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リリアナお嬢様の命令よ!~転生伯爵令嬢は自分に素直に生きると誓いました~  作者: 如月 燐夜
一部四章 少女子爵領地経営編
62/232

少女子爵、代官を任命する

新章開幕です。

ごゆるりとお楽しみ下さい。

私が正式に子爵位を陛下から賜り四日が経った。


その効果というか弊害というか定かではないが屋敷を訪問する貴族と利に敏い貴族が後を絶たない。


私は伯爵以上を優先し、同格の子爵、下格な男爵達の対応にひた走った。



一番最初に訪れたのはなんというか予想通りジェネシス公爵だった。


手土産に高級品の酒を樽ごと持ってきたのが公爵らしいというか、なんというか…私はまだ七歳だぞ?


まぁ、兵士や屋敷に勤める人たちに少しずつ分けたので問題ないのだが…



王都にも私の商会の商品が出回り私の名が広がったお陰か、挨拶に来る貴族が相当数に達していた。


祖父から文官を派遣してもらい何とか対応してくれはするものの、祝い品やら馬車の整備やらで遁走する彼らを見て申し訳ない気持ちになる。


人材の充実、一つ問題点が分かったのは僥幸だ。


一息吐きイレーネの入れた紅茶を飲んで居ると父上と身重な母上、マシューが訪ねてくる。


一ヶ月ぶりに見るマシューは少し背が伸び相変わらず目元を隠すほど伸びた黒髪でその瞳を覗くことはない。


「母上、マシュー、久しぶりです。」


「あぁ、リリアナ…!戦争に出るなんて無謀な事を…!けど…無事で、本当に無事でよかった…!」


「ご心配をお掛けしました。ですが私はこの通り無事です。母上こそ身重の体で大丈夫なのでしょうか?私は母上と生まれてくる弟か妹の方が心配なのです」


「この子ったら自分を棚に上げて…まぁ、良いわ。マシュー、私たちは席を外すからリリアナと話してなさい。言いたい事があるんでしょ?」


「はい、母様。」



父と母が出ていくとマシューは居心地悪そうに立ち竦んでいたのでソファーに座らせる様に促した。


「…」


「…」


沈黙が続く。一向にマシューは口を開かなそうなので私から声を掛ける事にした。


「その…ガーズ男爵は災難だったわね…御悔やみ申し上げるわ」


私は避けては通れぬガーズ男爵…マシューの父の死について触れた。


いずれ話し合わなくてはならないし、ガーズ男爵領は私の直轄地となった。



その事を話しておかないとマシューだって辛いだろう、重く閉ざしていた口をマシューは開く。


「……いえ、姉さんが気にする事ではありません。家族と領民を守り亡くなったのですから父も本望でしょう。それに僕は既にアルデン家の養子となりました。」


「強く…なったのね。」


それは力ではなく精神的な意味での言葉。


私の目の前に居るのは泣き虫で気の弱い子供ではなく親の死を乗り越えて成長したマシューだった。


「僕も男の子ですから。」


「でも辛いときは泣いても良いんだよ?今は私しか居ないから胸くらい貸してあげる。」


「姉……さん…うぅっ…ぐすっ…うわぁぁん…」


塞き止めていた感情が雪崩れ込んだかの様にマシューは私の胸に顔を埋め声を上げて泣き出した。



それから一時間ほどマシューは泣いていたが今は顔を洗い落ち着いた顔をしている。


マシューの涙や鼻水でぐちゃぐちゃな服を脱ぎ、イレーネの用意した服に着替えると私は腰をソファーに落ち着け口を開く。


「マシュー、私を手伝って見る気はない?」


「え?手伝い…ですか?」


「そう、文官も付けるし貴方の成長には必要な事だから。」


「姉さんが言うなら。けど何を手伝えば良いの?」


「旧ガーズ男爵領、ガルガンドの代官。人手不足でね、マシューの手も借りたいくらいなの」


「ぼ、僕が?流石に無理です!」


「ダメ。決定事項。マシュー・グレイプ・アルデン、貴方を正式にガーズの地の代官に任命します。イレーネ、チャールズを呼んできて」


私は有無を言わさず、その場で略式の任命式を行い、渋るマシューの退路を塞いだ。そして扉の前に控えていたイレーネにチャールズを呼び出してもらう。


「畏まりました」


丁度良いや、父上に押し付けようとしてたけどこの際マシューがガルガンドを治めてくれるなら都合がいい。


元領主の息子だし、民の評判も良かったからね。


この際だから纏めてマシューに押し付ける。


旧ガーズ男爵領の復興、食料問題と課題は山積みである。


チャールズをマシューに付けてガルガンドに送り統治させる。


それが私にとっても領民達にとっても最善な事には変わりない。


「お待たせしました、チャールズです」


「うん、入って」


背の高いイケメン執事が姿を現す。


長い茶髪を後ろで束ね、通った鼻筋、大きな二重、ビシッと着こなした執事服が様になっている。


前世ならアイドルでセンターを任せられるくらいのイケメンだ。


え?それは女性アイドルだって?

この際どっちでもいいよ。私は前世のアイドルには興味なかったのだ。


「この子は私の義弟のマシュー。先代ガーズ男爵の忘れ形見ね。」


「マシュー様、初めまして。執事のチャールズと申します。」


「え?あ、はい、マシュー・グレイプ・アルデンです。」


「挨拶は済んだわね?じゃあチャールズ、貴方はマシューの補佐としてガルガンドの屋敷に行ってちょうだい。イレーネも一緒にお願い。頼める?」


「「畏まりました」」


私の従者二人はガーズ領が逼迫した危機を抱えているのを知っている。


マシューの補佐にはうってつけだろう。


イレーネも貴族家の教育を受けてるし、チャールズも伯爵家に仕える執事としてきちんと教育を受けている。


マシューが何か言いたそうにしていたが私は執務机に座り書類の可否を判断する仕事に戻った。


すると突然マシューが口を開く。


「その…姉さん。いつもありがと…!」


私は急に顔が赤くなるのに気付いた。


「……う、うるさい!ほら、いつまでも座ってないで準備なさい!実家の荷物は後で送り届けさせるから!」


「大丈夫だよ。姉さんは口は悪いけど僕の事いつも心配してくれる。だからそれに対してのお礼は言わないと」


更に私の顔が熱くなる。


「あぁー…もう!少し疲れたから体を動かしてくる!」


下を向き私は執務室から飛び出した。


マシューに全てを見透かされている様な……そんな気分がしたのだ。


▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



庭で剣を振っているとジョセフが近付いてきた。


「子爵様、精が出ますねぇ」


「暇なら相手してよ」


「あっしで良いんで?」


「良いから。あと、いつもの口調に戻して?胡散臭くてイライラする」



私が正式に子爵位賜った翌日からジョセフはよそよそしい態度になった。


何度も抗議したが、ジョセフは軽くあしらい飄々とかわしていた。


「なら試合形式であっしに勝てたら…ということでどうでしょう?」


「分かった。ジョセフが勝った場合は?」


「んー…そうですねぇ。なら子爵様の正式な騎士に任じて戴けますかい?」


もう私の騎士同然なのにこの男は何を言ってるのか。


欲が無い人だなぁ。



「分かった。それでいい」


「準備は…宜しいようで」


私は開始の合図など出さずにジョセフへと天高く木剣を構え駆け出した。


お互いに構えたらそれで試合は始まっているのだ。



先手必勝、私は気合いの籠った声を出す。


「ちぇあぁーー!」


「むんッ!甘い!」


私の降り下ろしを横薙ぎに打ち据え、横に飛ぶとジョセフは袈裟懸けに木剣を振るった。


「うわっ!とと…」


「子爵様まだ踏み込みが甘いですぜ?」


私のやることはお見通しとばかりにジョセフは平然とやってのけた。



悔しいがこれでも私の騎士であり、剣の師匠だ。


そう簡単には勝たせてくれないらしい。


段々とジョセフの剣檄が激しくなっていく。

いつもより格段に速度が上がっている。


何度か鋭い打ち込みを食らうも肘や膝、体の堅い部分で受けその都度治癒魔法を使う。


一瞬ジョセフがよろける。が、私は敢えて無視する。


多分誘いだ、以前似た様な事をされ痛い目を見たのを思い出す。


「…流石にこの誘いはバレてましたか。」


「そう何度も騙されないよ、私は。」


「へへっ、そうでなくちゃ」


ジョセフは鋭い乱打を打ちながらも鼻を掻き笑った。


「いくよ、魔法も使って良いんだよね?」


「それはもちろん。その代わりあっしも少し本気を出させて戴きます」


火球が舞い、水矢が大地を濡らし、風刃が砂埃を巻き上げ、土槍が地面を抉る。


その魔法の数々をジョセフは避け、時には木剣で切り伏せ突破していく。


ヒートアップする試合に、気づけば私もジョセフも歯を剥き出しながら笑った。


決着はーーー


「はぁ…はぁ…あっしの敗けでさぁ、子爵様…いや、お嬢」


息荒くジョセフが敗けを認める。


「ふふーん!でも私もギリギリだった。ジョセフ、素晴らしい時間を…ありがとう」


「おや、お嬢にしちゃ萎らしいじゃねえですか?」


「うん…マシューにお礼を言われてね。全部知られてたみたいで恥ずかしくなって部屋を飛び出したの。でもお陰で気付かされたんだ、お礼を言えるならきちんと伝えるべきなんだ!って」


「そうですかい…まぁ、お嬢は素直じゃねえですからなぁ。マシュー坊っちゃんも色々思う所があるんでしょうぜ」


「そうかなぁ」


「きっとそうですよ」


なんてやりとりをしていたが…


辺りは暗くなり始め夕日の赤と橙が私達を照らす。


私の寝転がった頭の上には笑顔のジェシカが居て…え?


「お嬢様、素晴らしい試合でした。」


「う、うん、ありがと…」


「ええ、とても素晴らしかったですよ。ですが…ーー」


穴だらけの庭を見渡すジェシカが怖い笑顔を私に向ける。


すぐに飛び起き立ち上がると私はジェシカに謝った。



「てへ!やりすぎちった」


「てへ!ではありません!ジョセフさん、貴方が着いていながらこの惨状は何ですか!」


「「ひぃー!ご、ごめんなさーい」」


私とジョセフは声を合わせて慌ただしく庭の補修を行ったのだった。

ネタバレ

ラスボスはジェシカ(嘘)



既に過ぎてしまいましたが、お陰さまで本作、【リリアナお嬢様の命令よ!~転生伯爵令嬢は自由に生きることを誓いました~】は四ヶ月を無事迎える事が出来ました。


連載開始当初はここまで続けるつもりはなかったのですが作者の遅筆と行き当たりばったりな作風でズルズルとここまで続いてしまいました。


プロット通りに進んでる筈なんだけどなーおかしいなー


ですがまだまだこの作品は続きます!

これからも応援の程よろしくお願い致します!


ブクマレビュー感想誤字報告お待ちしております!

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