少女子爵と三人の大人
20時より五話連続投稿します。
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食事も済ませ昂ぶっていた戦意も冷めた頃合い。
ボルトンを引き連れ私は屋敷に入っていく。
ボルトン達は武装解除させ、数名の供を許した。
改めて見るとボルトン達ボルボル族は騎馬民族だからか足の筋肉がかなり発達しており、それなりに鍛えている隣に警戒しながら立つヴェイルの1.5倍近くは太いんじゃないだろうか。
露出過激な民族衣装から覗く腹筋は見事なシックスパック。
これだけ鍛えられていれば馬上でも弓を引くくらいは簡単にこなすだろう。
ボルトンは大体25~6才くらいの青年だろうか。
浅黒い肌にくすんだ黄色の髪の毛、よくよく見れば結構イケメンである。
まぁ、この世界美形ばっかりなんだけどね。
私の周りも美男美女揃いなので感覚が少し麻痺している。
私もそこそこ顔には恵まれてるし。
そんなこんなで私の執務室に辿り着くとボルトンに襲撃の理由を尋ねる。
「俺達ボルボル族は南のアパ族と北のメレ族と長年争っていてな。食料と存亡の危機だったのだ。元々は一つの部族だったが内紛が起き二十の部族に袂を別った。それから年月と共に我等三つの部族が残ったのだ。先日この地より食料を略奪したのはアパ族だろう。悔しいが数が多く、大柄な奴がアパ族には多い。我々では手足も出ない。北のメレ族と協力すれば数は互角になるだろうが先々代の頃に族長同士の一騎討ちで相討ちとなって以来、禍根が残っているため協力関係になるのは難しいのだ。」
「確かに大柄で斧を振り回しておりました。間違いないでしょう。」
セバスが相槌を打つ。
「なるほど…。」
私は思案する。
そのメレ族とアパ族を勧誘すれば軍の補強となりセンティス領は豊かになるだろう。
足りない食料は私財を擲ってでも買い集めればいい。
畑も騎馬民族の脅威が去れば外壁の外を耕してみるのもありだろう。
彼ら騎馬民族は力に従う。
ならば彼らより文明度の高い私達に勝ち目はあるはずだ。
アパ族は戦士600名、メレ族は400名程らしい。
里には残り100を残してこの領都に侵攻したという、下手すれば隙を突かれて里が落とされるかもしれないのに。
「騎士ジョセフ、これから300の兵を連れてボルボルの里へ向かいボルボル族と協力してアパ族を落としなさい。その後北に転進、メレ族と交戦、これを撃破しこの地に戻ってくること。これは貴方にしか出来ない事よ、やってくれる?」
公爵軍を抜いてほぼ全軍の兵をジョセフに預ける。
私の一番信頼している大人だし、私の考えをずっと傍で見てきたのだ。
彼にしか任せられない。
私はジョセフの瞳をじっと見る。彼は苦笑しながらも敬礼し声を上げる。
「はっ、必ずや勝利して見せましょうぞ!私にお任せください!」
「貴方の忠義、本当に助かるわ。帰ったら報償はたんまり期待しててね?食料は…そうね、半年分もあれば足りるか。道中腹を空かせたメレ族やアパ族の人にも配る事!良い?」
「御意に」
ジョセフは一礼するとヴェイルを連れ執務室を後にした。
ボルトンも部族を纏める為執務室を後にする。
私は心の中で静かに祈る…ジョセフの勝利を信じて。
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時刻は昼過ぎ。
今後の政策について文官達と話し合いしたのち、私は公爵と二人のみで面会している。
鍛練に出ようとしたところ、公爵に呼び止められたのだ。
この際だ、お世話になってるからきちんとお礼を言わなければ。
「閣下、改めてご協力に感謝します。騎馬民族との戦い、何とかなりそうです。それと色々とご便宜を計って下さり感謝しても仕切れません!」
「儂は何もしてないがの。リリアナ嬢が一人で解決してしまったじゃないか。これまでの事もそう。お主が誰よりも懸命に働くからこその成果だろう」
「ですが、切り替えは大事だと思いますので言わせてください。ありがとうございました!」
「よいと言っておるんだがな。まぁ気持ちだけ受け取っておこう。」
公爵は苦笑いをして窓の外を眺めている。
あ、これも聞かなきゃ!
「所でしばらくは滞在されるのですよね?いつ頃王都に戻られる予定なんでしょうか?色々と見て回りたいのですが。」
リビーと公爵はいつまでセンティスに居られるのか不意に気になり公爵に尋ねた。
「ああ、儂は一週間後に王都へ立つ。リビーはこのまま春までは厄介になるか。王都の冬は寒いからな。兵士達に領民の住宅を建てるのを手伝わせよう。娘が世話になる礼だ。見回りは数ヵ所で良かろう、また夏頃に来るので他の場所はその時にでも回ろうか」
「では私から報酬を出すという形式にしましょう。何も無しでは兵士達も気が進まないでしょうし。予定を詰め、最低限の場所を見繕っておきます。」
「それが妥当か。よろしく頼む。…さてリリアナ嬢よ、一つ提案があるのだが良いかな?」
「何でしょうか?」
「今ジェネシス領は荒れておっての。代官である儂の遠縁の者が水面下で怪しい動きをしておってな。反旗を翻し領民達やら他領のあらくれ者共を集め内乱を起こそうとしている。儂は軍務の代表だから表立っては動けなくてな。だが、近いうちに兵を起こし鎮圧することが陛下との話し合いで決まっておる。来年の春…いや夏までには片付けようと思ってるのでそれまでオリヴィエを預かってくれないか?先程ああ言った手前締まりが悪いのだがオリヴィエの命にはかえられぬ…良いか?」
それはつまり…リビーと親公認の同棲ということですか?!(ゴクリ
よし、すぐにゲース卿を呼び寄せ婚約しよう、そうしよう!
うっひょー!やった!やったァ!
はッ…!冷静になれ私。
悪役呼び出してどうするんだ!今公爵に敵は身内にいると聞かされたばかりじゃないか!
もっと慎重にならなきゃ!
それにもし私の本性が公爵に漏れでもしたらヤバいぞ!
リビーも一緒に連れて行ってしまい兼ねない…
それだけは勘弁してほしい。
お茶を一口含み喉を湿らす。ふぅ…落ち着いた。
話を纏めよう。。。
ジェネシス領で内乱?
そんな話初めて聞いたな…。
公爵は王都暮らしだし、リビーも一緒だ。
だけどいつ反乱軍の魔の手がリビーを襲うかも分からない。
私と公爵の仲は陛下と祖父しか知らない。
いやもう一人…現教皇名前はえーと…そうブランデッドさんだ!
もし教会が接触してくる様な場合はリビーを安全な所へ移さないと……!
セバスが居るからこっちにリビーを残した方が賢明だよね。
つまりリビーを隠すには丁度良いってことか。
「分かりました。リビーの事はお任せください。王都に経つまで我が家だと思っておくつろぎ下さいね?」
「あぁ、すまんな。娘共々世話になる。」
「それでは私は執務に戻らせてもらいますね、閣下はこの後町の視察でしたっけ?」
「うむ、民の生活ぶりをこの目で確認しておきたいからな。何かあったらまた訪ねよう。」
「行ってらっしゃいませ。」
「ああ、行ってくる」
公爵は扉を開き執務室を去った。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
「リリ、とーさまは?」
夕方頃、リビーが突然執務室の扉を開きやってくる。
一瞬天使かと見間違えたがやはり天使だったので私の目に狂いはない。
「閣下は今、町の視察中で出掛けてるよ?何かあったの?」
「ん…あ、えっと」
言い澱むリビー。
その時私はリビーの下半身の衣服が濡れていることに気付く。
あぁなるほど。
私は察した。
「あ、そうだ!リビー、一緒にお風呂行こ?仕事も落ち着いたし、気分を変えたかったんだ。」
「え、でも」
私は気付かないふりをし、リビーの手を掴み歩きだす。
こうゆうのは繊細な問題だ。
見てみぬふりをし、しっかりとフォローするのが最善手だろう。
「あ、ジェシカに伝言があるんだった。先に入っちゃって?脱いだ服は篭の中に入れていいから」
「うん」
私は風呂の前でリビーの手を離し、玄関まで移動する。
そこで待っていたジェシカに状況を説明するとリビーの元に戻った。
「お待たせ、お湯加減はどう?」
「ん、ちょどいい」
「今試作してるドーナツがあるんだけど、お風呂上がりに味見してもらってもいいかな?」
「あじみ…?どーなちゅ…するー!!」
「待って、私入ったばっかり!」
今すぐにでも風呂から飛び出そうとするリビーを押さえつけしっかり体を暖めてもらう。
この数日間で一緒に風呂に入っていたからか、リビーの体に耐性を付け、鼻血を出して倒れるなんて事はなくなったのが幸いだ。
どうやらドーナツ一つでリビーは機嫌を治すようだ。
蜂蜜が手に入ったから試しに生地に練り込んでみたんだよね。
砂糖は相変わらず高いから代替え品としては丁度良いかも。
最近かなり寒くなってきたが、王都とは気温が違うのか少し暖かい。
それでも寒いのは変わらないのでしっかり体を暖めた私はリビーを連れ台所までやってきた。
「どーなちゅ!どーなちゅ!」
リビーは興奮冷めやらぬのか噛んだまま連呼し、ご機嫌だ。
私は軽く頭を撫でると生地の形を整え揚げていく。
プレーンのものも幾つか用意し食べ比べ出来るようにした。
ジェシカも片付けが終わったのか台所に顔を出し、紅茶の準備をしている。
少し遅めのティータイムを行い女三人で楽しい時間を過ごした。
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夕食は軽めのものを取ると私はジョセフの従兄弟ホセを呼び出し、鍛練をお願いする。
「あっしで稽古の相手が務まりやすかね?」
「ジョセフの従兄弟だし、槍の名手なんでしょ?お願い!」
「まぁ、体を動かしたいってのぁ、ありやしたが良いんですかい?あっしは中途半端は許しやせんぜ?教えるからにはこの槍全てを教えるまでとことんやりやすよ?」
「うん、お願い!」
どうせ、ホセはリビーの護衛として夏まではセンティスに居るのだ。
教えを乞うには良い機会だ。
「まずは剣の腕を見せて貰いやしょうか。その腰にぶら下げたモンははったりじゃないんでしょう?」
「分かった!一応ジョセフには免許皆伝を言い渡されてるんだけど、ホセには私の実力を試してほしいし、やるよ!」
そう、私はセンティスに来る前に、晴れてジョージ流剣術免許皆伝をジョセフに言い渡された。
日本の道場で言う師範代クラスになったといえば分かりやすいだろうか。
「ジョセフの奴ぁ、甘すぎんのが珠に瑕なんでさぁ。あっしはそこまで甘くないですぜ?」
「じゃあ本気で行くね?魔法は使って良いの?」
「もちろん。あ、攻撃魔法は無しですぜ?流石のあっしも無傷ってわけにゃいかないんでね」
その言葉を聞き終えるとホセは構えを取った。
私も剣を抜く、ジョセフから免許皆伝の祝いに業物を送られたのだ。
銀色の細く長い鋒は見ているだけでため息が出るほど美しい。
確か希望峰って名前だっけ?
長ったらしく解説を挟んでくれたが内政について考えてたのでほとんど聞き流していた。
気持ちを切り替える。
槍を構えたホセは一分の隙がない。
どこから攻めようか…
そんな風に思案しているとホセが一気に距離を詰める。
「おわっ!」
「あっしは待つのが嫌いな性分でしてね。センティス卿、慎重なのは良いことですがちと難しく考えすぎですぜ?」
「分かって…る!たりゃー!」
私は槍を避け懐に飛び込む。体当たりをかましてそのまま下から斬り上げるも寸前で受け止められた。
「今のは中々良い判断でしたぜ?けど、重さが足りない」
「くっ…まだまだッ!」
まだ成長途中の体なのだ、力がないのは分かってる。
何度も剣を振る斬り上げ、斬り返し、振り下ろし、回転を加えての振り回し、ジョセフに教わった全てを丁寧かつありったけの力を加え強く行った。
ホセがバランスを崩し片膝を突く。
驚いた表情をして此方を見る。
次の瞬間、ホセから殺気が放たれる。
ジョセフの殺気を浴び馴れてるからか、私は堪え構えを取る。
それを見るとホセから笑みが溢れた。
「なるほど…こりゃジョセフが執心するのも分かりやす。将来が楽しみだぜ!センティス卿…いや、お嬢。とりあえずは合格でさぁ!」
一先ずは合格か…
よかった、私は安堵し力が抜けその場に座り込んだ。
「今日はもう遅えですし、しっかり体を休めておいてくだせえ。明日からはがっつり鍛練しやすよ?」
「はい!」
やっとのことで立ち上がり私は井戸から水を汲み上げ頭から被ると服を脱衣所まで運び濡れた下着のまま自室へ向かった。
案の定ジェシカに見付かりお叱りを受けたのは言うまでもない。
続き21時に更新します!
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