お嬢様は祖父邸にやって来ました
王都に来て一週間、ようやく祖父と会う日程となった。
むぅーッッ…
緊張する…祖父と言えど、百戦錬磨の貴族だ。
言いくるめられそうな気がするのは私だけだろうか。
全員で祖父邸に向かうが直接会うのは私だけ…せめてジェシカが居れば心強いのに…
今私は祖父邸に向かう馬車の中である。馬車内に居る内にジェシカとイレーネに抱き着き勇気を貰う。
「ふふ、お嬢様は幾つになっても甘えん坊さんですね。」
そう言ったジェシカの顔は少し赤かった。
「仕方ないじゃん…お祖父様、怖いんだもん」
正直に私は心情を吐露した。
ジェシカもイレーネも私の大切なメイドだから。
「珍しいです。あれだけ肝の据わったお嬢様がジェシカさんにこんな甘えるなんて」
「ジェシカだけじゃなくてイレーネまで私をからかうの?」
「「いえ、そんなつもりはございません」」
二人声を揃えて断言された。
むぅ~…と私は頬を膨らます。
だが今はこんな他愛ない普通の会話が嬉しい。
二人で私の緊張を解そうとしてくれてるのだろう。
その気持ちだけで有り難い。
だけどそんな素振りを見せたくない小さな反抗心で一度溜め息を吐く。
その後二人の首に手を回しぎゅっと抱き締め小さな声で「…ありがと」と聞こえるか聞こえないかの大きさでつぶやく。
聞こえてるかは分からないけど二人はにっこりと微笑み私を優しく抱き止めてくれた。
「お嬢様、着きましたよ」
御者をしている若い騎士レントンがそう声を掛けてきた。
よし、気合いは入った。
頬を叩き私は祖父邸へと足を踏み入れた。
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「「「お帰りなさいませお嬢様」」」
メイドと執事が迎える中私は祖父邸へと足を進める。その奥には祖父母が立っている。正直足が震えそうだけど負ける訳にはいかない、祖父が勝手に決めた婚約なぞ私は受け入れない。
「お久し振りです、お祖父様、お祖母様」
祖父アンディと祖母マーガレッタ。魔法省大臣と王族の祖母を持つ婦人でアムスティア王国の重鎮たる二人。冷や汗が頬を伝う。
なるべく平静を装い、近付く。まずは祖母に抱き着き、続いて祖父に抱擁する。満面の笑みを浮かべた祖父母は嬉しそうに口を開いた。
「リリアナ、久し振りね」
「会いたかったぞ、リリアナ」
「私もお会いしとうございました。しかし、若輩ながら多忙の身。お許しください」
「相変わらずリリアナは立派ね」
「商いは上手くいっているみたいだな。私も祖父として鼻が高いぞ」
「いえいえ、先程も申しましたが私はまだ子供です。商人の真似事など私にはまだ早いとは思っておりますがまだまだです」
「はっはっは、謙遜するな。立ち話もなんだ、中へ入りなさい」
「そうよ、貴方の家でもあるんですから中で寛いで行きなさい」
「はい、お言葉に甘えさせて頂きます」
和やかに迎えてくれたので何とか第一関門はクリア。私は祖父達の後を追い屋敷の中へと足を進める。
私に割り振られた部屋で椅子に座り気持ちを落ち着かせる。もうしばらくすると祖父母がこの部屋に訪れてくる。今は屋敷のメイドがドアの前に一人立っているのみでほぼ私一人だ。
「はぁ…」
何回目の溜め息だろうだろうか…部屋に通されて何度も吐いた気がする。先程から冷や汗と心音が酷い、手に清潔な布を持ちそれを拭った。
極度の緊張状態だ…就活生や受験生はこんな心情なんだろう。私自身も受験時代そうだった。
その時ノックの音が響き祖父母が部屋に入ってくる。私は慌てて椅子から立ち上がり祖父母を部屋へ迎い入れる。
「待たせてすまんな」
「ごめんね、リリアナ。少し立て込んでて」
「いえ、お気になさらないでください。差し支えなければお教え頂けますか?」
祖父母が対面に立ち、手で座るよう勧められ座る。
「それは後で話してやろう。まずは…コホン。さっきも言ったが久し振りだな。大きくなった…一年三ヶ月ぶりか」
「そうね、魔法も剣術もまだ続けてるのかしら?」
「お祖父様、その通りです。お祖母様、ええ、未熟な身の上故、日々向上するよう邁進しております。商業のみに現を抜かさぬ様気を付けてます。」
「そうか、それで今回はどの様な件で訪れたんだ?」
「ええと…その」
早速本題かい…!私は言い淀みながらも祖父をまじまじと見つめた。




