クーラという少女
あれ?
一週間って十四日だったよね?
……すみません‥忙しくて投稿出来ませんでした…
頑張って投稿したいのですが、時間がががが…
五千文字投稿するので勘弁してください笑
あれから三十分程でマシュー達は姿を現した。マジックバッグを各自で所持しているらしく其処に礼服やら色々と必要な物を常備しているらしい。
ナーナも問題なく合流して現在は中央に置かれたテーブルを全員で囲んでいる状態だ。いや、全員というのは少し語弊があるかな。モガは席に着かず甲斐甲斐しく私の給侍をしている。私の三つ下だからもう十一才か…身長も私と同じくらいだし、メイド長として家内の内向きの一切を取り仕切っていたと聞いた。甘えん坊の泣き虫が良くここまで成長したもんだ、と一人年寄り臭いことを考えてしまった。
話は変わるが私の両隣はレインとナーナが独占している。他の皆も私の隣に座りたがったがこの二人は頑として譲らなかった。
レオンハルト陛下の名代としてナーナを中心に、右隣が私、左隣が年上で公爵家当主で王家の従姉妹であるユグドラちゃんが隣合わせで座っている。後は適当に着いた順番で座っていた。
最初はマシューやレイン目当ての貴族の跡継ぎだか若者が近付いて来ていたが、相手を無視するレインとサレナちゃんが隣に陣取り、どさくさ紛れに手を繋がれたマシューを見て段々と一足は減った。
漸く一心地着こうと思っていたのだが、何故か貴族の挨拶が私の元にやってくる。
ナーナは人見知りで知らない相手と話すのは苦手だし、ユグドラちゃんは敬語が苦手だ。メイリーを助けた事やつい先程の事だが私が死天王の一人を捕まえた事を知っている耳聡い貴族も居た。
「いやはや、大変お強いのですね。流石は英雄と呼ばれる才女ですな。他にも商売や領地経営、魔法の才まであるとは驚きですよ。どうですかな?少し落ち着いたら我が領地に来てはくれませんか?精一杯のおもてなしを致しますぞ!」
今もブレンリー侯爵とかいうおじさんに絡まれている。その後ろには十五才くらいの少女が立っている。目鼻立ちはすっきりしており、クール系な雰囲気を放つ美少女だ。髪もミントグリーンで肩口で切り揃え後部は背中まで伸びている。サイドテールを黄色のリボンで右側に生やしており、白のドレスに身を包んでいた。私の視線に気付いたのか、キッと視線を鋭くされ、私は侯爵に話し掛けられて居たのを思い出す。
「あぁ…と。そうですね、余裕が有れば遊びに行かせて頂きます。何分多忙なものでして…そちらの方は御息女ですか?」
「あぁ、儂としたことが忘れていましたわい。これは次女のクーラです。是非に、と頼まれ連れてきたのです…ほれ、挨拶をせんか。」
「…クク、ク、クーラ、です。よろしく…」
「初めましてクーラ様。先程は不躾な視線を送り、不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。リリアナ・アルデン・センティスと申します。以後お見知り置きを。」
「なッ…ーーーいえ、このような場に…不馴れで他人の視線に晒される様な事がありません‥でしたので、リリアナ様が悪いという事はありません。……もしよろしければ、わ、わたくしとお友達になってくれませんでしょうか?」
「クーラは生まれつき身体が弱くてですね、夜会に出るのも今日が初めてなんです。良ければ仲良くしてやってはくれませんか?」
夜会に慣れてない…か。もしかしたら緊張していて私の視線が気になっただけで、普段は優しくて素直な子なのかもしれない。それにこんな可愛い子と仲良くなれるのは私としても吝かではないので、二つ返事で了承する。
「勿論ですよ。クーラさん、今から私達はお友達です!」
「あッ……ーー!」
顔を真っ赤に染め上げ下を向いたクーラさんはプルプルと震えている。まぁ、私の方が座ってて視線が低いのでそのクールに見える表情が満面の笑みに染まっているのを見逃さなかったが、私はそのまま見てみぬふりをした。
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クーラは生まれつき身体が弱かった。年中ベッドの上で過ごす日々が大半で調子が良くても屋敷からは一切出れない。このまま屋敷で一生過ごすのでは無いか…そんな不安を抱えていた。五年前のあの日迄は。
切っ掛けは魔族の襲来、そして父の治める領地にダンジョンが出現した事だ。それも三つ同時に。その頃遠い北の国、アムスティア王国とバルッセ公国との戦争が始まり、勝利に導いたのが当時十歳の少女だと屋敷に出入りしている御用商人の話を父に聞かされた。クーラは衝撃に包まれた。もしも病に侵されていない健康体で生まれた自分がその立場だとして一国を相手に戦い勝つことが出来るか。ーー答えは否だろう。武才、知略、将としての器、全てがクーラには備わっていない。ひきこもっていた時間を読書や知識を蓄える時間に割いてはいたが所詮は十歳の少女であり同世代より多少は勉強が出来る程度だった。
その英雄と呼ばれる少女、リリアナ・アルデン・センティスという少女に興味を惹かれていくのに時間はそう掛からなかった。知れば知る程不思議な少女、五歳で文字や計算を理解し、剣技を学ぶとその才能をメキメキと伸ばし、魔法の才も天才級、更には次々と画期的な商品を作り出す商才までも発揮した。正に見る角度を変えれば永遠に楽しめる【宝石姫】という二つ名に相応しい人物だった。生来研究者肌だったのか調べるといった事は苦ではなく、クーラはリリアナという人物を調べ上げ理解していく内に信奉…狂信するまでにそう時間は掛からなかった。
しかし、戦後行方不明と聞かされ一時期は体調も連鎖する様に悪化していく。それから五年の月日が経ち、クーラは半ば寝たきりの状態が続き、もう駄目か…と父も諦めかけていたその時、先のガルム帝国との戦争時に勝利へと導いたクーロン王国第一騎士団第三中隊通称クロッカス中隊がゴールディンモート王国王都コッペリオン付近に存在する《豊穣の第森林》というダンジョンから持ち帰った万病に効くとされる《アムリタ》を持ち帰ってきた。
更に小国連合に拐われた第三王女メイリーを引き連れて。更に更にその二つに関与しているのが見たこともない憧れの存在、リリアナ・アルデン・センティスと名乗る少女だと聞かされ、クーラは驚きを隠しきれずに居た。《アムリタ》によって長年苦しめられた病を克服したクーラは王都で行われるという夜会に出たいと父に懇願にクラディオは最初、困惑していたが、生まれて一度も我儘を言ったことのない次女の願いを叶えてやろうと高額のゲイルホースという魔物三頭立ての馬車を買い急ぎクーラを連れ王都リンシャルへと向かった。
流石に王家主催の夜会に着の身着のまま参加する訳には行かず、王都別邸に残されていた姉のお下がりのドレスに身を包み、いざ夜会へ参加したクーラ。
多くの人がいる空間に少し困惑しつつも父のサポートもあり何とか落ち着きを取り戻し、本来の目的を思い出す。
(嗚呼…リリアナ様…会えるかな…?)
果実水で渇く喉を潤し、見たことも食べた事もない料理は緊張で喉を通らず、父に挨拶に来る貴族との会話をやり過ごしながら待つ事数十分。
アムスティア王国御一行と称された見目麗しき少女達と顔立ちの整った少年の集団の中に目的の人物は居た。
「リリー、何食べます?」
「んー、レインが良いかな、なんちゃって」
「もうリリーたら相変わらずですわね!」
「ガフッ…レイン、もしかして筋肉付いた?」
「まぁ、嫌々ですが秩序管理委員会の面子で模擬戦やダンジョン攻略をしていればそれなりには。」
「姉さん、レインさん凄いんだよ?学内能力試験では学力、魔力、武力の三つとも全部二位なんだ!それに生徒会副会長で来年には会長が確約してて…」
「全部一位のマシューさんには言われたく有りませんわ!それにリリーが戻って来ればきっと私は三位、マシューさんは二位に転落しますのよ?いつまでも楽観視している訳にはいきませんわ!」
「アハハ、流石に言い過ぎだよレイン。」
和やかそうに話す団体の中心にその少女は居た。
「リ、リ、リ、リリアナ様!!ち、父上!あっち!あっちに!」
クーラは落ち着きを無くし父の袖を引くも、話に花を咲かせていた父は見向きもしない。やがて憧れの存在の前には挨拶待ちの貴族が列を成し始めていた。
「あぁ…」
落胆するものの漸く話に一区切り着いたのか、クラディオがアムスティア王国の姿に気が付く。愛すべき娘の落胆する姿を見て察したクラディオは今話している貴族が良く知る人物である事を確認すると娘の手を引き其方へと移動を始める。
知己を得ようと並んでいた貴族が一瞬順抜かしをする者に視線を向けるも相手は侯爵家、所詮は下級貴族達の集まりで、相手は雲の上の存在で有り文句など言える筈がなかろう。諦めて待つか、他の上級貴族の元へ挨拶に向かう為三々五々散って行った。
一歩、また一歩と憧れの人物へ近付く度に心臓が高鳴っていく。しかし内心とは裏腹に視線はリリアナその人へと向けられていた。
父クラディオがさり気無くと言った風に会話に混ざり主導を握る様は流石上級貴族といった風だが、クーラは緊張の為かリリアナの事しか見ていない。そして遂にその時は来た。
あろう事か、リリアナが此方に視線を向けたのだ。当然リリアナに釘付けとなっていたクーラの視線と目が合う。本人はあまり気にしていなかったが、クーラは目付きが鋭い。先にリリアナが表現した通りクールな美少女と印象を受けたのは僥倖だったが…そしてリリアナは問い掛ける。
「あぁ…と。そうですね、余裕が有れば遊びに行かせて頂きます。何分多忙なものでして…そちらの方は御息女ですか?」
「あぁ、儂としたことが忘れていましたわい。これは次女のクーラです。是非に、と頼まれ連れてきたのです…ほれ、挨拶をせんか。」
「…クク、ク、クーラ、です。よろしく…」
緊張し、舌が絡れてうまく会話が出来ない。穴が有ったら入りたいーー正にそんな心境だった。
「初めましてクーラ様。先程は不躾な視線を送り、不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。リリアナ・アルデン・センティスと申します。以後お見知り置きを。」
ーーリリアナ様に謝罪をさせてしまった。不躾な視線を送っていたのは此方だと言うのに!!クーラは慌てて謝罪をする。しかし舌が絡れて上手く話せない。それでも少しでも仲良くなりたい、クーラは意を決して話しかけた。
「なッ…ーーーいえ、このような場に…不馴れで他人の視線に晒される様な事がありません‥でしたので、リリアナ様が悪いという事はありません。……もしよろしければ、わ、わたくしとお友達になってくれませんでしょうか?」
「クーラは生まれつき身体が弱くてですね、夜会に出るのも今日が初めてなんです。良ければ仲良くしてやってはくれませんか?」
そこで父が助け舟を出してくれる。よくよく気の回る父だ、とクーラは内心感謝しつつリリアナをジッと見つめる。
「勿論ですよ。クーラさん、今から私達はお友達です!」
「あッ……ーー!」
その言葉を聞いた瞬間、或いは微笑み掛けた瞬間だろうか、要因は置いておくとしてクーラの中で何かが弾けた感覚が起こる。それはまるで夢見枕に神のお告げを聞いた神官の如く………
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「リ、リリアナしゃま!」
クーラちゃんが突然私の手を掴む。隣でレインとナーナがムッとした表情をするが、視線で大丈夫だと宥め私はクーラちゃんに視線を戻し先を促す。
「何でしょうか?」
「お、お慕い申し上げております!どうか私をアムスティアまで連れ去っては頂けないでしょうか!」
軽い気持ちで聞き返したら、とんでもない爆弾発言にしんと周囲は静まり返ったのであった。




