教会にて
準備を終え待ち合わせ場所まで向かうとナーナ、レイン、ユグドラちゃん、リビーの四人が待っていた。
四人は私の姿が見える手を振って此方に近付いてくる、どうやらこの後に向かう街中探索を物凄く楽しみにしている様だ。
勿論私も楽しみで、駆け出したい気持ちをグッ…と堪え、余裕を持ってゆっくりと歩み寄って行く。
あまりがっつき過ぎてもよくないもんね…?
「お待たせ、皆!それじゃ行こっか!」
「リリーお姉ちゃん、遅いー!待ちくたびれちゃったよぉ!」
「ナナリア、リリアナは遅れてねえぞ?寧ろ時間ぴったりだ。自分の主張を伝えるのも良いことだけど、相手に押し付けるような真似は感心しないぞ?」
「ぶぅ~…ユグ姉、正論過ぎて反論出来ない…」
「リリ、おなかすいたぁー!」
「あら、そういえばもうすぐお昼ですわね?リリー、街一番のレストランに予約をしてありますの?少し早いですけど、お昼にしません?」
「うん、そうだね!早めのお昼も悪くないかも!流石レイン、仕事が早い!私もお腹空いてきたよ…」
「では、向かいますか…おや、あれは確か…?」
レインが方向転換し、街へ向かおうとすると街の方から此方に歩いてくる姿が。
従魔用の首飾りをしたシャドウリンクスのみぃちゃんを引き連れたマルシェラちゃん、そしてダリアとボストン、ランゼだった。
「あれ~?ランゼ達どしたの?」
「どしたの?じゃないで!リリーが全く顔を見せんから心配して来たんや!」
「リリアナ様にもしもの事があっては…と思い勝手ながらこうして馳せ参じた次第です。」
あー…そういえば何も連絡してなかったなぁ。失敗失敗…
「ククッ…相変わらず思考が分かりやすい顔をしてるねぇ?その子達はリリーのお友達かい?アタイはダリア、よろしくな!」
「ウチはマルシェラや!よろしくなぁ!こっちは相棒のみぃちゃんや!」
「ん?おかあさん?にてる…」
あー、そういやリビーの両親は近い血縁同士だったっけ。そりゃ血族なんだから似てるのも無理ないかも。
「ほーん、ミリシア姉の子孫やな?よう似とるなぁー。」
ミリシアとはマルシェラちゃんのお姉さんだろうか?
その辺は原作でも追及してなかったから分からないや。
「とりあえず城門前で話し込んでても衛兵さん達に迷惑だから移動しよう?レイン、予約したお店、まだ入れるよね?」
「ええ、夕方まで貸し切りにしたので大丈夫ですわ!」
「流石、レイン!分かってるぅー!ついでに他の皆も呼んじゃお!ランゼ、伝令お願い!」
「畏まりました、レイン様お店の名は?」
「【降り注ぐ燦陽亭】ですわ!大通りの一角にあるのですぐ分かると思いますわ!」
やいのやいのと騒ぎつつ、こっちでの協力者達と友人達を引き連れ私は少し早い昼食へと出向いた。この面子で平穏に終わる、なんてことはなくちょっとしたトラブルがあったけど、その程度は許容済みだ。お店に少しばかり多目に支払いを済ませるとその日はゆったりと過ごした。
五日後、私はクーロン王都リンシャル一の聖光教会を訪れていた。古い文献に光の巫女と呼ばれた人物が邪神を鎮めたという内容が記載されていたのを派遣していたランゼが発見したのだと言う。
「お待ちして居りましたお嬢様。此方で御座います。」
「ランゼ、ご苦労様。ここの司教さんに挨拶しないと…」
「既に話は通しております。執務室にて司教殿がお話をしたいと言って居りました。」
「流石ランゼ!じゃあ早速行こうー!」
私はランゼの後を追い執務室へと向かった。動向するのはナーナとレインだ。二人は私の後に着いて来る。
「お姉ちゃん、なんかワクワクするね!これでジョセフさんとマリアンヌちゃんの呪いを解くヒントが見つかるかな?」
「ナナリア姫、そう簡単に物事は解決しませんわ。ですが何かしらのきっかけは見つかるでしょう。期待四割と言ったところでしょうね。」
「そうだね。まぁ、あまり期待しないでヒントになったらラッキー程度に思っておけばいいんじゃないかな?」
私は二人の会話に適当に相槌を打った。ランゼがとある扉の前で止まった。どうやら目的地の執務室であるらしい。ランゼがノックをし、中に入ると一人の五十代くらいの痩身の老紳士がニコニコと出迎えてくれた。
「リリアナ・アルデン・センティス伯爵様、いや…あえて生ける伝説の聖女様と御呼びしましょうか。私はここの教会を任されている大司祭のルーグと申します。」
「ルーグさん初めまして。早速なんですけど、文献を拝見したいのですが…」
仮にも伯爵家当主たる私だ。多少の揺さぶりなんてかわす。でも生ける伝説ってなんの事だろ?うーん、私への世間一般の評価がおかしい気がするんだよなぁ。
「ハッハッハ、そうですな。挨拶はこれくらいにして早速本題としましょうか。此方がその文献となります。私も過去に何度か読んで見たのですがこれが聖女様のお役に立つのか甚だ疑問が残りますが、お渡ししましょう。ですがくれぐれも破損無き様お願い致しますね?」
ルーグさんが机に置いてあった見るからに古い文献を私に渡してくる。その上には羊皮紙に内容が書かれた巻物も乗っている。これは多分劣化が激しいから過去の教会関係者が書いてきたものなんだろう。
「大事な文献をお貸しいただき有り難うございます。責任を待ってお預かりしますのでご心配なく。」
私はルーグさんから受け取るとそれをマジックポーチへとしまった。お城に帰ってからゆっくり読むつもりだ。
「おぉ、マジックポーチですか。実物を見るのは初めてですが凄いものですね。そうだ、態々お越しいただいたのですから孤児院の方も覗いて行かれては如何でしょう?子供達も喜ぶ筈です。」
「それは良いですね。ではお邪魔させて頂きます。」
「お嬢様、よろしいのですか?確かこの後メイリー王女とのお茶会の約束が入っていた筈では?」
「ランゼ良いのです。メイリー王女も子供達との語らいの場と話せば解って頂けますから。ルーグさんご案内頂けますか?」
決してメイリーとのお茶会が面倒とかじゃなくて、孤児たちの様子を見たいだけで、二心はない。うん、そう思うことにしよう。メイリーがなんて言おうが華麗にスルーしてやる。
「分かりました。リュカ、聖女様方をご案内してくれ。」
「分かりました。聖女様此方へどうぞ。」
「彼女は孤児院を任せているリュカと申します。」
「リュカです。聖女様初めまして。」
挨拶を交わし扉を出ると廊下を歩いて孤児院へと向かった。




