少女子爵、領地凱旋
お待たせしました。
センティスの門に辿り着くと先触れに走らせた兵士と共に私の私兵百名、ジェネシス公の私兵五百名が私達を出迎えた。
門の前には代官である、センティス公の執事セバス…セバスティンが立っており私の到着を歓迎してくれた。
「子爵様、お久しぶりにございます。長旅ご苦労様でした!」
「有り難う、セバス。悪いんだけど少し体調が悪いから業務は明日からでも良いかな?」
ジョセフの地獄の三丁目コースでボロボロだった私はとにかく休みたかった。
「ええ、勿論ですとも。ささ、中へどうぞ。温かい食事と湯の準備を済ませております故疲れを癒してくだされ」
セバスは快く受け入れてくれその日は食事、風呂を済ませるとそのまま眠りに就いた。
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翌日、日の出と共に目覚めた私は軽く日課のストレッチを済ませるとセバスに声を掛けランニングへ向かう。
体がまだ若いからなのか筋肉痛などベッドで一晩休めば吹き飛んだかの如くかなり調子が良い。
私がセンティスに着いたのを聞いたのか民とすれ違う度に挨拶をされる。
私はそれに手を振り応えるとランニングを続けた。
王都でもランニングをしていたが声を掛けてくれるのは付き合いのある商店の人間かおじいちゃんおばあちゃんばかりだった。
しかも外見が男っぽいからか「坊主、今日も元気だな」などと言ってきた。
だが私はそんなの気にしないので愛想笑いを返し挨拶を済ませその場を去ったのだがあの人達にはきちんと挨拶を済ませてなかったなとふと思い出した。
小高い盛り土の上で大工らしき人物達が威勢良く勤労に励んでいる。
私の居館となる屋敷は急ピッチで施工されているらしいが、完成にはまだまだ遠い。
あと二ヶ月は掛かるだろう。
それと並行し領民達は以前城壁と共に私が作った簡易小屋を順番に作り替えているらしくあと一年もすれば彼らの家も軒を連ねることになるだろう。
私はランニングを終え、井戸水を頭から被るとその場で服を脱ぎ洗濯しているメイドの元へ持っていく。
パンツ一丁な私に驚くもメイドはそれを受け取り甲斐甲斐しく洗い始めた。
ごめんね、仕事増やして。
「お嬢様、ここはアルデン領ではありませんよ?もう少し周りの目をお気になさってください」
家に入ると窓から見掛けたのかジェシカが片手にサンドイッチの乗ったお皿、反対側に私の着替えを抱えお小言を言ってくる。
「ごめんごめん、少し熱くなりすぎちゃって。あ、私子供だから分かりませーん」
前にイレーネから聞いた話だが、ジェシカはもう少し子供っぽく振る舞って欲しかった、私の教育が間違っていたのかなどと悩んでいると聞いた。
それを突然思い出し実行に移した。
「どの口が言いますか。これからはランニング後の井戸水被りは禁止です、分かりましたね?」
あっちゃー、タイミングを間違えたかな?まぁいいか。
「はーい」
「はいは伸ばしてはいけませんっ!」
「イ…イエスマム!」
私は敬礼をして食事を済ませ、礼装に着替えると執務室に居るセバスの元へ向かった。
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「子爵様、改めて本日からよろしくお願いします。」
「リリアナでいいよ。こちらこそよろしくね、セバス。ランゼの面倒も見てくれて有り難う。さて挨拶はこれくらいで、まずは…この書類の山か」
執務机に腰かけた私の目の前には私の背丈を越す程の書類の山が三山連なっている。
「多い…ね…」
「ええ、ですがまずはこちらを優先して戴けると有り難く存じます。」
セバスが懐から丸めた紙を取り出す。
それは三枚あった。
「えっと、どれどれ…仕事が欲しい、宿屋を建ててほしい、軍備の不安?」
「はい、現在センティスでは領民の食料を配給するという形を取っております。これは騎馬民族に略奪されてしまう為に農地を拡げられないのです。ですので農民には畑を耕すことさえもままなりません。更に十日ほど前に騎馬民族の襲撃を受け半数が痛手を負うという情けない状態で敗戦しました。これは大量の小麦を分け与える事で騎馬民族は矛を収めたのですが、領民達の不安も募るばかりです。」
なるほど、悪循環ができちゃってるのか…
ちょっと、待って…?
これ、詰み掛けてない?
問題は山積みだ。
どれから手を着けようか…
悩んでいるとセバスが声を掛けてくる。
「まずは領民の慰憮からした方が宜しいかと。子爵様が直接統治をなさる事を民に知らしめる為、パレードを催すのは如何でしょうか?」
「パレード?」
「ええ、武装した兵を連れ将来メイン通りとなるこの位置からグルリと外周を回りここへ戻ってきます。その後、領民達に食料と酒を振る舞い下がった士気を回復するのです。」
所謂軍事パレードか…
良いかもしれない、やってみよう。
とりあえずパレードは一週間後に決定し、午前は書類仕事、午後に貴族当主の振る舞いや作法を習う。
空いた時間から私は一人演説の練習と衣装合わせなどを行っていると一週間はあっという間に過ぎていった。
なお、メイドに着せかえ人形にされたことも記しておこう。
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パレード当日。
私は格式張った軍式の礼服に着替え愛馬スタローンに乗り込む。
彼女は真っ白な毛並みに鬣が金と美しい名馬で母方の実家から五歳の誕生日以降に贈られた大切な友だ。
スタローンの名前の由来は有名な俳優から取っている。
私ファンなんだよね。
今日もブラッシングをされ馬衣を着けおしゃれしている。
今は三歳だから人間換算で17才、年頃の娘だ。そろそろ旦那さんを見つけてあげないといけないな。
ちなみに馬の年齢の知識は前世の田舎で幼馴染みの競馬牧場の息子に習ったことがあるためそれで大体の換算をした。
話が逸れた、私はスタローンに跨がり高く剣を掲げ兵達へ鼓舞の声を張り上げる。
「我が名はリリアナ・アルデン・センティス!この地を統治する者なり!屈強なるセンティスの兵達よ、我が背を追い駆けよ!」
風魔法を使い拡声器の要領で領内全体を包み込む。
熱気と共に地を揺らすほどの声量が返ってくる。
「「「うおおおぉぉぉお!!」」」
「進めぇ!!」
私の合図と共に門へ向かい駆け抜ける。
距離は一キロ、行きは駆け足。
帰りはゆったりと城へ戻る。
歩兵にはかなりきついとは思うが訓練してるし大丈夫だよね?
終わったらしっかり労ってあげよう。
外周を終えゆっくり常歩で城へと戻ると領民から私に声援が飛んで来る。
私人気あるんだなぁ。
と、ふと思い可笑しくなりながらも笑顔で手を振り応えた。
パレードを終え炊き出しの段取りに入る。
この日の為に狩人や兵士に猪や鹿を北の森へ派遣し狩猟してもらった。
その数、猪十八頭。
鹿三十九匹。かなりの大猟だ!
酒もリモーネ商会で集めさせ質の良いものを振る舞う。
私は屋敷前に作られた上座に座りその光景を見る。
民達は笑顔で私に感謝の言葉を述べてはまた料理に手を付けていた。
今回のパレードと炊き出しは大成功と言って良いだろう。
民の士気は上がり私の顔を売る事も出来た。
次は仕事を与え、その後は騎馬民族の討伐或いは和解だな。
今後の予定を脳内で組み立て私は眠りに就いた。
馬の年齢換算はGoogleを参考に致しました。
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2019/07/23 20時タイトル変更しました
 




