少女子爵と第四王子
前回は投稿時間を間違えてしまい申し訳ありません。以後気をつけます。
コメントにてキャラ紹介を挟んでは?と指摘頂きました。
9月1日の更新にて用意しております…もう少々お待ちください。
すっかり日も沈み、私は開拓村付近に着くと、空中へ向け炎弾を放つ。
ジョセフに見付けて貰うためだ。
数分後、守備に300を残した700名ほどの兵士を引き連れたジョセフが現れる。
元騎馬民族の髭ワイルドダンディおじさんことレオパルドの姿も見える。
いつだったかレオパルドが口にした、
「手始めに山向こうの豚領主でも滅ぼそうか?」
などと言っていたのを突然思い出した。
その時は止めたが、武力蜂起をしたのは向こうだ。
もう我慢する必要はないだろう。
無事に合流したホセとジェニーも怪我はしているが無事な様だ。
「お嬢!」
「お疲れジョセフ。早速この後の行程を話したいんだけどその前に、ホセ、ジェニー無事で良かった…!」
「何とか生き残れやした。ご心配お掛けしてしまいすいやせん」
「不覚を取られました…申し訳ございません…奴隷達は私やホセ兄ぃを逃がすため犠牲に…うっ…うぅっ…」
ホセは悔しそうな顔をし、ジェニーは堪えていたのか、涙を流し始めた。
そんなジェニーをホセは抱き締め慰めていた。仲良いな、この二人。
まぁ、従兄弟だしそれくらい当たり前か。
「命令を下す。ジョセフ以下兵士五百名はこのままアブロー男爵領へ侵攻、男爵を討つ。ジェニー、客将騎士ホセには兵士二百名を引き連れ、散開した奴隷と兵士の探索を命じる。もしも手遅れの場合は近くに埋葬し、丁重に弔ってやってほしい。良いわね?」
私はそう伝えるとジェニーを真っ直ぐ見つめる。
彼女もそれを理解したのか真剣な目で頷いた。
その後ジェニー、ホセには死者の弔いや生存者の探索を任せ私はジョセフとレオパルドと共に情報の擦り合わせを行った。
私が偵察を行い敵陣地を急襲して捕縛したことも伝えるとジョセフは溜め息を吐く。
「はぁ…お嬢、無茶しすぎですぜ?毎度言ってるでしょう?もう少し自分の身も鑑みて下せえ…センティス領にはお嬢が必要なんですぜ?」
「うん…ごめん」
「まぁ、説教は帰ってからで良いでしょう。お嬢、アブローの豚野郎を討ちに行きますぜ?」
私は頷くと声を拡大し500の兵士へ向け声を送る!
「これよりアブロー男爵領へ移動する。我が敵アブロー男爵を討つぞ!」
「うおおおぉぉぉぉお!!」
まるで地響きの様に叫ぶ兵士達。士気は十分な様だ。
「行くよ!落ちないように気を付けてね?」
私は結界魔法を発動し階段を作ると、端に火を燃え上がらせた。
透明で視認できない結界魔法なのでこれ以上はみ出すと危険という意味合いのために発動したのだが、夜闇を照す松明代わりにもなって便利である。
「すげぇ!俺達空を歩いてるぞ!これが領主様の力か!」
「新しい聖女様のお力だ!俺達の勝ちは揺るがねえ!」
「「「うおぉぉぉ!」」」
何故か更に士気が上がってしまった。
まぁ、良いこと…だよね?
鉱山を越え待機し寝静まった頃を見計らい、アブロー男爵領都ダンブールに到着する。
三メートルほどの塀があるが空中から来た私達には関係ない。
『我が名はリリアナ・アルデン・センティス!侵略者マルコス・アブローの首を取りに来た!覚悟せよ!行け、センティスの強兵達よ、アブローの弱兵など蹴散らせ!』
「「「うおおおぉぉぉぉ!!!」」」
生き生きとした表情のレオパルドに率いられ、突撃するセンティス兵を見ながら私とジョセフは空中で戦況を確認する。
どうやら私達の速攻に動揺しているのか、アブロー兵が右往左往しているのが目に見える。
「て、敵襲!敵襲!」
「なんだと?早すぎないか?えぇーい!男爵様をお守りするのだ!」
騎士だろうか、指示を出している者が居るが兵力差は歴然。奮闘するも間もなくレオパルドと対峙し呆気なく捕縛された。
「男爵の屋敷を囲め!」
「おい、火は付けるな!あくまで捕縛が命令だ!」
領民と屋敷の者には手を出すなと口煩く説明したので兵士は従順にそれを守った。
良かった…兵が暴走しなくて。
それから五分も経たずに縄で簀巻きにされた豚…失礼、アブロー男爵が私の前に姿を現した。
「ええい、離さんか!儂を誰だと思っておる?アブロー男爵家当主、マルコスだぞ!兵士如きが高貴な儂に触れるでないわ!」
「御機嫌よう、アブロー男爵。センティス子爵のリリアナだ。貴殿には侵略の咎がある。大人しく此処で散るが良い」
「なっ?!小娘如きが生意気言いおって!ふざけるな!」
「おい、この豚を黙らせろ!」
「はっ!」
この場で首を跳ねても良いのだが一度、陛下かジェネシス公に確認を取っておきたいのでセンティス領の地下牢へと収容することにした。
ジョセフと兵士二百名をダンブールに残して私達はセンティス領都マルセムへと帰還した。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
4日後、陛下から手紙が届いた。
『アブロー男爵を連れ、話しがあるから貴殿も三日後に王宮に参集せよ』とのことだ。
王都入りの準備を1日で済ませると私はアブロー男爵を引き連れ、(もちろん別の馬車)二日掛けて王都の門を潜った。
王宮の衛兵にアブロー男爵を渡すと直ぐに謁見の間の手前にある待機室へと案内された。
普通は二~三日待たされるのに随分スムーズだな。
もう王宮側の準備が出来てるのかな?三日後と言っていたからそうなんだろうな。
段取りが早すぎて私の思考が追い付かない。
そんなことを考えてると衛兵に声を掛けられる。
「センティス子爵、どうぞ中へ」
衛兵に声を掛けられ私は足を進める。
謁見の間には陛下は勿論のこと、ジェネシス公などの四公やうちのじいさんに宰相、その他国の要職に着く面々が居た。
扉が開け放たれ圧倒されている私。
なんだこれ?
「センティス卿、前へ」
宰相であるアンちゃんのお爺さん、ソラージュ侯爵が口を開く。
慌てて歩き出して玉座の前にある階段の三メートル付近で立ち止まると、臣下の礼を取る。
ちなみに今日も男装だ。
最近男装しかしてない気がする…
「面を上げよ。センティス卿、此度の働き実に見事だった。」
「はっ、有り難きお言葉!」
「今国内にて水面下で動く賊のことはお主も知っておるだろう?」
「陛下ッ!」
ジェネシス公が声を上げるが、陛下は続けた。
「ラッセン、良い。センティス卿も巻き込んでしまえ。それに最初に目を付けたのはお主だろう?」
「ですが、センティス卿はまだ十にも満たない子供です。危険な事には変わりありません!」
「だが、お主も知っておろう。この者がそこらの子供と違い異質だと言うのを。まぁ、その話は良い。」
異質とは失礼だな!ぷんぷん。
ほんのちょっぴり魔法が使えて前世のアドバンテージがあるだけなんだからね!
陛下は私を真っ直ぐに見つめると破顔してにやりと笑った。
「センティス卿。此度お主が捕縛したアブロー男爵は先程の話に出た賊に支援をしておった事が調査によって分かった。良くやったな!」
「いえ、私は領民の命を守りたかった一心です。そのようなお言葉勿体なく存じます。」
これは私の本心だ。
「謙遜は良いことだが、やり過ぎると不快をもたらすぞ?さて、報奨の話に戻そうか。アブロー男爵領を接収し、爵位を上げ伯爵を名乗るが良い。どうだ、実家と肩を並べる気分は?お主が成人する頃には侯爵も夢ではないかものう。それともお主がこの国の舵取りをするか?クックック…」
陛下はからかう様にそう言った。
そっか…もう、伯爵か。
陛下は面白いことが好きで周囲を驚かせることばかりをするのだ。
今回もそのいたずらのうちの一つと受け取っておこう。
じいさんを見ると驚きで目を見開いている。
まだ50代だぞ、頑張れじいさん。
宰相や他の上位貴族達も似たような表情である、ジェネシス公だけは私に微笑んでくれた。
めっちゃいい人!もしかしたら予め聞いていたのかも知れない。
「望外な恩賞痛み入ります。慎んで伯爵位と男爵領を受け取らせて戴きます。」
「うむ、良く言った!どうだ、儂の倅であるレオンハルトと婚約せぬか?奴は四男だし、顔は儂に似て中々良いぞ?」
「い、いえ。有り難いお話ですが、私はまだまだ未熟です。優秀と名高いレオンハルト殿下にはとても不釣り合いかと思いますので辞退させて戴きます。」
レオンハルトって確か原作にも出てたなぁ。
マシューのライバルポジだったので良く覚えてる。
金髪爽やかイケメンで優しい性格。そりゃモテるわな。しかもナーナのお兄ちゃん。
「そうか、レオンハルトじゃお主には確かに不釣り合いかもな、クックック…もう下がって良いぞ。」
めっちゃ皮肉られてる…まぁ、良いか。
私は陛下に一礼してから両サイドにいる貴族達に一礼し、また陛下に一礼すると謁見の間を退出した。
待機室に戻ると衛兵が待ち構えており、声を掛けられる。
「センティス伯爵、陛下より別室へお連れする様承っております。御同行願えますか?」
ん、何のことだろ?全く見当が付かない。とりあえず返事をして衛兵の後を追った。
しばらく歩くと王家のプライベートルームの方へ案内された。
「あ!リリお姉ちゃんだ!やっと来てくれた!」
ダダダッと私の方へ走り抱き付いてきたのはナーナだった。
ん、どうしてナーナが此処に?
そしてその後ろには十才ほどの男の子が立っている。
「レオ兄様、この方がリリお姉ちゃんだよ!」
「初めまして、センティス卿。それともアルデンの宝石姫とお呼びした方がよろしいでしょうか?…失礼、私はレオンハルト・アムスティアと申します。以後お見知りおきを」
噂をしたら何とやらだ。
先程陛下から話があったレオンハルト殿下が、爽やか笑顔で私に接触してきた。何故?
「これはこれはレオンハルト殿下。初めまして、リリアナ・アルデン・センティスです。既に実家からは出ているのでその様な大層な呼び名は私には不釣り合いに御座います。気軽にリリアナと呼び付け下さい。」
「なるほど、噂の通り聡明なお方だ。今日は父に無理を言って貴方とお会いする機会を設けさせて戴きました。商人だけでなく武人としても有名な貴方のファンでして。何も説明せず御呼び立てしたこと、謝罪させて戴きます。」
随分腰の低い王子様だな。
まぁ、四男だからそんなものなのかな?
でも言葉遣いは年の割にはしっかりしてるし。
不思議な人だ。
「お詫びなど良いのです。こうしてナーナ…ナナリア殿下やレオンハルト殿下にお会い出来ましたから。それでお話とは?」
「えぇ、実は貴殿の弟君、マシュー殿とお会い出来ないかと。」
え?ここでマシュー?どうゆうこと?
『貴方は日本人ですか?』
突然、私の耳元でレオンハルト殿下が懐かしい日本語で問い掛ける。
それで合点が言った。
レオンハルト殿下も私と同じ元日本人だ。
「殿下、何を仰ってるのか分かり兼ねます。古代語でしょうか?」
私は白を切った。
どうせ面倒事に巻き込まれるのは目に見えている。
私自身、そしてマシューを守る為にはこれが最善の行動になるだろう。
「いえ、最近習ったのですよ。古代語に興味を持ってまして博識と名高いリリアナさんならば話せるのではないかと思いましてね。失礼しました。」
「いえいえ、私の事を高く買って戴けるのは望外の喜びではございますが殿下のように古代語は達者ではございませんよ。」
「リリお姉ちゃん!難しい話ばっかりしててもつまらないよぉ。私のお部屋に行こ?」
ここでナーナの絶妙なパスが飛んで来る。よっし、話題を変えるチャンスだ!
「分かったよナーナ。レオンハルト殿下、申し訳ございませんがナナリア殿下の相手をしますので失礼します。」
「いえ、また機会があればお話をしましょう。それでは」
私に笑顔で手を振るレオンハルト殿下だが、私にはその笑顔がとても苛ついている様に見えた。
何故だろう、急に寒気がしてきた。
ナーナの部屋に辿り着いた私はメイドに紅茶を頼むと、気を落ち着かせる為にひたすらナーナの頭を撫でるのだった。
次回はリリアナではなく、別人視点でお送りします。




