帝国へ
コロナに感染して更新遅くなりました、申し訳ありません。
書き掛けの小説をそのまま更新してしまうという作家としての致命的なミスを犯してしまいました。
暫く月一更新となります。
予想通り寝坊した私はぶぅ垂れたナーナを諫めつつも、早朝の剣術訓練に励んでいた。
お盛んなレインを窘めながらも毛布から這い出た私を仁王立ちで出迎えたナーナには少し冷や汗を掻いた。
ナーナの実力は順調に上がっており、これで原作だと魔法職とは思えないほどの技量に達している。私より少し弱いくらい、極端な例え話になるけど、私がレベル百だとしたら今のナーナは八十くらいだろうか。それも日を増す毎に成長しているのだから王族の血脈恐るべし…という感じだ。
「お姉ちゃん!今の動きどうかな?私的にはいい線行ってると思うんだけど…?」
「う、うん。そうだねー。中々良いんじゃないかなぁー?たははー」
嘘だ。今の攻防ではもう少しでナーナに一本取られてた。それを無理矢理魔法で身体強化し寸での所で何とか避けたという感じだ。タイミングが少しでも遅れればナーナの一撃が私に届いていた。それでも寝不足を言い訳にせず、避けた私を褒めてもらいたいものである。
「あ、そういえばランゼが後で宿の部屋に顔を出して欲しいって言ってたよ?例の邪神の手掛かりになるかもしれないとか言ってた様な…」
「え、ほんと?今は少しでも情報が欲しいからねー。後で行ってみるよ!」
「でも、私の訓練が優先だからね?」
「分かってる分かってる。」
ぶぅ垂れるナーナを宥めしっかり身体を動かした後、身支度を整えランゼの元へ向かうのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お嬢様、お待ちしておりました。此方が調べた情報となります。」
「ん、ありがと。どれどれ……え?これ、マジ…じゃなくて本当?」
ランゼの纏めた資料には邪神の逸話に関する事が書かれていた。何と邪神の愛した少女の実家が未だに存続していたのである。土地は魔族領と帝国領の境目、名前はオルドレン子爵。五百年続く名家で少女の従兄弟が家督を継ぎ細々と暮らしていたが、一時は伯爵として辣腕を振るっていたという。現在も帝国への防波堤として武門の家としてそこそこ名の知れた貴族らしい。
「ええ、クーロン王国の密偵部隊から得た確かな情報です。優秀な密偵だと、アムスティア王国でも有名ですよ?」
密偵が有名ってそれで良いのか、クーロン王国…でもまぁ、次の目標は決まった。私は一つ頷くと、立ち上がりランゼに声を掛ける。
「よし、行こう!帝国へ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
行くと決めて直ぐ動ける程身軽な立場ではない私は細々とした処理を進めていた。帝国行きを決めて五日、粗方の処理を終え残すはアムスティアに留学する者達の扱いだけだった。
留学するという建前だが、要はアムスティアで遊びたい連中が殆どだ。メイリーにメイリーの姉クメリー、クーラに中小貴族の子女を入れて約十名。更にその護衛としてクーロン王国軍が丸々一部隊(クロッカス隊と他三部隊で計三百人弱)と兎に角大所帯だ。帝国に貸与している大型飛空艇ならば何も問題は無いのだが、帝国からの色好い返事は帰ってこない。
アムスティアに送るにしてもマシュー達の乗ってきた飛空艇【ブリリアントニャルラトホテプ号】は現在修理中、クーロンに貸与している飛空艇も殆どは燃え尽き、現存している大型のものは南の大陸への長期航行の真っ最中だ。
「うーん、どうしたら良いのかな?」
「いっそのこと姉さんの結界魔法で空中に道を作ったらどう?それなりの距離は有るけど姉さんの魔力ならギリギリ持つよね?」
「マシューさん、それは違いますわ。例えリリーの魔力で解決出来たとしても邪神の呪いに罹ったマリアンヌさんとジョセフさんを完治させなければリリーはアムスティアに戻ることを良しとしません。邪神の情報を集めるのが先決ですわ。」
この場に居るのは、私、マシュー、レイン、ナーナ、そしてユグドラちゃんとルル。
比較的まとも(?)な面子であぁでもない、こうでもないとうんうんと頭を捻って相談していた。
「ならこういうのはどうだ?帝国での情報収集が終わるまで留学組には待って貰う。これが最良だと我は思うがな。」
「いいえ、ユグドラ。それは駄目よ。既に本国の受け入れ体制も完了しているし、陛下も私達の帰還を心待ちにしているわ。とは言っても陛下が帰還を御待ちしているのは同志だけでしょうけど。二ヶ月以内の到着を指示されたわ。本国の建造師達は有能よ、あと一週間もすれば大型飛空艇の建造が完了してクーロンまで来るはずよ?同志と私が手掛けた飛空艇で帰還する事で道中の国にも本国の技術力と志位を示す事が出来る。飛空艇での帰還は最低限よ。」
仮想敵国である帝国に、期限付きの貸与という形ではあるけど飛空艇を預けている。色々と細工は施してるから簡単には模倣出来ないと思うけど、もし解析されれば即座に量産して挙げ句の果てには軍事転用もしだすだろう。
期限は三十六カ月、つまり三年間。その間は休戦協定を結んでるし、ギリギリ解析出来ないであろうというのがアムスティア王国の上層部の決断だ。
「とりあえず帝国行きと本国行きで分割するべきだと思う。ナーナとユグドラちゃんは本国行きかな?ルルも飛空艇の開発者として戻るべきだと思う。」
「えー?!私はお姉ちゃんと行きーー」
「ナーナ、我が儘は無しだよ?長いことアムスティアから離れてるし、陛下や王家の方々だって心配しているはず。だから一度帰らないと駄目だよ?」
「むぅ~…分かったよぉ…」
「うん、良い子。ルルから意見はある?」
「そうね、私も同志の考えには不服だけど、賛成よ?だけどもう少し帰還メンバーを増やした方が良いかも知れないわね。理由はどうあれ隠密行動…というより不法入国する訳だから少数精鋭にするべきね。ビビやファニ、ネルにフローラ女史やメルティ女史なんかも預かるべきかしらね。同志、レインさん、サレナさん、マシュー以外は帰還しても構わないと思うわ。後は同志の集めた冒険者も、と言いたい所だけど、同志の側に居た方がいいでしょうね」
んー、て、ことは帝国行き組は私、マシュー、レイン、サレナちゃん、ランゼ、マルシェラちゃん、ダリア、ボストンに、レイラさん達【女帝の懐剣】メンバー三人、と。全員で十一人か。
それと別行動でジョセフとマリアンヌ、テンカには連絡役としてジョセフに同行してもらう。
私は紙に帝国行きメンバーを書き連ねていく。ルルの意見丸パクリだけど、問題ないでしょ。適材適所、人を上手く使ってこその貴族家当主である。
「大体こんな感じかな。それじゃあ帝国組は明日の深夜に出発だよ?今のうちに準備を進めておく様に。クーロン王や関係各所には私から内線魔法で伝えておくから。」
私もサボってばかりじゃない。予め隠密行動になることを予想して、この五日間でちゃっかり新魔法も開発した。この魔法は半径五キロ以内の私が顔を知っている人物に念話の様なものを送る事が出来る。まぁ、実際回りから見たら独り言を呟いている危ない奴認定されてもおかしくない代物なんだけど、使い勝手は割りと良いから気に入っている。
さぁ、冒険へ行こう!




