リリアナ•イン•ドリームワールド7 -The Glory's door-
「アンジェ!待ってーー」
私はリカーナの静止の声に構わずジョージの元へと駆け出していた。ジョージの背後には数人の宵闇に溶け込む様な暗色の服を身に纏った敵が迫っている。
「ジョージ、こっちよ!」
私は叫んだ。後ろの敵達も私に視線を向ける。すかさず手持ちの短槍を投げて牽制する。よし、少なくともこれで私にターゲットが切り替わった。
「うおっ…!アンジェ!俺も闘うぞ!」
「好きになさい!但し、帰ったらお仕置きよ?」
もう少しで合流出来そうな時に、横合いから弓が放たれる。が、私の動きを見ていたのか老兵が盾を構え矢を防いでくれる。笑顔でサムズアップする老兵に私は頷いて感謝するとジョージとの合流を急いだ。
走っている途中で拾った石を投げるとジョージの背後に迫っていた暗殺者風の敵に当たる。それを見てジョージもやっと追手に気が付いた。二人で並ぶように剣を構え軽口を叩き合う。
「こんな時に勘弁してくれよ…冗談だよな?」
「私が冗談を言うと思う?普段の三倍特訓…地獄の一丁目コースよ!」
「はぁ…マジか…二倍じゃ…ダメか?」
「ダメ。貴方は私の言い付けを無視した。だから罰するのよ?そこで手加減したら意味が無いじゃないの。」
「よっ、と!仰る通りで!甘んじて受けるよ!っとと、アンジェ左二、右四。俺が右に行く。」
「ダメよ!ジョージに四人相手は早すぎる。貴方は左よ。」
「へいへい、師匠の言葉に従いますよっと…はぁ、そろそろいっちょまえに見てくれてもいいと思うんだけどねぇ…」
ジョージは凹みながらも周囲を隈無く見ていた。先程まであんなに油断していたのにその集中力は身を見張るモノである。
私は身体を右に滑り込ませ前の二人を袈裟懸けに切り捨てる。残っていた石で後ろの二人を牽制すると素早く駆け出し股間に蹴りを入れ無力化し、仲間がやられたのを見て同様するもう一人を剣の柄で横殴りにすると倒れ込んだ所を首を切り裂き止めを差した。
無力化した方にもきっちり止めを差すとジョージは二人相手に少々手こずっていたが、私が助けに入るまでの力量でもないだろう。
「手、貸そうか?」
「いらねえ!」
「じゃあさっさと終わらせなさい。」
ほらね?
と一人で自問自答しながらあどけない容姿の少年を眺めた。ジョージは焚き付けられると熱くならず冷静さを欠くこと無く対応し段々と動きが良くなっていく。常人ならば熱くなる場面のところを、ジョージは冷静に対処していく。
それはジョージの持つ最大の長所となるだろう。若かりし開祖の姿を、その才能を、この目に焼き付ける。
強い。まだ荒削りだけど、このまま順当に成長していけばそれこそ世界一の剣豪となるだろう。
その成長を見届けたい。
…だがこの身体は…。
アンジェリーナの生命は刻々とその時限を迎えようとしている。
その時は直ぐに訪れた。四方八方を埋め尽くすほどの矢の雨。二人を倒し息も切れ切れに大の字に寝転んだジョージが真っ先に目に映る。若き才能をこの様な場所で摘み取るにはまだ早すぎる。私の身体は少年を覆い隠す様に庇っていた。
「かはっ…!はぁはぁ…け、怪我は…ない?」
「アンジェ…?血が…!」
「貴方を…守…ることが…でき…出来て、良かった。私か…らの…最後のこと…ば…きい、て」
「…」こくりと頷くジョージ。今にも泣き出しそうだ。
「あな…たは、つよ、い。けど、慢心…してはだ、め。時に…は、背を向け、てにげ、ることも…大事。とにかく、生きあがき…なさい。」
「アンジェ!アンジェ…!」
泣きじゃくるジョージの頭をかかえ抱きしめる。
「そう、すれば…あなた、はいずれ、世界一の、剣豪になる。そう、すれば…貴方の夢だった、家族を守ること…も出来るは、ず。自分の剣…を信じ、清く正しく、己が信じる…道を貫くこと。」
「はい…」
ジョージは真っ赤に腫れた目を擦りながら強く頷いた。
「良い、子ね。これで安心して逝け…る」
「アンジェ…せんせぇ!」
そうしてアンジェリーナの生涯は幕を閉じる。
私の意識はアンジェリーナから離れていき、俯瞰して見たその顔はとても誇らしげだった。
正直この後のジョージがどの様な人生を生きていくのか気になるがアンジェリーナは満足して逝けたのだろうか。うん、きっと満足しただろう。そんな気がする。




