死天王の二枚看板
更新遅くて申し訳ございません。作者多忙のため中々更新出来ずにいます…
夜空を一人駆ける私は空港へと到着した。そこに広がるのはあちこちから出火し、燃え広がる赤と猛々と立ち込める黒煙。
口元を押さえながら瓦礫の下に倒れる人夫らしき格好の人達が視界に入る。魔法で瓦礫を除去し、広範囲治癒を発動し、救助は憲兵に任せマシュー達の乗ってきた飛空挺、一等級飛空艇【ブリリアント・ニャルラトホテプ号】は見るも無惨な姿へと変貌していた。
水連弾を使い火消しを行って空挺内に入った私は煙る挺内を探索し、グレイティアを拘束していた部屋へ向かう。
そこに居たのは拘束魔道具を外し、警備兵を足蹴にしたグレイティアと、今にも転移をしようとグレイティアの肩に手を置くテンカの姿だった。
「アハァー!見付かっちったー!まぁこれだけ燃やせば流石に気付くかぁー。んー…失敗失敗。けど、今度は負けないんだからねッ!」
「ん。リリチヨ久し振り。研鑽は怠ってないみたい…けど、今日は相手してあげない。次は容赦しないけど。」
「頭目、お疲れっす!…じゃなくて逃がさないよ!反転移結界!!」
「「なッ?!!」」
テンカの転移魔法陣が霧散していく。どうやらぶっつけ本番の即席魔法は通用したようだ。
ふふん、私だって常に進化し続けているのだ。いつまでも結界を便利な歩道扱いする訳ではない。というかこれが本来の使い方なのでは?!
「ここで捕縛する。あわよくば攻略も有り…?けど、高望みはしないけどねッ!」
魔法鞄から喜望峰を取り出し、魔力を注入する。地面に突き刺すと、無数の棘がグレイティアとテンカに襲いかかる。が、しかし、魔王軍最高幹部たる死天王はそう甘くはなかった。
「ん。それは利かない。…極意。【漆黒暗幕】!!」
瞬時に聖属性と見抜いたのか闇の暗幕に阻まれ、身を隠したテンカ達の元に届く前に消失した。
チェッ…そう、上手くはいかないか…だけど、私もそう甘くはないんだから。
「【四元素幻想弾幕】!!」
火の槍が、水の矢が、土の斧が、風の剣が、様々な形をした四元素魔法がテンカ達に襲い掛かる。が、しかしテンカが腕を横に振り払う動作のみで、その悉くを霧散させた。
クッ…ここまで高いか、師弟の壁は…。
忍術を使えばグレイティアを圧倒出来るが、テンカに対策され。魔術を使えばテンカを抑えられるが、グレイティアに無効化されてしまう。ならば近接殺法は…と思うが、きっと対策されてしまうだろう。
マシューとレイン、ルル、それと身のこなしからしてユグドラちゃん辺りを連れて来るべきだったか…だが、まだ残された手はある。
召喚術。私の使い魔達ならばこの状況を余裕で覆す事は可能だろう。だけど私の口元は逆境の中と言えども弧を描いていた。
逆立ちしても勝てない相手が二人。しかも死天王が二人、役者は揃っている。自分でも変わったな、とは思うがそれを楽しんでいる自分がいるのに気付いてしまった。
「ふーん?こんな状況でも笑顔?ムカつくんですけど!ねぇテンカ、あーしらナメられてる?」
「強者と刃を交えながらも笑みを保つは強者たる資格。…シンゲツ流継承者として当然の心構え。」
テンカが背に括り着けている日本刀を抜く。
銘は空骨丸、万物事象を切り裂く名刀を越えた極刀と言っても過言ではない。
これに対抗するのは難しい。喜望峰でさえ、朽ち折れる可能性もあるのだ。
だが、それを見て私は思い出す。そう言えばテンカから刀を一振り授かっていた事を。
魔法鞄から取り出すは一振りの刀。銘は凡骨丸…名前からして直ぐに折れそうではあるが、そのぎゃくであり、耐久性に優れている逸品だ。テンカのコレクションの一振りとして数えられていただけあり、極刀とは言わずとも名刀の部類に分類される。スペックはかなり劣るが、斬る事にのみ限れば空骨丸をも超える。
更に取り出したるは紳士仮面さんから授かった紅色の珠。私は躊躇いなくそれを凡骨丸に合成した。
瞬間汗が吹き出す程暑いくらいの熱気が生温いとさえ思える高密度の熱気が、狭い個室内を充たしていく。この瞬間、極刀とは言わずともそれに準ずる段階まで凡骨丸は昇華した。
名付けるならば真打・蜉蝣蛮骨丸だろうか。でも凡骨丸も気に入っているんだよなぁ。名は置いておいてその性能はこれまでの非ではない。忍術を使わずとも分身を作り出す程の熱気を放っていた。
「リリアナ・アルデン・センティス、推して参る!」
掛け声と共に私はテンカへと肉薄した。テンカさえ抑えればグレイティアは喜望峰で押さえ込めるのが分かっているからだ。重なりあう極刀紛いと極刀。一合二合と交差する鍔迫り合いの中、テンカはニィッと笑みを浮かべた。大方弟子は師匠を超える為にある、とでも考えているのだろう。
面白い。私は試される側に立っているのか。そんな事されたら燃えるじゃないか…!更に攻め続ける。真打凡骨丸は私の意思を従順に汲み取り、刀としての格を超え、遂には空骨丸に罅を入れる事に成功した。
慌てて打点を反らすテンカを見て今度は私がニィッと笑みを浮かべる番だ。
このまま…!押し切るッ!!
二人同時攻略は無理でもテンカは取る!!
グレイティアが横槍を入れる様にテンカを魔法で支援する。が、しかし凡骨丸の特殊効果、【陽炎】が魔法を透過し、一切ダメージを受けない。
ふと、二刀流を思い付き、喜望峰を左に、凡骨丸を右に構えるとテンカに肉薄し、手数の増えた攻撃を浴びせる。
手数は二倍、段々と捌ききれなくなったテンカの身体に切傷が増えていく。捕らえるなら今かと、私はキーワードを告げる。
「頭目、勝敗は決した。私は貴方を越えた。強者に従うはシノビのサダメ。テンカ、私のモノになりなさい!」
「ハッ…!…し、しかし、私には守るべき弟子が…それに、リリチヨは私の弟子の一人…でも…」
「私は貴方の全てを受け入れる。勿論シンゲツ忍軍も。後は貴方の希望次第。」
「ハーッ?ありえないッしょ!テンカが、ちゃんマオを裏切るなんて!テンカ、相手にしちゃダメッ!」
グレイティアの静止の言葉も届かず、テンカは頭を抱える。多分原作基準ならば、テンカは私のモノになる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
テンカは仕える主を求めていた。手違いとは言え人族の里で育った魔族の子は厳しい鍛練に耐え、とある任務で育ての両親を亡くし、疑心を持ちながらも魔王に仕える事こそ自らの使命と自分に言い聞かせ、魔王軍に舞い戻り、力こそ至上と定める魔王軍最高幹部死天王の一角という地位にまで己を戒めながらも到達した。
しかし彼女は生来の恥ずかしがり屋で奥ゆかしい性格、現代風に言うとコミュ障に部類する。その性格が災いし、部下争奪戦においては円滑なコミュニケーションを取れず、彼女の部下は最弱種と言えるゴブリンが主戦力だった。
平坦な日々が続き、下等種族なりに知恵を持つ直属の部下であるシノビゴブリンからどうでもよい報告を受ける日々。彼女は刺激に飢えていた。
そんな毎日を繰り返しながらもテンカ・シンゲツは思った。
私の人生はこのようなもので良いのか、と。
しかし三度会った、一度は己が持つ極意の真髄の一端を師事した、目の前に立つ年端もいかぬ美しい造形の美少女と言っても過言ではない少女からの突然の申し出。その少女は覇者としての風格、武力、共に過失はない。人族からの突然の申し出。テンカの心の天秤はどちらに傾くのか。
テンカの心は揺れに揺れた。このまま刺激の無い平坦な人生を歩むよりは同格と言えるグレイティアやゴッサム、ガーファンクルに立ち向かうのも有りではないのか、この少女に着いて行けば波乱の人生を歩めるのではないか、と。
幼いと言っても過言ではない少女の言葉がテンカの好奇心を、闘争心を揺さぶったのだ。待ち構える側ではなく、挑戦者側に立つのも有りではないかと、テンカの心を揺さぶってしまった。
暫しの沈黙の後、テンカは口を開いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「わた、しは…」
おー、迷ってる迷ってる。このまま墜ちる所まで堕ちてしまえッ!
「テンカ!」
「テンカ。貴方の答えを聞かせて。」
鍔迫り合いの中、テンカはゆっくりと口を開いた。
「拙者は…わたしは…」
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