準名誉子爵、手料理を振る舞う
私は目の前の光景に驚いた。
セバスティンを始め兵士、日雇いの者までが私の前に傅いているのだ。ちゃっかりジェシカとジョセフまでもが混ざっている。
しかも最敬礼を取ってて…え?!
「え?え?えー?!何で皆そんなに畏まってるの?」
私は取り乱してしまった。
何故こんな事になっているのか理解が追い付かないのだ。
混乱しているとセバスティンが頭だけ上げて今の状況を私に教えてくれる。
「いやはや、リリアナ様の平民に対する態度に私含め皆感動しておるのですよ。まだ幼いですが誇り高き貴族様が平民に頭を下げるなど普通の貴族では有り得ません。彼らも感服しておるのですよ。私めもリリアナ様に仕える事が出来て鼻が高くございます。」
なるほど、言い方は悪いけど大半の領地持ち貴族は領民を使い捨てる様に扱き使う。
それが当たり前なのだ。
だけど私はそんなことをしたくない、領民あっての領主だ。
大事にしなくてはならない。
今セバスティンが仕えると言ったけど、正式にはジェネシス公の代官であって私の家臣ではない。
それでも気持ちは傅く彼らと同じなのだろう。
嬉しくて気が付いたら私は涙を流してしまった。
「うぇぇぇぇん…皆、いっ、一緒に頑張ろうね?わだじも頑張るがらぁ~!!」
中身は18年生きた志波梨乃としての記憶があるが、身体は七歳児のリリアナ・リモーネ・アルデンだ。
感情の制御が利かず気付いたらボロボロと涙を流しそんなことを叫んでいた。
それが功を奏したのかは分からないけど、一人の兵士が立ち上がり叫び出す。
「俺達の領主様はお心優しいお方だな!俺達のために涙を流してくれる!」
すると彼の呼び掛けが波及する様に周りの兵士、日雇いの者達までが同調した。
「うちの娘と同じくらいの領主様だが支え甲斐がありそうだ!利発だし、平民にまで頭を下げてくれる!」
「おう、俺は一生リリアナ様に仕えるぜ!皆もそうだろ?」
「「「おう!」」」
どうやら意図せずして彼らの心をいつの間にか掴んだらしい。
梨乃としての冷静な部分が客観的にそう見ていた。
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しばらく泣いて落ち着くと昼食の時間である。
少しでも皆の気持ちに応えるため私は自ら調理場の最前線に立った。
兵士達が用意した大きな鍋に向かって立ち、私は手料理を振る舞うことにした。
料理番の兵士、日雇いの女性に野菜を切らせ私は風魔法を使い、大量の兵士が狩ってきた豬肉を手頃な大きさで切り、鍋に入れ塩コショウで炒める。これだけでも美味しそうだ。
だけど我慢我慢!
調味料の類いは沢山買ってい備蓄があるのでどれだけ使っても構わない。
コショウ一キロで宝石と同価値なのだが皆の為に使うなら私は全然苦にならないのだ。
だけど醤油や味噌が恋しいなぁ…何処かで生産してないかなぁ?
火が通ったら一度お肉を鍋から上げて豬肉から出た油でジャガイモ、ニンジン、玉ねぎの順で炒めた。
それから搾り立ての牛乳を入れじっくり煮込むと野菜の甘味が熔け出し良い香りが辺りを漂いだした。
牛、羊、山羊、馬を少し離れた場所で飼っているので新鮮な肉、乳を取ることが出来る。
時たまに、騎馬民族が家畜を狙い襲撃してくるがもちろん兵士を監視に当たらせ警備もばっちりだ。家畜も警備用の兵も全てジェネシス公の配慮に感謝だ。
予め別の鍋で取ったブイヨンを加え更に煮込む。
ここで炒めた豬肉と茹でたブロッコリーも加える。
刻んだチーズを中に入れ煮込み味を調整すれば特製シチューの完成だ。
木工さんと大工さんに器とスプーンを用意してもらい焼きたてのパンと共に戴く。
うん、中々美味しい。
あっという間に食べ終わってしまった。
皆も美味い美味い言いながら器まで食べる勢いでかじりついている。
何度もおかわりに走る者まででるのだ。
かなりの量を作ったので皆満足そうである。
領主様に感謝感謝と私を拝み始める者もいる。
簡単な手料理を振る舞っただけなんだけどなぁ…
食事が終わり少し休むと大工さんと土工さんの親方と都市計画の打合せをはじめる。
現在は天幕が大小合わせて二百針ほどあってそれを移動させながらまずは上下水工事を行いそれから建物の建築である。
この世界の衛生観念は緩くうちの領都では私が父にせがんで徹底しているので有り得ないが地方の領都やその辺の村に行けば道端に排泄物が転がっているのだ。
そんなのは絶対に嫌なので下水を優先させ一ヶ所に集め農作物の肥料として使える様に下水道を敷いた。
近くに大小三本の川が有り一番太い綺麗な川を飲食用の上水とし、中くらいの川は皿洗いや水浴びに使う用、細い川を下水道で穴を掘り水を溜める様に図面に書き起こす。
早速話が纏まると私は細い川の近くから縄張りを敷き半径一キロほどをぐるりと円状に土魔法で掘り起こす。
それが済むと今度は縦横斜めに掘り、中心に円を掘っていく。
上から見ると大きい○の中に小さい○があり、そこから縦横斜めに線が入っている。
そこから南に一キロ離れた所に深さ百メートルくらいの大穴を開け後でセメントを流し込めば下水路の基礎は完成だ。
ここから高低差やセメントでの埋め立て土を被せるなどの作業は土工さん達におまかせである。
土工の親方さんに報告に行くとあんぐりと口を開けて
「お嬢ちゃんすげぇ魔力だな…こちとら一ヶ月掛かる作業を一時間でこなすたぁ恐れ入ったぜ…」
と呆然としていた。
これを一時間ほどでこなしてしまいまだ魔力に余裕があるのだから私の魔力の多さを実感してしまう。
さて、次は仮住まいか。とりあえず簡易式で良いかな?
五千人がこちらに避難してくるので少し大きめに作ろう。
半径二キロを土を固め高さ五メートルの塀を作り三メートル感覚で小屋ほどの大きさの家を作る。
土色の四角い箱みたいな感じだ。
一つ一つ作るのも面倒なのでそれを一気に五百ほど生産すると魔力切れ特有の立ち眩みがした。
あ、やばいなこれ。
傍で見ていたジェシカが日陰にいつの間にか用意した木製の椅子とテーブルに冷えた果実水を用意していたので少し休憩にする。
現場を見に来た大工の親方がびっくりしてぎっくり腰になってしまったので治癒魔法で癒してあげたら、かなり喜ばれた。
秘密だよ?って伝えると親方は髭もじゃな顔をくしゃくしゃにして嬉しそうに、ありがとうと何度も言い、顔を綻ばせながら感謝していた。
本当に分かってるのかな?
ジェシカが魔術契約書を作り何か話していたので多分大丈夫だろう。
私は代官であるセバスティンと合流し諸々の事を打合せ水浴びすると天幕で眠りについた。




