古い文献
遅くなりました…暫く週一更新になります。
私は王城に与えられた一室で紅茶を飲み、一服すると文献を手に取った。生憎帰ってきて早々メイリーに文句を言われたが、子供たちと遊び疲れた私は部屋に閉じ籠った。
破損が酷く、読み難い部分もあるが何とか時間を掛けて解読に成功した。
話を要約するとこう書かれていた。
昔々、神と人が手を取り合い暮らし文明が栄えていた神話の時代、一人の正直者な若人が居て寝る間も惜しんで働き続けたという。流行り病に倒れた父と母、幼い兄弟を育てるために文字通り身を削ってその日その日を過ごしていたという。とある日若人は大きな屋敷に住む少女に恋をした。
貧しい若人は自分では彼女に釣り合わないとその恋心を諦めるつもりでいた。だが少女も青年に恋をしていた。何度も気を引く為に話し掛けたり働く青年の姿を見つめては、食料を融通したりと青年を手伝った。しかし二人の恋は実らない。
少女の両親が二人の関係を邪魔したのだ。そして少女には婚約者が居た。周辺の土地を支配する王の息子で、我が儘で偏屈、更に嫉妬深いという性格の王子だ。
少女はそんな王子が大嫌いだった。両親からの嫌がらせ、王子の邪魔たて、二人に困難が襲い掛かった。それでも二人の関係は続いていた。青年は働いて貯めたお金で少女に耳飾りを送った。少女は大層喜び、青年に首飾りを渡した。そんなある日二人の前に一人の女神が現れた。女神は二人の話を聞くと一つだけ願いを叶えようと言った。
二人は家族を捨てこの地を去る決意をした。それを女神に伝えると、どちらか片方しか遠くに送れないと告げる。青年は少女を送ると告げ、少女は青年を苦しみから解放して欲しいと願った。女神は青年の言い分を聞き少女を安全な地へと転移させた。やがて青年は少女の両親と王子に処刑されてしまう。青年は風となり少女を探した。
だが少女は野盗に捕まり惨たらしく殺されていた。青年は憎んだ。自分を殺した王子と両親を、手を掛けた野盗を、安全な地と言いながら危険な場所に転移させた女神を、何より憎いのは少女を救えなかった青年自身を…。
青年は紅き風となり、少女の両親を、王子を野盗を殺した。憎い憎い憎い…一撫ぜで血の花を咲かせ、二撫ぜで骨を砕き、三撫ぜで内臓を掻き出した。
やがて、全てを破壊し尽くした青年は人としての在り方を忘れ、邪の道へと堕ちた。
これが邪神誕生の逸話らしい。少女は聖女となり、青年の撒き散らした災禍を鎮める旅をして故郷にたどり着く道半ばで病に倒れたと記されている。
コンコン、とノックの音が響く。どうぞ、と中に招き入れると、ナーナとレインだった。
「お姉ちゃん、もう夜中だよ?」
「リリー、あまり夜更かししてはいけませんわよ?」
懐中時計を開くと既に0時を回っていた。
たはー、またやっちゃった…集中しすぎるのは私の悪癖だな…
「んー、ごめん!少し汗流してお風呂に入ったら寝るね?二人は休んでも大丈夫だよ!」
私が提案すると、レインは少し思慮してから口を開く。
「わたくしもお付き合いしますわ!魔法の鍛練のみしかしてませんので、少し汗を掻きたいので。ナナリア姫は如何されます?」
「んー、私は先に休もうかな。明日の朝、お姉ちゃんと特訓したいし!」
「分かった。じゃあ、ナーナおやすみ!レイン、行こ?」
「はい、リリー!」
レインの口調がどこか嬉しそうなのは、気のせいかな?でも、しばらく皆が居たし、レインも溜まってるのかもしれない…ナーナ、ごめん。寝坊するかも…




