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モテ期?

ご無沙汰しております…遅くなりました。


「お、お慕い申し上げております!どうか私をアムスティアまで連れ去っては頂けないでしょうか!」


静まり返った場内の空気を切り裂いたのは私、他数名の発した同じ言葉だった。


「「「んなッッッ?!!!」」」


レインは優雅に口を当てていたカップを離し、机に置くと共にカップは破砕され視線を顔に向けると笑顔ながらもキレるという器用な真似をしている。ナーナは明らかな殺意を持っているが、ユグドラちゃんに静止され何とか正気を保っている。マシューは単純に驚いているのか驚愕した表情を浮かべ、サレナちゃんがどさくさに紛れてマシューに抱き付いていた。ん?何故抱きつく必要があるのか疑問だけど…


今の状況を整理すると出会って数分のクール系美少女にプロポーズされたってことだよね。しかも連れ去ってとか行ってたし駆け落ち上等ってこと?うーん…どうしてこうなったのだろう…


「えー…と、突然の申し出で驚きましたが、私達はまだ出会ったばかりです。それにブレンリー侯爵も困惑している様子、お気持ちはとても嬉しいのですが、まずは事情を説明しては頂けませんか?」


「え…は…すみません…私としたことが思わず口走ってしまいました。申し訳ありません…!」


んー、凄い良い子なんだよね。でも私の目標はあくまでも五年前の時代に戻ることだ。どの様な形になろうともいずれ別れが来る。そこを考えると少し辛いかな。


本当はレイン達に会うつもりはなかった。だって別れが悲しくなるから。色々とイレギュラーが起きたがマシューにだけこっそり協力してもらうつもりだった。原作前の姿を確認できただけでもプラスだと考えるべきだろうか。


「いえ、謝罪は要りません。誰にでも失敗の一つや二つありましょう。」


「は…い。すみません、本当に。」


「ほら、また謝ってる!ダメだよ?クーラさんは何も悪くないんだから。それに私は謝られるよりもありがとうの方が良いかな。あと落ち込んだ顔より笑顔の方がもっとクーラさんの魅力を引き出す筈!おっと…失礼。いつもの口調で話してしまいました。」


「私は…いつもの口調の方が…素敵だと思います。笑…顔…ですか。分かりました。あまり得意では無いですが、リリアナ様がそうお望みなら誠心誠意、努力します!」


ニカッと笑うクーラさんだが、その笑顔は少し荒々しい印象を受ける。なるほど…控えめに言って盗賊の浮かべる笑顔と言えば分かるだろうか。歯を見せクールな顔立ちに不釣り合いな獰猛な笑みを浮かべクーラさんは私を見つめる。とても凶悪で、とても私好みな顔だ。まぁクーラさんは戦闘力が皆無だろうけど。


その時王家の到着を報せる様に楽団による清廉な楽曲が流れ始める。クーラさんは侯爵に手を引かれ名残惜しそうに私の元から離れると私も王家の登場に備えた。クーロンの貴族達は膝を着き土下座するような姿で王家を迎えている。私達アムスティア使節団(さっきルルが命名した)は椅子に腰掛け頭のみ下げている状態で王家を迎えた。国王が演説を行い、私の功績とナーナ達が参加した事を大仰に褒め称え自由行動の時間になる。


そろそろ貴族の相手に飽きて来たので風に当たりたいと告げ席を外すと私はバルコニーへと出た。そこには良く知る先客が降り星々の煌めく上空を眺めていた。


「リリアナさん。とても綺麗な星空ですわね。」


「これはこれはメイリー王女殿下。まことですね、ですが私には殿下の笑顔の方が輝いて見えますよ?」


星空を見上げるメイリーは、まるで物語に出てくるお姫様の様に光り輝いていて。

それでいて何処か物憂げな表情は闇夜を照らす月明かりでしっかりとこの目に映った。


詩的な表現をしてみたけど、要は、ですわ姫が星空見上げてノスタルジってた訳だ。人の事を蛮族蛮族と呼ぶ普段の姿からは想像出来ない程に様になっていたのはなーんか癪に障るけど…


「その作った様な笑みはどうにかなりませんの…?ふぅ…ここには二人しかいませんわ。いつも通りの口調で結構ですわよ?蛮族さん。」


「あっ、そう?んじゃそうしよっか。メイリーはこんな所で何してたの?」


「相変わらず切り替えが早いですわね…はぁ…少しセンチメンタルな気分に浸ってただけですわ。一週間後には遥か北の地へ移動するんですもの…この目に故郷の星空を焼き付けようと眺めていたんですの。」


「そっかー。お邪魔して悪かったね…じゃーー」


「まだ話は終わってませんわよ?!そうですね、彼方に掛けましょうか。」


「うぇー…はぁ…わかったわかった。私の負け。ーーーそれで話って?」


置かれた白を基調としたガーデニングチェアに腰掛けるとメイリーは私にチラチラと視線を向けるが何かを言い淀んでる様で話を切り出さない。なので、優しい私は会話の足掛かりとなる様に先程の出来事を語るのだ。


「さっきブレンリー侯爵家のクーラ嬢にプロポーズされちゃってさー。いやーモテる女は辛いよねー。」


「フーン…クーラ様が…ですか。まぁ彼女は伝説の英雄としてのリリアナ•アルデン•センティスに信仰じみた敬意を抱いていまたわ。思いが巡り巡って感情が爆発したのではないでしょうか?蛮族の本性を知れば千年の恋も醒めるのがオチですわよ?」


「ぐぬぬ…」


「ああ。それと、クーラ様はお体が弱く百歩も歩けば直ぐに息が上がる様な虚弱体質ですので、アムスティアにお連れするのは難しいかと。幾らリリアナ様が回復魔法を行使しようと物事には限度がありますわ。常に付き添っている事など出来ませんでしょう?アムスティアに同行させるのはあまりお勧めしませんわよ?」


「• • •」


まずいな…どうやらメイリーの琴線に触れたらしくご機嫌斜めのご様子だ。これは話題を間違えた…のかな?


「リリアナ様。わたくしはリリアナ様に意地悪をしたい訳ではありませんわ。寧ろ逆でリリアナ様の為を思ってキツい口調でお話していますの。それにはわたくしなりにリリアナ様を思っての諫言も含まれているんですのよ?…わ…わたくしの前で他の女性の話だなんて…あんまりですわ…!」


「え…?メイ…リー?」


彼女の目元には薄らと涙の跡が伝っていた。音も立てず白いガーデニングテーブルに雫が落ちると弾けて散った。その指先には透き通ったガラス製のグラスが握られている。もしかして、メイリー酔っ払ってる?


「つまりはメイリー…も…?って、えぇー!!」


それは衝撃だった。あれだけ蛮族蛮族と人を貶してはゴミを見るような視線を向けられていたのに?いや…でも確かに、思い返してみればそんな目をしていた時はナーナやレイン達のことを話していた時…つまりはメイリー以外の女性の話だった筈だ。


「ヒック…わたくしに最後まで言わせるつもりですの…?」


上目遣いで驚き立ち上がった私を見るメイリーの濡れそぼった両瞳が私を射抜く。これはもしや…モテ期なのでは?じゃなくて…しゃっくりしてるけど、そのグラスの中身って多分葡萄ジュースだよね?お酒の匂いもしないし。


「あー…その話はまた後日しよう?今日は人の目があるし、変な噂が立っても…ーー」


「承知の上ですわ。寧ろその方がわたくしには好都合ですもの」


はっ?!まさかメイリーはわざとこの状況を作り出して酔ったふりをしてまで周囲に聞かせる為に?所謂外堀を埋めるというやつだ。ーーメイリー、やるじゃない。これが策士?!


「あはは、えーと。ごめん!レイン達待たせてるからッーー」


「今彼方は姉上たちがお相手している筈ですわ?もう少しゆっくり話しませんこと?」


そっちも対策済みかぁー!


「あー、…そうだ。すこし果実水を飲み過ぎたのかな?お腹の調子がーー」


「リリアナ様なら異常回復など造作もないことではありませんの?」


「私少し疲れちゃってーー」


「先程あんなにリラックスしていたではないですか。わたくし、ずっと見ていましたの。ーーーフフ、逃しません…わよ?」


「ヒィッ…!」


笑顔なのに鋭い眼光を向けられたかの様な空寒い何かが私の背中を駆け巡った。これ…もしかしてピンチ?これだったらまだ死天王を相手にしていた方が良い。とか考えているとその瞬間ドカァァアンという地響きと爆音が響いた。私は咄嗟にメイリーを城内に押し込み城全体を三重の結界で覆った。



そこまで遠くは無いし、方角も間違いない。グレイティアだ!万全に逃がさない対策はしていたが、グレイティアは魅了持ちのリッチにして死霊系の最上位個体だ。不死女王エンプレスリッチー、【絢爛にして豪胆】それが死天王最弱にして最強と呼ばれるグレイティア•フルバスターである。


多分捕まえられるのは私だけだ。マシューやレイン達は昼間の戦いで疲弊している。私は指輪に魔力を通し、マシュー達に動かない様に、と伝えて空港まで空を駆けた。

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