空港にて
マシューに説教をしていたらいつの間にかリンシャル空港に到着していた件について。
私が乗っていた飛空艇、正式名称【一等級飛空艇ブリリアント・ニャルラトホテプ号】は損傷が酷く二時間も飛び続けていたことが奇跡に近い程で操艇していたルルの熟練した腕に感謝しかない。これがもし他の操艇士が行っていた場合十中八九墜落していたと技師の人達に言われた。
「本当にルルには感謝だよぉ〜!ありがとうー!」
「フフ、お説教が長くなるのは同志の悪い癖よ?マシューも十分反省しているみたいだし、勘弁してあげたら?」
ルルがマシューを庇ったのは少しびっくりしたが、そういえばこの二人魔術の師弟関係だった…というか私がお願いしてたんだっけ。まぁルルが言うならいいだろう、許してあげる。
「うぅ…そうします。マシュー、行って良し!」
「あはは…今回の件で十分懲りたよ…これからは姉さんに怒られない様に鍛練するからさ。じゃあ僕は行くね?あ、これ僕達が泊まる予定のホテルだよ。姉さんはどうするの?」
「んー、私は王城に招待されてるから今日はそっちに泊まるかな?近いうちに遣いの者を寄越すわ。」
「お、王城?姉さんまた何かやらかしたの?!」
「五月蝿いわね、アンタお説教が足りてないのかしら?敵国に拐われた第三王女をちょっと行って助けただけよ!アンタもやろうと思えば出来るんじゃない?ちょっと鍛練が足りなかった弱兵ばっかりだったし。」
「そんなの姉さんしか出来ないよ…ていうか、それ色々と不味いんじゃない?陛下もきっと頭を抱える筈だよ…」
「ん?どうしてそこで陛下が出てくる訳?私個人の話だし関係ない筈じゃ…」
「あれ?言ってなかったっけ。僕、昨年末から近衛騎士団の副団長を兼任してるんだ。何でも陛下の強い要望で断り切れなくてさ…で、今回の姉さんを迎える旅にも許可を貰って来てて、あ!一応名目上はクーロン王国との友好を示す親善大使ってことになってるんだけど陛下とアルトリオさんには事情を説明せざるを得ない状況だったので…」
「え?近衛騎士団?!レオンハルト…陛下が?ちょっと待ちなさい…ふぅ。」
おかしいな。レオンハルトこと美樹は原作の流れを知っている筈だ。それを何故近衛騎士団に入団させたのか。美樹がマシューを好きだと言っていたのは覚えている。何処かに行くくらいなら手の届く範囲に置いておきたかった?ううん、美樹はもっと思慮深く理詰めするタイプだ、そんな安易な思考はしないだろう。なら、何が目的で?
「マシュー、今度詳しく聞かせなさい。私はこのまま王城に向かわなくちゃいけないから。」
「わかったよ。あ、姉さん、騒ぎを起こしちゃダメだよ?」
「アンタ誰に向かって口聞いてるのよ!私だって貴族の端くれよ?」
「あはは、姉さんが言うと重みが違うな…だけど普通の貴族は商会なんて考えないし、戦場で一人でお城を建てたりしないし、勲功第一なんて滅多に取れないし、十歳以下で領地持ちになんてなれないよ?」
「うっさいわね!私は所謂貴族界の革命家なのよ!私のやる事なす事全てに文句を言ってたらアンタの寿命、その瞬間に一秒になるわよ?」
まぁ…今の私じゃ悔しいがマシューには勝てないか精々相打ちと言った所かな?うーん…五年の差は大きいな。
「わかってるって!でも本当に気を付けてよ?それじゃあ僕は皆待っているみたいだから行かなきゃ。」
どうも腑に落ちない私が一人内心で文句を言っていると背後からヌッと肩を掴まれる。
すわオバケ?!かと思ったらなんて事ない楚々と綺麗な立ち方で大きなお胸を揺らし唇を尖らすルルだった。
「同志、とても楽しそうだったわ?やっぱりマシューだけは特別なのかしら?」
あれ?もしかして妬いてる?
「そんな事ないよ?ポンコツな弟を見てると気苦労が多くて…それに今日こうして私を迎えに来てくれた皆は特別だって感じてるよ?ルル、貴女もね?ルルが居なければこうして飛空艇で迎えに来て貰える事はなかったし、結果ボロボロになったけど墜落せずにリンシャルまで到着する事は出来なかった。私、こう見えて凄く感謝してるんだからね?!」
「フフ、フフフ…同志は何年経とうとやっぱり同志ね…!私が一番欲しがっている言葉や知識を的確に最高のタイミングで投げ掛けてくれる…そう…私も同志の特別だったのね…!フフ…クフフフ…!」
「あー、ルルさんや。私そろそろ行かないと遅刻しちゃうから…ごめん!」
両手の平を合わせて頭を下げると私はその場を立ち去った。時々ルルはああやってトリップしてこっちの話が聞こえてない時が昔から時たまあったがこういう時は放置するに限る。空港を出ると私はナーナにコンタクトを取ると夕方前には到着するらしい。ナーナだけでも急がせようか悩んだが私だけ先に向かう事にした。あ、グレイティアはリンシャルの騎士団の人達が当番制で身張ってくれる様に話も着いている。
「さて、と。あ、そうだ!先に着替えとかないと!」
空港の待合室を借りてささっと身なりとコッペリオンで購入したドレスに着替えると私は空港を出た。既に私が到着している事が分かっていたのか豪著な馬車が佇んでおり執事らしき人とメイリーが私を待っていた。
「あ、来ましたわ!ゴードンあの方が私を助けてくれたリリアナ・アルデン・センティス伯爵ですわよ!?」
「ほう、それはそれは。初めましてセンティス伯爵様。わたくしはゴードン、王家の内事を取り仕切る家令で御座いまする。先ずは我が主に代わりメイリー様をお救い頂いた事に感謝を。わたくしが頭を下げても特に意味はない事は承知していますが主は国を治める身、どうか平にご容赦を…」
まぁ王様が頭下げる訳にはいかないよね。メイリーも懐いてるし、このゴードンって人とても頼りになるんだろう。
「これはこれは、ゴードン殿。頭をお上げ下さいませ。わたくしがメイリー様をおたすけ出来たのはただの偶然が重なっただけですわ。それよりも本日はメイリー様の門出を祝う特別な日なのでしょう?こんな所で話し込んで居てはいけないのでは無くて?」
うへー…お嬢様言葉凄い疲れる…
「むぅ…蛮族の癖に…」
ほらメイリーも私の言葉遣いが完璧過ぎて嫉妬している。
「そうですな、ではどうぞ中へ。」
ゴードンに促され馬車へと乗り込み二十分程でリンシャル王城へと辿り着いた。




