準名誉子爵、初めての自領地視察へ
はい、今回からサブタイトルの書き方を変えます。
三章と区切るよりは2.5章って言った方がしっくり来るんですが、しばらく、『準名誉子爵は~~』と言ったタイトルになります。
お付き合い下さいませ。
王城を出て私が最初に向かったのは自宅だった。
じいちゃんの家ではなく私が買った方の小さい家である。
小さいと言っても、地上二階地下一階建ての12LDK、キッチン、庭付きだ。
前世であれば数億円以上の地価がありそうな屋敷に私は10名ほどで住んでいる。
私、ジェシカ、イレーネ、ジョセフ、ファーガス、レントン騎士三人の先行組と領都より呼び寄せたマルーカ、ジェリー、フランのリモーネ商会幹部達、そして領都の執事のオースティンの孫であるチャールズだ。チャールズは王都のじいちゃんが私に託した人で能力もある有能な若者。
部屋は男女で一階二階に分け生活しているので間違っても早晩のプロレスごっこに悩まされることはない。
といってもチャールズは分からないが男性陣は所帯持ちか恋人が居るから間違いなど起きようもないのだが。
閑話休題。
屋敷に戻った私はオリヴィエちゃんに手紙を認めファーガスに渡し届けさせると旅装に着替えセンティスの地を確認することにした。
視察した後、二日で戻れる距離だが戻らずにそのままアルデン領で後方基地の業務に着くのだ。
着いたらゲース卿に借りた治癒術師と薬師混成の百名を指揮し、天幕内にて待機である。
必要な物資、食料などは既に先行部隊が持ってアルデン領南部の町アーリン近くに運んで貰っている。
更に治癒術師の護衛役として二百の私兵をジェネシス公から貸してもらうことになっている。
この後のスケジュールを脳内で反芻すると私は愛馬に跨がった。
ちなみにオリヴィエちゃんへの手紙の内容は
これから少し忙しくなるからしばらく会えないけど、今度行く時はオリヴィエちゃんと遊びたいと思ってる。
という内容を子供らしくかつソフトな文面で書き起こした。
私に会いたがっていたことを陛下の前で暴露された時は少々…いや、大分取り乱したけど、バタバタしていて会いに行けないのが後ろ髪引かれる思いだが、時間が無いため急がなくてはならない。
そこまで考え結論を出すと私は南西門へと馬を向かわせた。
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馬を限界ギリギリまで加速させ夜営の準備に取り掛かる。同行するメンバーはジョセフとジェシカである。
時間が足りないため人数を減らしファーガスやレントンとはアーリンで落ち合う事になっている。
王都南西の街道は緑生い茂る草原地帯で長閑な風景だった。
いや、馬を走らせたため景色を見る余裕などなかったが視界に入る限りはそう見えた。
しばらく馬を走らせるとジェネシス家の旗印である金獅子が剣を咥えた旗が見えてきた。その近くには天幕も見える。
十分ほどで辿り着くと見覚えのあるダンディなおじさんが居た。ジェネシス家の家令セバスティンだ。
「リリアナ様、長旅ご苦労様でございました」
「お出迎えありがとう!セバスティンさんも準備が早いね?」
「いえ、執事ですから。それと私の事はセバスとお呼びください」
「セバスね!わかった!」
と、誇ったようでもなく朗らかな笑みを携え馬の手綱を取り兵士の一人に預けた。
その周辺には治安維持の私兵五百人が整列しており、少し離れたところには低所得層の身形をした男女の姿を見付ける。
「大工や建築士などは天幕の中にて打ち合わせ中でございます。センティス領の領主となるリリアナ様の御到着に合わせまして集めさせました。彼処に集まっている者達は彼らの人足や魔法の得意な者が主となっております。兵士達は山間民族への備えとして随時警戒に当たらせます。私がこの場に集めさせ出迎える様に指示しましたが仕事に戻らせますか?」
私の目線に気付いたのか、セバスティンは説明してくれる。
「みんなわざわざ集まってくれてありがとう。でも仕事に戻って下さい!これからよろしくお願いします!」
なんだか私の出迎えのためだけに集めさせたのが悪い気がして私は彼らに仕事に戻らせる様セバスティンに指示を出した。
頭を下げると驚きの声が聞こえたが私は家臣に頭を下げられない様な貴族にはなりたくない。やっぱり信頼も培っていきたいし、人気取りの打算もあるっちゃあるけど、誠意は見せたい。
十秒数えて頭を挙げると兵士達が片膝を就き剣を前に掲げている。アムスティア王国の王族に対する最敬礼である。
今度は私が驚きの声を上げる番だった。




