お嬢様は婚約者候補を追い返しました
私は鍛練用の服に着替えると屋敷を飛び出し鍛練場へと駆け込んだ。
木刀を握りひたすらに振るい続ける。
二時間くらい経っただろうか…
無心で振ってたから気付かなかったがベープ侯爵と父、そしてマグメルが私を見学していた。
私は汗を拭うとそちらに目を向ける。
ベープ侯爵が話しかけてきた。
「良い太刀筋だ。迷いがない。あと五年もすれば良い剣士になれそうだな」
「お褒め戴き有難う御座います。ですが今は稽古中、気が散るので話し掛けないでください」
私は侯爵相手にぴしゃりと邪魔するなと言った。
チョロチョロされなくても視線を感じるのは気が散る。
「はっはっは、サリーナに似てお転婆な所がそっくりだ。私はマグメルをこちらに婿として出してもいいと思ってる。それくらい本気だよ。」
はい?どうしてここで母の名前が出てくるのか分からない。
「わからないって顔してるね。お母さんが子爵家の出だってことは知ってるだろ?幼馴染みってやつだ。君の母方のお爺さんは、私の領地と隣同士で昔から仲良くさせて貰ってたんだ。」
なるほど…確かに母方の実家は領地持ちだったな…一度も行ったことないけど。
通常、子爵くらいなら精々大きな街を任せられるのがやっとだ。
他には宮廷勤務が七割ほど。
何故母の実家が領地持ちなのか?
これは過去に何らかの功績を残したということだ。
魔法や剣も戦争もある異世界。
戦争となれば武功を立てようと躍起になる貴族もいる。
母の先祖はそういった平民から貴族にのし上がったのだという。
その下の男爵も、特例で領地を与えられることもあるが、せいぜい村をいくつか見るくらい。
マシューの実家も数代前の当主がその特例で過去の戦争で大きな活躍をしたため領地を貰っている。
わたしの両親は先代ガープ侯爵が取り次ぎ、お見合いした。
最初は家同士のつながり強化のための婚約だったのに
いつの間にか恋愛結婚の様にラブラブになってしまった。と…
大体察しは着いた。
マグメルは次男で二つ上の兄がいるらしい。
「なるほど、大体察しました。それで何故私をマグメル殿に嫁がせると言うのです?父上、私は婚約は学園を卒業するまで待ってほしいとあれだけ懇願したではありませんか。」
父には何度も見合い話を振られたが私は断ってきた。
私が男嫌いなのは父が一番知っているはずだ。
男と結婚するなんてそんなの嫌だ。
将来は領地を経営しながらメイドや町娘といちゃいちゃするんだ。
それもほぼ父のせいで崩れかけているが…
その計画の根幹となる私の結婚だが、父には待ってくれと何度も相談している。
だが約束を反故にされた。
父が提示した条件は二つ。
一、学園を卒業する十七歳までに何らかの功績を残すこと。
一、我が家の総資産の二十分の一、五百億リールを稼ぐことだ。
そもそも10歳までに五百億リールなんか稼げるわけないと舐められて交わされた約束。
しかし私は諦めていない。
現在私が持っている総資産がだいたい十億リール。
普通の五~六歳児が持ってていい大金ではないが、
両親祖父母はお金の使用方法を学ぶ良い機会だと持たせてくれている。
だが私は生憎二度目の人生だ。前世の記憶をフル活用し何とか課題をクリアしてみせる。
お菓子や料理、玩具などで稼いだお金だ。
六割が私、四割がアルデン家に入っている。
毎月纏まったお金が入るので私はホクホク顔だ。
だが、まだまだ足りないので別の金策が必要だが…それは後でも大丈夫だろう。
何らかの功績の方は…まぁ、一応考えはある。
それを実行するにはもう少し時間が掛かるのだが。
「ごめんねリリアナちゃん。私が無理を言って訪問したんだ。今日は顔見せだけだからお父さんを怒らないであげて?君の父上は悪くない。トニオ、またお邪魔させてもらうよ。これ以上リリアナちゃんの機嫌を損ねる訳にはいかないからね」
「あ、あぁ。大したもてなしも出来ずにすまん。また来てくれ」
「はい父上!ば、ばいばい!」
ベープ侯爵が頭を下げると父と握手しマグメルと部下を連れ門の方へと去っていった。
馬の蹄がこつこつと地面を鳴らすと馬車は去っていく。
私はそれを見届けると雑念を払うように剣術の稽古に没頭した。




