忍術鍛錬1
おはようございます。
昨日は何かモヤモヤしながら眠りに着いたけどスッキリ快調。今日はリンシャルに向かう予定だし、鍛錬は軽めで良いかな。あ、忍術の特訓もしとかなきゃ…!
二日サボっちゃったからなぁ…取り戻すのに時間が掛かりそう。
分身して特訓すれば効率二倍に…なるんだなそれが。
死天王《月夜に潜みし暗影》テンカの強さの秘密は初歩にして奥義、歩法と呼吸、そして圧倒的な学習能力にある。
分身にしてみても分身体が離れた所で倒されてもその経験や見聞きしたものが使用者に伝わる…というより吸収されるといった方が正しいだろうか。
より効率的に経験値を稼げて、原作では主人公をニンジャにしてという攻略が主流で、その仕様はこっちの世界でも変わらなかった。だから常に分身していれば直ぐに強くなれたりするんだろうけどそうはいかない。
まずもってわたしは五分ほどしか維持出来ない。テンカクラスになれば数日、日を跨いでも維持出来るのだろうが、テンカを基準にするのは止めよう。
配下のゴブ忍も五ターン…一ターンが大体三十秒だとすれば二分半という事になる。ゴブ忍基準なら既に超えているが奴等は分身を維持しながらほかの忍術を扱うので私より上と評価出来るだろう。
明確にいえば忍術は遁力と呼ばれる魔法とはまた違う力が必要でテンカがドラゴンならニンジャ駆け出しの私は精々ホーンラビットと言ったところだろうか…ゴブリンにさえ劣る存在だ。努力しなければ…。
うーむ、どうしたものか…とりあえず分身をして双剣と最近お気に入りの鞭を特訓するべきか。
いや、ここは二体分身を作ってその横で私自身大剣を素振りするべき?などと考えながら宿の裏側まで歩いているとレイア、ドロシー、シズの三人【女帝の懐剣】とバインバインのスタイルが良い高身長な青髪お姉さんが何やら話し込んでいた。
「ウチがマルシェラや!信じてくれ!」
「嘘をおっしゃい!その手には乗らないわよ!一体マルシェラを何処に隠したの?!密偵だか工作員だか知らないけど、私達の知っているマルシェラは貧乳でもっと背が低いし眠そうな垂れ目なの!そんなに発育が良い訳ないし、キリッとしていないわ!明らかに別人よ!!」
「レイア姉なら信じてくれるやろ?ウチは魔族や!昨日リリィの血を吸って、その反動で身体が成長しただけなんやってドロシーに説明してくれへん?!」
「フフフ、私は信じていますよ?でもごめんなさい。何があっても私はドロシーとシズの味方だと誓いを立てているの…私ではドロシーの間違いを正す事は出来ないわ。」
「フム…魔族とは実に興味深いな。私としてはその肉体の成長率を調べたいのだが…吸血鬼といえば血液と共に魔力を取り込むと何かの書で読んだことがあるな。成長するに対して、必要なのは血液か魔力か…飢餓感を満たすのは血液だとして、成長を促すのが魔力だとするならばリリィ殿の魔力は末恐ろしいものだな。むぅ…この身を犠牲にしてでも実験結果を纏めたいが、我々亜人に魔力が無いのが悩ましい…一層の事、リリィ殿を生贄に捧げ何処まで成長するのか見届けるのもアリ…か?いやしかしリリィ殿は我々の雇い主ーーー」
どうやら揉めているようだ。はて…ここで割り込むのも良いが、もう少しだけ見ていたい気持ちもある。半ベソ掻いた美人さんがマルシェラちゃんである事を私は知っている。
「はぁ…朝からどうしたの?幸いここはご近所から離れてるけどそんな大声で話してたら流石に迷惑だよ?ドロシーも剣から手を離して?マルシェラちゃんも大鎌だそうとしない!」
「「「あ、リリィ(さん)(殿)!!」」」
見兼ねて口を挟むと青髪美人が私の小さい背中に回り込む。落ち着いている私の様子見て警戒していたドロシーも柄から手を離した。レイアさんは槍を片手に石突を地に付け微動だにしない。しかしその顔は人好きする笑顔のままだ。ブレないなぁ…
「ドロシー、彼女はマルシェラちゃんで間違いないよ?マルシェラちゃんも大鎌じゃなくてみぃちゃんを召喚した方が信頼をして貰えたんじゃないかな?あの子認めた相手にしか触らせないし、そっちの方が断然信用して貰えたと思うよ?」
「あ!せやったわ!焦って忘れてしもたわ」
「リリィがそこまで言うなら一応は信用してあげるわ?だけど信頼はしないわよ?」
「はいはい。但し確証が得られたらちゃんと謝ってね?」
「わ、分かったわよ。」
「シズさんも考察はお終いだよ?あと、その考えは間違ってないと思うよ?私の血、少ししかあげて無いけど魔力はごっそり減ったからね。」
「成る程!私の考えは間違っていなかったか。その時の事を詳しく伺いたいのだが…」
「それは道中で話すよ!それでね、四人に付き合ってもらいたいことがあるんだけどーーー」
シズさんを上手くあしらい丁度いいので私は特訓の協力を申し出た。四対一(厳密には分身で三、分身を三体出すと一分持たない可能性がある)を行い武器の習熟を手伝って貰いたいと提案すると全員が快諾してくれる。
「私達が勝ったら、何か褒美でも出るんでしょうねぇ?!」
「どうしてそうなるの?んまぁ、私に出来る事なら一人一つずつ叶えてあげるけど…」
「よし!言質は取ったわよ?!レイア、シズ!本気で行くわよ?」
「仕方なかろう。私の溢れ出る好奇心を抑えられそうにない。私の願いはリリィ殿の身体の隅々まで調べさせてもらおうか。その小さな身体にどれだけの強さを秘めているのか…探求者としてこれ程魅力的な題材はないだろう。」
「そうねー。私は特に無いかしら?でもリリィさんと一緒に依頼を受けてみたいかしら?血湧き肉躍る激戦をしてみたいわッ!フフッ…フフフフッ…!」
「ふふん!私は勿論ッ!武具の新調よッ!アダマンタイト製を所望するわッ!」
んーアダマンタイトかー。アムスティアやクーロンには無いけど資源豊富な帝国にならあるかもしれない。一層の事全員の武具を更新するのもアリかもしれない。でも全員新調するとドロシーの利点が無くなるから何か考えておかないとな。
「マルシェラちゃんはどうする?」
「せやな…んー、リリィ自身、と言いたい所やけど一日デート権で勘弁したるわ」
「オッケー。んじゃ、ルールを説明するね?」
一、特訓時間は分身が持続する間のみ、本体を攻撃されたら私の負け
二、【女帝の懐剣】側は武器を手放すか気絶したら戦闘離脱
三、本体は三メートルの円から出てはいけない
四、手段は自由、私は魔法禁止で近接と分身のみ
五、決着が着かない場合は次回に持ち越し
「みたいな感じかな。また不備が有ったらその都度是正するとして何か質問ある?」
レイアさんが手を挙げたので手を差し質問を聞く。
「リリィさんがあまりにも不利では?」
「うん、そうなる様に調整したからね。でもこのくらいしなきゃ鍛錬にならないし。皆にも本気出して貰いたいからねー。」
「ウチらの事舐め過ぎやないか?これでもランゼ兄ぃやボストンに稽古付けて貰って少しは強くなってるんやで?」
「知ってるよ?わざとだし。けど、やる気は出たでしょ?」
私はニヤリと笑う。わざと悪どく見える様に演技しながら。
「アハハハハ、はぁー…リリィとおるとほんま退屈せんわ。あんな所に篭って日々絶望してたのが嘘みたいや!」
「ええ、私も少しやる気がでてきたわ?負けても知らないんだからッ!!」
「良いよ良いよー!それじゃ始めようか?」
話を聞きながら、数歩下がり円を描いた私はマジックバッグから武器と忍び装束を取り出して着替える。忍び装束を着なければ遁力は発動しないし忍術が扱えないのだ。
やがて準備を終えた私は開幕を宣言する。




