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天才少女の珍道中

はい、二百話突破記念のサイドストーリーです。


ルルイア視点でお送りします!

その情報は突然研究室に籠る私の元に舞い込んできた。


「ルルイア師匠!聞いて下さい!姉さんがッ!」


文字通り私の部屋に転がり込んできた不出来な弟子が私の最大の理解者であった同志の名を出した。私は弟子を落ち着かせてゆっくり腰を据え話すべきだと判断して紅茶を淹れ始めた。何度も温度や入れ方を研究した最高の一杯をカップに注ぐと私は机の上にある資料をマジックバッグに片付けた。弟子が語るのは衝撃的な事実であった。あれこれ言っていたが要約するとこうだ。


リリアナ姉さんから連絡が来た。生きている、と。私は直ぐに動き始めた。クーロンへの定期船を即座に手配し、主だった令嬢達に連絡を取るべきだ、とそこまで考えて手を止めた。


「マシュー、同志は誰にも話すな、と言っていたのでは?私以外にもこの話を誰かにしたの?」


同志ならば余計な混乱を避ける為にそこまで計算して連絡をする筈だ。誰よりも優しく先見の明がある同志と語る魔術理論は世間を大きく変えた。また共に語り合いたい、と私の中の欲求が呼応するが、まだだめだ。もう少し我慢して、私。


「あ!言われて見れば確かに…ごめんなさい、ここに来る前にレインさん達には話してしまいました…」


「レインさん達、という事はアルフォード嬢にミシェイラ嬢、ソラージュ嬢の三人かしら?」


「はい!レインさん、アンさんとタニアさんの三人で間違いありません!」


「そう。では急ぐ必要があるわね。貴方は三人を飛空場まで案内なさい。私は物資を集めてから後から行くわ。」


「分かりました、それじゃあ後で!」


あの三人なら暴走して国を発つだろう。最近ではマシューも含め全員行動力が同志に似てきた。


「ギーラ、テノール、少し出掛けるわ!留守をお願い!」


「ルルイアお嬢様、畏まりました。何日程の旅程で?」


「十日から一週間よ!その間はお父様に権限を預ける、と伝言を頼むわ!私は直ぐに行動を開始する!」


「テノール、伝言は頼む。私はお嬢様をお見送りしてこよう!」


「あい、了解!」


私は実家が押しつけてきた世話係の二人に伝言を頼み王都の街で必要な物を買い込んだ。




「マシュー、何故増えているのか説明して貰えないかしら?」


「えっと…ごめんなさい…タニアさんが話してしまったみたいで…」


「そう…来てしまったのは仕方ないわね。旅程は三日、目的地はクーロン王都リンシャルよ!」


この場に集まったのは私を含めた十一人。よく見知ったメンバーだ。


「にひひぃ〜!こんな嬉しい事黙ってるなんて損じゃん!マー君を独り占めとか無しだよ?ルルちゃんッ!」


「リリィの奴は本当に無事なんだよな?!よっし、おれも連れてけよ、相棒!黙って行こうなんて水臭ぇじゃねえか!あん時の借りを返す時がやっと来たぜ!」


「あ!ユグっちめっちゃ嬉しそう!そうだよねー、リリっちと再会出来るなんて私も嬉しいもん!」


「ばっきゃろー!これが嬉しくない訳ないだろうがリサーナ!我の命の恩人だぜ?てかそのユグっちての止めろ!」


「あはは!あーしも会えるならそりゃ嬉しいし!」


タニア嬢、ユグドラ、クライシス公家令嬢リサーナがそんな風に話し合いながら飛空挺へとズカズカと乗り込んでいく。


「すまない、ルルイア殿。だが出来れば我々の動向も許可して頂きたい…!私もリリアナ殿には借りがあるのだ!」


「そんな事言ってサレナちゃんはマシュー君と離れられないだけでしょう?」


「な、何を言っているんだイシス!私はただリリアナ殿が心配なだけで…!」


「はいはい。じゃあ迷惑にならない様にさっさと乗り込んじゃいましょう!」


騎士然とした剣聖バルムンクの娘サレナ嬢と私と個人的な付き合いが多いイシス嬢がそんな言い合いをしながら飛空挺に乗り込んだ。


「ルル、リリに会える?」


「オリヴィエさん、良い子にしてたら直ぐに会えますわよ?」


「そういうレインも、さっきからソワソワしてる。大丈夫、リリィは逃げない。」


「ちょっ、アン!マシューさんの前で恥を欠かせないで下さいな!さぁ、行きますわよオリヴィエさん?」


「ん!ドーナツあるかな?」


「プリンなら沢山ある!」


「ご安心ください、お二方。私が既に準備しております故何もご心配は有りません。」


「おお!モル、すごい!」


「これもメイドの宿命です故褒められる様な事では有りません。ささ、中へ!」


全員が乗り込み、残った私とマシューは苦笑を浮かべながらも飛空挺の操縦室へ向かった。


気付けば同志の創設した秩序管理委員会のメンバーが全員集結した事になる。同志が深めた絆が、こうして彼女達を奮い立たせたのだと思えば感慨深いものだ。本来ならばナナリア王女やマリアンヌも在籍していたが今頃何処で何をしているやら…


居ない者の事を考えても仕方がない。今はいち早く行動を起こすべきだろう。私は離陸を宣言し操縦桿を握った。



高度が安定し自動運転に切り替えると私は船長室の仮眠台に横になった。ここの所徹夜続きであまり質の良い眠りを取っていないからだろう、身体が休息を求めていた。


私の意識はゆっくりと闇に落ちた。気付けば三時間程経っており、時刻は夕食時、私は食堂へと足を運んだ。全員が揃っており、同志付きのメイドであるモルガナが忙しなく働いている。


「あ、ルルイアさんおはよー!モルちゃんのご飯が冷めない内に顔を洗っておいでよー!」


「ミシェイラ嬢、分かったわ。モルガナ、忙しい所悪いのだけど果物と紅茶をお願いできるかしら?」


「畏まりました!」


楚々と礼をしながらモルガナが働く傍で私はシャワー室に移動する。高貴な身の上の子女が集まる場所だ、少し身綺麗にしておいて損はないだろう。


シャワーを浴び終えタオルを巻き更衣室へ移動すると弟子と出会でくわした。


「あ、えっとごめんなさい!皆ご飯を食べているから今のうちにシャワーを浴びようと思って…」


「気にしないでいいわ。それよりさっさとシャワー浴びて来たらどうかしら?というより貴方が居ると私が着替えられないのだけれど…」


「あ、ご、ごめんなさーい!」


「ちょっ…!キャッ!」


慌てたマシューが半裸のままシャワー室に入ろうとして狭い更衣室で足をもつれさせ私の上に倒れ込んで来る。タオルは剥がれ落ち私は後頭部を強打した。


「す、すみません!ルルイアさん?た、大変だ!回復薬を!!」



「うーん…ここは?」


「あ、良かった!ここは僕の使っている個室です!その、すみませんでした!」


ガバッと頭を下げて謝罪をするマシューを見て、私はなんだか可笑しくなって笑ってしまった。そういえば、とシーツの下を確認すると私が着ていた服を身に付けている。


「あ、あの後すぐにモルガナやレインさんが来てルルイアさんの服を着せてました!ぼこぼこに殴られたんですけど、回復薬で治したんで大丈夫なんですけどね。勿論僕は何も見ていませんよ!」


たはは、と力なくマシューは笑い呟いた。


「マシュー、私はもう平気だから失礼するわ。貴方も今のうちに体を休めておきなさい。ずっと不寝番で看病してくれていたのでしょう?」


「なんかルルイアさんを見ていると姉さんに似てきたなぁって最近思うんです。ほら、言い方は命令口調だけどその内容は僕の事をきちんと考えてくれる所とかそっくりですよ!」


「そう、かしら?人間は最低限の休息を取らなければコストパフォーマンスが落ちる。効率が悪いのだから態々それをしろとは言えないでしょう?当たり前の事だわ。」


「いえ、そうじゃなくて…はぁ、もう良いです。それじゃおやすみなさい。」


弟子の部屋を後にして私は操縦室へと戻り、起きていたモルガナが用意してくれた果物を食べた。


同志…!もうすぐ会いに行くからね!

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