準名誉子爵、軍師に任命される
さあ、はりきって行きましょう!
前回のあらすじ
リリアナとレインが朝チュン
私は慌てた。どうして布団が濡れているのか理由が分からないのだ…だが私もレインちゃんも七歳児。
大人の行為をするには早くてお漏らしと言った方がまだ納得するだろう。
しかし臭いはしない、それが余計に混乱をさせた。
「リリーさんおはようございます。ん…?布団が湿ってる…?あぁ…!」
起き抜けでも機嫌の良いレインちゃんがなにかを察した様な顔をしている。
私は恐る恐るレインちゃんに尋ねた。
「えっと…昨晩何があったか知ってるなら教えて欲しいな…?」
俯きがちに訪ねるとレインちゃんは何故か私をがばっと抱き締め頭を撫でてくれた。
え?もしかして私やっちゃったの?!
「リリーさん、貴女少し疲れてませんか?至らない私では有りますが友人として愚痴を聞くことなら出来ます。」
あ…良い匂い…柔らかくて甘ったるいレインちゃんの匂いが私の鼻を擽る。
この甘美な誘惑に負けて堕ちていきたい…
じゃなくて私はがばっとレインちゃんを引き離しとりあえず服を着ることにした。
夏の終わりとはいえ少し冷える。レインちゃんも納得したのか、いそいそと服を着始めた。
「お嬢様、おはようございます。昨晩はお楽しみでしたね?」
ふぇっ?!た、確かに久し振りのレインちゃんと会ってテンションが振り切っていたが、何故前世の有名RPGの宿屋のおっさんが言う台詞がジェシカから飛び出したのか私には分からなかった。
「からかうのは良いから昨日私が眠る前の出来事を端的に話して。」
「ふふっ、ちょっとした意趣返しです。最近構ってくれないので私も寂しいんですよ?」
「分かった分かった、じゃあ今夜は一緒に…ってレインちゃんどうしたの?」
振り返ると頬を膨らませいかにも私不機嫌ですと言うかのような表情をレインちゃんがしていた。可愛いなぁ
「リリーさんはとてもジェシカさんと仲がよろしいのですね?久し振りに会ったのに…」
のわー!?レインちゃんがいじけてる。これはもしや嫉妬?嫉妬を妬いてるのかい子猫ちゃん!?
「ええ、リリアナ様専属のメイドですから。うふふ」
ジェシカも大人の余裕を見せつけるかのように微笑みレインちゃんを煽る。
あーーこれダメなやつだ。
私は気配を消す様にスーッと天幕から逃げた。が、
「「リリーさん(お嬢様)!!」」
ひぃっ?!これはなんと言うか…朝から浮気が見つかった男の気分が分かった気がする。
私はおとなしく二人の元に戻り話を聞きながらただただ土産物の赤べこの様に頷くだけだった。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
昼前、また必ず会うと約束を交わし、レインちゃんは家族と共に王都へと旅立った。
朝からどっと疲れた私ではあるがこの後ジェネシス公の元へ纏めた作戦案を提示しなければならない。
「ヨッシ!」
両頬を二回叩き気合いを入れると礼服(男児用)に着替え報告書を持って公爵の元へ向かう。
昼食も一緒に取る約束になってるので食事は取っていない。
ちなみに昨晩の出来事はレインちゃんが帰ってからジェシカに聞いた。
なんてことはない、他の貴族に兵士(♀【19】ドジっこ)が届けるはずだった薄めのお酒が入った果実水が私の元に手違いで届きそれを少し飲んでしまったというだけだ。
全裸だったのは身体を拭いた後で着替えようとしていたのだが酔った拍子で着替えを濡らしてしまい
「まだ暖かいからだいじょぶらよねー」
と酔いが回り舌っ足らずな口調でレインちゃんとそのままシーツを被り寝てしまったのだそうだ。
ジェシカもその場にいたのだが私にここ数日ずっと付き合い、疲れが溜まってしまい居眠りをしてしまったとか。
私が「そのまま寝て良いよ」と伝え、心配しつつも女性用の天幕に戻り護衛のジョセフを残し布団に入ったらしい。
我ながら注意が足りない。
そしてお酒に弱すぎる。
レインちゃんは大丈夫だったみたいだけど珍事件(?)はこれにて解決した。
「失礼します。リリアナ・リモーネ・アルデン・センティス、報告に参上しました」
「入れ」
公爵の短い受け答えを聞いてから天幕の厚い布を開け中に入る。
中に入ると公爵本人と父、他に何人かの貴族と配給係のメイドが数名居た。
どうやら私はかなり遅れてしまったのではないかと思い頭を下げる。
「遅れてしまい申し訳ございません!」
「はっは、真面目だな。まだ予定より早い時間だ。昼食を食べた後作戦案を見させて貰おう。適当に掛けたまえ」
ジェネシス公はほがらかに笑うと自分の隣の席を指し示す。そこしか空いてないじゃん…まぁ良いか。
私は大人しく公爵の隣に座るとメイドさんが高さ調節の為の座布団を持ってきてくれた。
あ、結構可愛いな。そういえば前に公爵の家で見たかも。
「ありがとう」
「いえ、勿体なきお言葉にございます」
メイドさんにお礼を言うと恭しく頭を下げ後ろに下がった。
「さて、リリアナ嬢。何が食べたい?私直々に盛り付けてやろう」
「へあ?!あ、し、失礼しました。その様な恐れ多いことなさらないで下さい!自分でやりますので!」
「むぅ…そうか?いや、何。ちょっとした冗談だハッハッハ」
突然何を言い出すのかとおもったら私の緊張を解すための冗談だったらしい…いや、余計緊張したよ…
その後公爵は盛り付けることなく、私も立つことはなかった。簡単な話だ、メイドさんが全部やってくれたのである。
グラタンみたいなチーズをふんだんに使い、ホワイトソースがかかったパスタや、牛フィレステーキ、ケーキなどのデザート、前世で食べれば一食何万円するのではないかと思うような昼食を終え、食器が片付けられた。
私は用意していた資料を公爵に見せビクビクしている。あまり自信がないのだが、精一杯考えたのだ。
これでダメならまた議論だけが活発化し、下手すれば後手後手に回り被害が増える可能性が高い。
それだけは避けたい。
そう願っていると公爵に通じたのか遂に口を開いた。
「ふむ、お主は誠に戦才があるな。文句の付けようがない立派な作戦だ」
「あ、ありがとうございますっ!」
私は喜びを全面に押し出し公爵に感謝の言葉を述べた。
「いやいや、感謝したいのはこちらだよ。リリアナ嬢が代案を用意してくれなければ我が軍は後手に回り被害が甚大になっていた可能性も否定できない。それにこの作戦の完成度も大したものだ。その小さな体のどこにここまでの知略が収まってるのか気になるな」
何と公爵からお褒めの言葉を戴いた。嬉しいなんて言葉じゃ足りないね。
しかも同じ様な事をきちんと想像してたらしい。まぁ、当たり前か。
私みたいな小娘が思い付く事を(前世を含め)倍近く生きてる公爵に分からない訳がないよね。
「しかし、この部分だがまさか兵どもにやらせるのか?一ヶ月は掛かるぞ?」
「いえ、差し出がましいようですが、自分が行わせて戴きます。既にセンティスで実践済みですので」
そう、公爵が懸念している所は既にセンティスで実践済み。ただ規模がでかいのだが大体一日有れば余裕だよね。
「ほう…確かにセバスからその様な情報は回ってきておるが規模は三倍だぞ?出来るのか?」
でも一応出来なかった時の為に余分に一日もらっとこ。
「一度口にした手前引き下がる訳にはいきません。ですが二日ほどお時間を戴きたいと思います、魔力を回復させなければとても間に合いませんので」
公爵はフフッと笑い面白そうなものを見るかのような顔をして口を開いた。
「二日か…大きく出たな。だが今回はリリアナ嬢の言を信じてみるとしよう。リリアナ・アルデン・センティス、お主を現場権限により軍師とする。儂の期待に応えてみせよ」
公爵の期待が重いです…
意図せず出世してしまった…
「ははっ、陛下に誓い必ずこなしてみせましょう」
私は公爵の前に傅き許可が出ると天幕を後にし、現場へと馬を走らせた。
未成年、飲酒ダメ!絶対!
話は変わりますがお知らせです。
6/3(月)より新作を連載します。
ダンジョン経営ものです、よろしければ御一読ください。
『一から始めるダンジョン経営~全てを失った少年は最強ダンジョンを造り上げる~』
果たして如月に三本も書き続けることは出来るのか?
……正直言って不安ではありますが暖かい目でお見守りください。




