少女子爵と鉱山闘争
ツイッターで日にちを違えて更新宣言してしまいました……
申し訳ございません…
次回更新は27日火曜日です!
7月1日に行われた完成式は何事も無く終わった。
ゲース卿は満面の笑みで自らの功績を嬉々として他の関係者に語っており、終始にこやかだった。
かなりイラッと来たので過去の鬱憤を晴らしてやろうかと、わざと目の前でハンカチを落としゲース卿に拾わせる。
「センティス卿、落としま…ブフォアッ!ーー」
「あら?ごめん遊ばせ。お怪我はありませんか?」
「あ、あぁ。はは、大丈夫ですよセンティス卿。事故ですから仕方ありませんよ」
私も拾おうと見せ掛け、顔面に回転膝蹴りを顔面に入れてやった。
身体強化したら最悪ゲース卿の首が物理的に吹っ飛んでいたことだろう。
感謝したまえ!はっはっは!!
あくまで故意ではなく偶々を装ったのでゲース卿が此方を恨んだりすることはない。
それ以上に御機嫌だったので笑って許してくれた。
鬱憤が溜まっていたのがすこしだけスッキリしたーーというだけの話である。
本当はマリアンヌへの教育云々を説教してやりたかったが腹の虫が一応は収まったので止めることにした。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
8月6日、ゴタゴタが一気に片付いたので少し暇が出来た。
マリアンヌも一度実家に帰る事になり久々にリビーも一緒だ。
レインとメイド見習いモガを連れ保護者代わりにセバスとジェシカも同行し、6人で景色の良い丘へピクニックに行く事にした。
「リリ、どこいくの?」
「あの丘の上だよ。あそこでお弁当を皆で食べよ?ドーナツも用意してあるよ!」
「どーなちゅ?!わーい!」
リビーは然してピクニックに興味無さそうだったが、ドーナツがあると聞き一変、随分と御機嫌の様だ。
「リリー…その、私も良いのでしょうか?リリーの手伝いをしたいと申し出て残ったのにお世話になるばかりで何も役に経てないので少し…」
私はレインが側に居てくれるだけで十分なのに彼女はそれに満足していないらしい。
「うりゃ!」
「きゃーーリリー、何をするんですの?」
私はレインを抱き抱える。久々のお姫様だっこだ。
「うじうじしてる子にはお仕置きだよ、行こう!レイン!」
「もう…リリーったら…分かりました、私も行きますから下ろして下さい」
「だーめ!お仕置きだからこのまま丘に行くよ!リビー、しっかり着いてきてね?」
「あい。じーじ、いこ?」
「ではお嬢様も肩車でお連れしましょう。このセバス老いても体は鍛えています。」
元気だなぁ、セバスは。
50代だけど子供一人くらいなら余裕か。
その様子を見ていたモガも少し羨ましそうな顔をしていた。ジェシカが察し小脇に抱えると微妙な顔をしていた。まぁ、師弟関係だし、この二人なら平気か。
私達は早速東にある小高い丘へ向かった。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
「着いた~!」
「ん、ねむ…はっ!どーなちゅ、たべたい」
「リビーお姉さま、少し待ってくださいね?今準備します」
「ん!」
リビーとモガは仲が良さそうで何よりだ。
「リリー、早く下ろして下さい…」
「あ、ごめん」
完全に忘れてた。
身体強化を掛けて運んでいたのでレインの加重に気付かなかった、失敗失敗。
「お嬢様、汗をお拭きになり此方へお掛けください」
ジェシカがテーブルと椅子をいつの間にか用意しており、その上には陶磁器のカップと皿が並んでいた。
お昼を食べに来たのだが完全に茶会の流れだな、これ。
と言うかジェシカいつの間に?!
でもこれを尋ねてもどうせ
「メイドの嗜みですから」
と返されるのは目に見えてるので私はそんな愚かな事はしない。
「ジェシカ、いつのまにだした?」
リビーが純真な目でジェシカに問い掛けた。
「メイドの嗜みですから」
答える瞬間、眼光がキラリと光ったようなジェシカがさっと答える。
何処か満足げな表情をしていた。
「とりあえずお茶にしようか。ジェシカとセバス、モガも座って?今日は無礼講で行こう?」
「畏まりました、主命とあらば従います。」
「えっと…私も良いのですか?師匠?」
モガが何処か期待を込めた眼差しでメイド道の師、ジェシカに問い掛ける。
モガはジェシカに弟子入りしておりメイド道を極める厳しい道を自ら選んだのだ。
「えぇ、お嬢様が許可を出したのです。モガも席に着きなさい。セバス様もこちらのお茶をどうぞ」
「これは忝ない。うむ、良い香りですね」
「お粗末様です。」
こうして家臣同士(セバスは違うが)の会話を聞いていると平和だなぁ…と染々感じる。
が、束の間の平穏もすぐに暗雲立ち込めるってやつだ。
私は周囲の景色に視線を移す。
「あれ…?何か…燃えてない?」
私が視線を向けたのは東の山…ジェニーとホセが兵士、奴隷を率いて開拓している村の方だった。
青々とした森の一部が赤く燃え黒煙を上げている。
私は焦燥感に捕らわれ動き出す。
「ジェシカ、直ぐに屋敷へ連絡を!もしかしたら開拓村に何かあったのかも知れない!急いで!私はこのまま、森へ向かうからジョセフに伝えて!兵士の裁量は任せる。なるべく早く救援に来るようにって。セバス、レインとモガ、リビーを連れて屋敷へ避難。一応マルセムの守りを固めておいて!」
「畏まりました」
「御意に」
「レイン、リビー、モガ、少し行ってくるね?いい子にしているんだよ?」
「リリー…いえ、何でもありません。気を付けて下さいね?」
ごめんね、レイン。絶対なんてないけど、私は必ず帰るから。
「リリお姉さま…」
私は今にも泣き出しそうなモガの頭を撫でる。
「リリ、おまじないする」
そうリビーは呟くと背伸びをして私の額に口づけをした。
うん、効きそうなおまじないだ。俄然やる気が出てきた。
レインのジト目が気になるが、今は言い訳している時間はない。
人命救助が最優先だ。
「行ってきます」
私はそう呟くと身体強化を発動し、結界魔法を駆使して空中から俯瞰しながら村の方角へ向かった。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
私が辿り着いたのは30分後だった。
まずは消火からだ、これ以上火の手が広がれば危険だ。
巨大な水球を作り出し、火の手へ向けて飛ばす。
シュウウ…と音を立てながら火の手は段々弱まってきた。
もう一度繰り返すと何とか消火は出来た様だ、私は地上へ降り村周辺を探索する。
作りかけの住宅や木柵は燃え、黒ずんでいる。
人影を探すも離散した後なのか、誰一人としていない。
気配関知を使い周囲を探るも反応はなかった。
私は風魔法を使い声を拡散する。
『我が名はリリアナ・アルデン・センティス!誰か居ないか?』
「た…すけて…」
微かな声…だが私の耳はそれを聞き逃さなかった。
声の聞こえた方へ走り、瓦礫の下に埋もれた女兵士を引っ張り出す。
「大丈夫。今治癒魔法を掛けるから。少しだけ辛抱して?」
「ありがと…う、ございます…」
淡い光が女性兵士を包み込み火傷跡を癒す。
腹に剣で斬られた様な跡も有ったのでそれも癒した。
私は小さな水球を複数作ると女性兵士に飲む様に進める。
息を吐き落ち着いたのか私の手から離れその場で軍式の敬礼を取った。
「ゆっくりで良いから何が有ったか話して?」
「はい…早朝、突然山の向こうから二百人の兵士が現れました。旗はアブロー男爵家のもの…襲撃により、奴隷と数名の兵士が犠牲になり私はジェニー殿とホセ殿を逃がすため戦いましたが、多勢に無勢…森に火を放たれ腹を斬られ、そこから意識はありません。」
「報告ありがとう。動ける?」
「はい、支障はありません」
「じゃあマルセムに向かってジョセフに報告をお願い。私はもう少しこの辺を探って生存者を探すから」
「分かりました」
「あなた、名前は?」
「ベラです」
「そう、覚えておくわ。ベラ、頼んだよ?」
「はっ!」
ゆっくりと歩き始めたベラを見送り私は結界魔法で空中から山の方を目指す。
もし、センティス領に侵攻するのが目的なら援軍か何かしらの痕跡があるはず。
ジェニーはホセといる筈だから命の危険はないだろう。
奴隷は…兵士がこんな状態に陥っているなら、最悪のパターンも考えておくべきか。
鉱山の天辺に辿り着くと私はアブロー男爵領側へ視線を向ける。
「見付けた」
山の六合目辺りに複数の天幕を発見する。
私は忍び寄り泥沼男を二十体生成した。
しかし治癒の要素は抜き、麻痺するよう電気属性を付与した。
「ンボオォォォ…」
泥沼男の気味が悪い呻き声が辺りに響く。
もうじき日暮れ…相手も油断している筈だ
「な、なんだこの声は?う、うわあぁー!」
一人の兵士が泥沼男の声に気付き天幕から飛び出すと不気味としか言い様の無い泥沼男を見てその場に尻餅を着いた。
「て、敵襲!敵襲!」
応援が駆け付け剣で叩き付けたり槍で突いたりしているが泥沼男は何の痛快も感じない。
当たり前だ、魔法なのだから神経なんてあるはずないのだから。
続々と捕らえられる兵士の波が終わると私は泥沼男を解除し、一人だけ残すと結界で兵士を囲った。
「一度だけ機会をあげる。素直に話せば命までは取らない。貴方の答えによってはこの人達の命もないから。話して…くれる?」
「……」
柵の中に居る兵士達の視線が男に集まる。
全身が痺れ話せないのか男は首を少し小刻みに揺らした。
まぁ、殺すつもりはないんだけどね。
「そう、じゃあ解除してあげる。貴方は、YESか、NOで答えてくれるだけでいい。」
「お前は一体ーー」
「いい?二度は言わないわよ?はいかいいえ、それだけ答えなさい!」
私は腰の剣を抜き男の頭の横の地面に突き刺した。
縮こまり失禁した男の様子を見るに脅しは有効の様だ。
「貴方達はアブロー男爵家の兵士で間違いないわね?」
男が頷く。まぁ、鎧や剣に刻印されている刻印を見れば分かるのだが…一応、確認だ。
「目的は侵略?」
男が目を見開き固まる。
多分私が本心を言い当てたのが余程驚いたのだろう。
これも肯定っと…
「じゃあ貴方達が死んでも問題ない訳だ…私が誰か分かる?」
首を横に振る。
もしかしてこっちの事を何も調べずに挑んできたのかな?
馬鹿すぎるにも程がある。
多分鉱山関係で書状を送ったのが利いたのかな。
権利は此方が貰うという内容だったから憤慨したのだろう。
それにまんまと騙されて兵士を送り侵略してきた。
アブロー男爵…見透しが悪く、度し難いほど馬鹿な人だな…
よろしい、ならば戦争だ!
「魂に刻め!我が名はリリアナ・アルデン・センティス。アルデン伯爵家の嫡子にしてここセンティス領を治める者なり。貴様等狼藉者には死を持って報いて貰おう…【暗闇】」
「う…うわぁ、前が!前が見えねえ!」
「ひぃ、あれは死神か?!く、来るな!止めろぉー!」
「うぎゃあー!俺の右腕が…!!」
「痛ぇよ…痛ぇよー!!」
兵士は声を上げながらまだ付いてる腕や足を抑え呻き、徐々に衰弱、気絶していった。
うん、少し強すぎちゃったかな…
暗闇は幻覚を見せる魔法なんだけど、効き目が少し強かったみたい。反省、反省。
そういえばそろそろジョセフが兵士を引き連れて森に辿り着いた頃だろう。迎えに行こうか。
私はまた結界の足場を作り空中を走り出した。
ゲース卿にお仕置き執行。
嫌いな大人には容赦ないリリアナです。
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