吸血鬼娘との夜
きりが良かったので今回は少し短め。
前回の続きからです。
「なぁ、リリィ。ほんまにええんやな?」
「ドンと来い、だよマルシェラちゃん!」
「なら短剣で指先を切ってくれへん?直接首筋に噛み付くとリリィが眷属になってまう…それだけは嫌や。」
「うん、分かったよ。」
ベッドの上で正座になり対面している私とマルシェラちゃん。湯上りの熱気を冷ます為に冷えた果実水を飲み一心地着いた後、マルシェラちゃんが念を押すように聞いてくる。改造された吸血鬼としての本能に抗えず私に血を吸わさせてくれ、と頼んできたのはつい一時間前。
それなりの覚悟を持って言ってきたのだろうマルシェラちゃんのお願いを私は快諾し、現在こうして対面している状態だ。
温泉で押し倒されそうになった時はどうしようかと悩んだが、こうしてもじもじしながら問い掛けてくるマルシェラちゃんが愛おしく感じるのは唇を奪われたからか。
それとも小さな舌足らずの親友に面影を重ねているからなのか…それは私には分からない。
唯一つ確定しているのは、私はマルシェラちゃんを大切にしたいと思っている、それだけだ。
枕元に置いていた護身用の短剣を抜き、人差し指の腹に傷を付ける。それをマルシェラちゃんの前に持っていくとおしゃぶりをする赤子の様に吸い付き始めた。
「ンゥッ…ーー!」
身体から何か抜けてく感覚と共に甘美な恍惚感が私を襲う。
傷口を撫でるように舌触りが段々と激しくなっていき、マルシェラちゃんの吐息が漏れた。
「フッ…ンッ…ハァ…リ、リィの、血ィ甘い…!まるで、極上の…甘露や…!」
と、味を評価され、私は微妙な笑みを返した。
一個人の感想であって普通の人間からすれば鉄の味しかしないだろう。
だが吸血鬼であるマルシェラちゃんからすればスイーツ感覚なのかも知れない。
目を妖しく緋色に光らせ、夢中で舐め回すマルシェラちゃん。
私の方も段々と高揚していきイケない気持ちになってくる。
「ちょッ…!マル、シェラちゃん…!これ以上は…ダメェ…!」
「フフッ…弱ってるリリィ可愛ええわ。もっとイジめたくなる…!」
「ちょッ…!嫌ッ!」
指から口を離したマルシェラちゃんに押し倒される。
その口元と私の指には唾液の糸が伸び淫靡な表情をするマルシェラちゃんの顔が目の前に来る。
「なァ、リリィ?ウチな、リリィの事好きや!大、大、大好きや…!このままウチのモノにならへん?」
「あッ…んぁ…!!ダ、ダメッ!」
不意に紡がれた言葉。それは吸血し高揚してしまったマルシェラの本能が、眷属にしたい、独占したいという気持ちが先行した故の言葉だろう。その言葉はストン、と私の内に入り込み、私の心を掻き乱した。ここで屈するのは簡単だろう。
だが、私には目的がある。それはマルシェラちゃんも含めてのハーレムだからして、主導権を奪われる様な事は私の目的と差異が生じてしまうだろう。精神状態安定の魔法を自分に掛け、理性を取り戻すと優しくマルシェラちゃんを引き剥がした。
「ふぅ…ごめんね、マルシェラちゃん。私には目標がある。だからマルシェラちゃんのモノにはなれないよ…?だけど、気持ちは凄く嬉しいよ、ありがとう。」
にこりと微笑むとマルシェラちゃんは先程までの豹変した状態から理性的になりいつもの調子で答える。
「何や…フラれてしもうた…あはは…堪忍なリリィ?ウチまたやってしもた。吸血すると魔人の部分に支配されてやり過ぎてしまうんや…」
「気にしないで?私は大丈夫だから。また今度吸わせてあげる。だからもう我慢はしちゃダメだよ?」
「また吸ってもええんか…?ウチの事、嫌いにーー」
「ーー嫌いになんかならないよ?あぁ、そういえば返事返してなかったね?私もマルシェラちゃんが大好きだよ?」
「ッーーー!リリィッ…!!」
「はいはい、でも今日はおしまいだよ?また今度ね?」
さっと指先の傷を治すと、一瞬残念そうな顔をしてすぐに笑顔になるマルシェラちゃん。
「うんッ!ほな、またな!大好きやで、リリィ!」
スッキリ顔の若干肌艶の良いマルシェラちゃんが去った後の扉を見つめ、私は一つ溜め息を吐く。血と魔力を補給してご満悦の様だ。あれ…?少し身長が伸びている様な、居ない様な…
まぁ、それは置いておくとして…お互いの感情を確認出来ただけでも成果ありだろう…と、一人納得すると私は果実水を注ぎ口に含んだ。
マルシェラちゃんの吸血による精神の高揚は今後の課題の一つだろう。毎回似たような結果になっては私が持たない。早々に改善するべきだよね。
精神回復魔法が利くのなら吸血時、常にマルシェラちゃんと自分に掛けておけば安定するのだろうか。冷静になって気付いたが、何かが抜けた感覚は血を吸われている、というよりは魔力も吸われてる感覚に近いのだろう。
あーもう、ごちゃごちゃ考えるのは止めよっと。
そのままベッドに倒れ込み私はそのまま寝てしまった。




