあるが、実兄ブルタスは原作通り重臣達から疎まれ秘密裏に処理され、本来継承するはずであった姉リアスティーナには薬か何かを盛ったのだろう。と…
まだ確信はないが、そこまで大筋は間違ってないと思う。
自らの手段の為ならば血を分けた兄弟でさえも、冷酷に排除する。
それだけで私は軽い身震いをしてしまう…
私は選択をしなければならない。
嘗ての親友である美樹を信用し、正体を明かし奇跡としか言い様のない再開を果たすか。
それとも冷酷な手段を持ち要り、不要因子を退場するレオンハルトに従うか。
私の中では既に答えは決まった。
『あ…えと、すみません。突然知っている名前が出てきて驚きました。志波梨乃…彼女は私の知人でして。名前は日村佳那、歳は一緒です。私は病死でした。』
『梨乃を!梨乃を知っているんですか!』
『えぇ、まぁ。』
『あ、すいません…少し嬉しすぎて日村さんのご迷惑を鑑みず取り乱してしまいました…』
『大丈夫ですよ。それとカナとお呼び下さい』
美樹が知らないであろう小学生の頃、仲の良かった友人の名を騙った。
その子は父の仕事で海外に引っ越したのでまず美樹が知っている事はないだろう。
レオンハルトには正体を明かさない。そして、距離を取ることを決める。
違うな…陰ながら彼の行動を監視し、元の清らかな彼女の姿を取り戻させる。
もし、それでも彼が冷酷な手段を用い続けるのならば…したくはないが、袂を別つ覚悟もしておこう。
しかしそれは最後の手段だ、恐らく彼女を狂わせた原因は志波梨乃…私の死が直結しているだろう。
私の責任だ。
美樹は私に片思いをしていた、そこから彼女の人生を狂わせてしまったのならばこれは私が追わなければならない責務である。
私の人生にもう一つの目標が生まれた。
美樹を正すこと。
その日は他愛ない話をして偽りの人生を語らい、満足そうな美樹と別れ、自宅に戻った。
はい、ということでリリアナがレオンハルトの正体を知りました。
ここから話は加速していきます。
レオンハルトとリリアナの関係にもご注目下さい。
しかし本作品は同姓恋愛を題材にしているのでリリアナとレオンハルトがくっつくことだけは有りませんのでご安心を…!
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