準名誉子爵、アルデン領へ
天幕で寝て一晩明けた。
快適とは言えないが爽やかな朝を迎える。
今日の予定はセバスティンに委任した後、アルデン領へと向かい、その後に後方陣地の作成である。
領地視察も出来た。
下水の基礎も防壁も築けた。
兵士や領民との交流も出来たしセバスティンとも今後の計画を話し合う事が出来た。
何も文句はなく順調と言っていいだろう。
身支度を終え朝食を取る。セバスティンと軽く挨拶を交わしてセンティスの地を後にした。
伊座向かうはアルデン領アーリン。センティスからは半日の距離である。馬に跨がり途中休憩を挟みながら順調に行程を進めていった。
途中我が愛馬スタローンが疲れたのか足を止めるも治癒魔法を掛けてやると喜び、その速度を増し振り落とされそうになるというハプニングもあったが特に問題はない。
ジョセフとジェシカにも休憩時間には治癒魔法を掛けてやり疲れを残さずアルデン領へと到着した。北東部から南西部へ領内を横断しアーリンに着いた頃には既に深夜近かった。
アーリンで私を出迎えてくれたのは父にジェネシス公、更にマシューの実父ガーズ男爵だった。
あれ?父さん王都に向かったんじゃ?そんな疑問が浮かぶも直ぐに答えに至った。
父はアルデン領主、ガーズ男爵はここから更に南に位置する場所を統治する人だ。
領地を敵国から守るのにこの場に居て何ら不思議な事はない。私はまずジェネシス公に挨拶をしてその後ガーズ男爵に挨拶をした。
父に声を掛けるとそこで私の体力は尽きたのか天幕へ向かいそのまま眠りについた。
翌朝私は軍議へと召集された。寝惚け眼で立ち上がり身支度をすると軍議の開かれる大きな天幕内へ入る。そこに居たのは南部周辺領地を持つ貴族と軍部の将官、参謀などだった。
天幕に入ると猜疑の目、好機の目、嫉妬の目、様々な視線を感じた。
私の様な小娘がこの場に何故呼ばれたのか皆不思議に思ってるのだろう。
何故呼ばれたのか分からぬままジェネシス公と父の間に座らされ、場違いに思ったが滞りなく軍議は進められた。
「我が軍10万に対し敵方は12万。しかし装備や精錬度は圧倒的に我が軍が有利。ここは攻め入り早々に決着を着けましょう!」
「それは愚かな考えだ。枯れた土地しか無いゆえ糧秣が少ないと早計するのはいけない。無策につっこんでは兵力差で必ず綻びが生じる。ここは慎重になるべきだ」
現在軍議の場は二つの論派に別れていた。
進攻派と慎重派だ。
進攻派は血気盛んな領地を拡大したい貴族連中が、慎重派は帝国と領土を接していない貴族が多かった。
ジェネシス公は黙したまま腕を組み話に聞き入っていた。
その二つが間違っているとは思わないが私は違和感を感じていた。
戦争などに詳しい訳じゃないが私って口を挟んでも良いのかな?そんな風に考えているとジェネシス公が振り返り、私に話を振る。
「センティス準名誉子爵殿はどうお考えかな?先程から難しそうな顔をしているが何やら考えでも?」
ふぇっ?そんな難しそうな顔なんてしてた覚えがないがセンティス公はいたずらっ子の様にニヤニヤしている。
先程まで仏頂面だったのにこのニヤニヤ顔は私にしか見えない。
何やら楽しそうなのが少しムカつく。
いつまでも黙っている訳にはいかないのでセンティス公に話を振られ私は立ち上がり自分の考えを話した。
「そうですね…こうゆうのは、どうでしょうか?」
私が話した考えは作戦とも言えない稚拙なもの。
私は一般人で専門的な事は何も知らない。
昔兵法書を斜め読みしたくらいの素人だ。
だが私には前世の記憶がある。
それを持ち出したのだ。
やがてジェネシス公は顎に手を当て話を聞いていたがおもむろに立ち上がり声を上げた。
「センティス準名誉子爵の案で行く。センティス卿、明日までに書類を纏め届ける様に」
「は、はい」
何も考えず返事をしてしまった。
そう残すとジェネシス公はさっさと天幕を後にし、出てしまった。
今何て言った?私の案で行く……?
私が混乱していると父とガーズ男爵を残し他の者は天幕から去っていた。




