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マンソン砦

兵士に案内されて詰所まで向かう途中。


警戒しているのか剣呑な雰囲気の中、此方に興味津々な様子で視線を向ける十代半ばの少女が居た。


赤い瞳に夕焼けを思い浮かべる短めの紅い髪、あちこち絆創膏だらけで弱々しそうな印象を受けるが違う。


ーー多分実力を隠している。私はそう直感した。視線が合うとわざとらしく訓練に戻る素振りをして少女は隊列へと戻っていった。


何だろう?試されている?それとも…答えは分からないが私は止めていた足を進め皆と合流し、何でもない風を装っているとやがてとある部屋の前に辿り着いた。


砦長執務室ーーそう書かれた看板を見るにどうやら砦のトップが直々に会ってくれるらしい。


他国の上位貴族令嬢、公爵家当主を呼びつけるくらいだ。よっぽど自信過剰な性格をしてらっしゃるのだろう。


兵士がノックし、『入れ』と短い返事を受けて兵士が扉が開くと、細身の初老の男性が豪華な椅子に座っていた。


否、まるで椅子に座らされている様だ。どこか幸薄そうな印象を受ける顔立ち、目の下の隅がそう思わせるのだろうか。平凡な体格に覇気のない風体、とても国境砦の砦長には思えない。


「ごほごほっ…すまぬ、生まれつき身体が弱いため座上より挨拶申し上げる。君、下がり給え!ーー失礼…部下の手前見栄を張らねば成らなくてね…オホン、このマンソン砦を指揮させて貰っているフェルナンド・マンソン伯爵と申します。軍階級は少将位を賜っています。」


どうやら予想が外れた様だ。この人傲慢なんかじゃない、多分軍略に長けている。私はそう直感すると一歩前に出て挨拶する。見た目で相手を油断させ自陣営に有利な交渉をする。本物の軍略家だ。


「アムスティア使節団を率いております、リリアナ・アルデン・センティスと申します。この度は突然の訪問、申し訳ありません。ご挨拶を、と思い立ち寄らせて頂いた次第でございます。」


「ほほう、やはりあの噂は真でしたか。アムスティアの聖女、センティス伯爵。お会いできて光栄です。」


「いえ、五年ほど放蕩させて頂き今では役職のみの名ばかりの聖女ですよ。フェルナンド卿はアムスティアの事についてとても詳しいのですね?両国の関係は…端的に言っても良いとは言えません。やはり軍事的な観点から当国に明るくなったので?」


「いえいえ、ご謙遜を。センティス卿なくしてアムスティアは現在の栄華、技術力には発展していなかったでしょう。鋭いですね?ですが表向きは軍事的に…と、申しておりますが単純にアムスティア王国が好きなのですよ。出来ることなら身分も地位も捨てアムスティアに行きたいくらいだ。ハハッ、年甲斐も無くはしゃぎましたね。」


マンソン伯爵は咳払いをして話を続ける。


「今、当国内では様々な問題点が有ります。国民の野盗化、食料の圧倒的不足、貴族領同士の小競り合い、そして…」


「魔王国…ですね。」


「その通りです。国内を両断するように五年前突如天より降ってきた島…その直下にはかつて帝国の首都であるガルマニオスを含む七つの都市と十四の村が有りました。私の妻と娘は当時ガルマニオスの邸宅に、私は南方の国境警戒に出ておりました。帝都に戻る途中…私は見てしまったんですよ…天から突然現れた島、周囲を飛び回る飛行系の魔物、私の眼前にまで突然魔族が飛んできて私を庇って息子が命を落としました。」


「それは…」


「魔王国領となったかつての土地には人が…命が…!営みを送っていたのです。私は断固として魔族を許しはしない…!そう亡き妻と子供達の墓前に誓ったのです。それまではアムスティアへ向かう事を国も妻達も…何より私自身が許さないでしょうね。」


「心中お察しします。私のような小娘に言われてもご迷惑かも知れませんが…」


「いえ、嬉しいですよセンティス卿。さぁお掛けになってください。お客様を立たせ長話をしてしまうとは…申し訳ありませんでした。今人数分の椅子と飲み物を用意させましょう。」


帝国に起こったーー悲劇の日ーーと呼ばれる天災。推定二万四千人が命を落としたと聞いている。その壮絶さを私は直接目撃した訳ではない。だから何処か楽観視していたのだろう。目前に体験した人の、無念、怒り、悲しみ、憤り。様々な感情を私はこの数瞬で知った。


「お構い無く、フェルナンド卿。これより私達使節団が来た経緯をお話させて頂きたく…」


「えぇ、もちろんですよ。何分今日は書類仕事もほぼ終わっています。時間は幾らでも有りますからな!」


▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


「なるほど、魔神の呪いと復活の予兆…とても信じられない話では有りますが、私からも陛下に一筆認したためさせて頂きます。」


フェルナンド卿に私はこの時代に来てからの事を包み隠さず話した。


過去から時を渡ったこと。ジョセフとマリアンヌの呪いのこと。魔王国の幹部から現魔王、ありとあらゆる情報を提供した。


「ありがとうございます。出来れば魔神となった者の子孫、言い伝え、文献などが有れば提供頂ければと、思うのですが。」


「子孫…というよりは縁戚の者では有りますが、この砦に居ます。」


「本当ですか?良ければお話させて頂きたいのですが。」


「そう仰ると思って先程隣の部屋に呼び寄せておきました。コホン。おい!アリーシャ少尉を呼べ!」


『ハッ!』


扉の裏から兵士の叫ぶ声が聞こえ、あまり時間も掛からず扉がノックされた。


『アリーシャ・ボウモア少尉です。』


「入れ。」


扉を開け入ってきたのは砦に入ってきた時、私達を見ていた赤い瞳をしていた少女その人だった。

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