伯爵令嬢は今日も悩みます
「チェーストォォオオ!」
「う、うわぁぁぁあ!」
弟の情けない声が訓練場に響く。
私の振り下ろした木刀はマシューの木刀を弾きその脳天に当たる前にピタリと止めた。
周りの兵士から弟の間抜けな姿を笑う声が辺りに響く。
「ほら、立ちなさい。いつまでメソメソしてるの?男の子でしょ?」
「あ、ありがと…!姉さん!」
私は尻餅着いたマシューを助け起こすと笑っていた兵士を睨み付ける。
初めて会った時からそうだった。
この子はビクビクして周囲の目線を気にして一人じゃ何も出来ない。
これが本当にあの『ハーレム王』と呼ばれた男なのかしら?
私とマシューは血が繋がらない義理の姉弟。父である伯爵が借金の身代としてガーズ男爵家からこの子を引き取った云わば人質。
でも当のガーズ男爵は十年前の戦争にて亡くなった。
それから私が借金を肩代わりし、マシューは今も我がアルデン家の長男として暮らしている。
亡きマシューの父に誓ったのだ、この子を一人の大切な弟として育てると決めたのはこの私だ。
せめて一人前になるまで…学園を卒業するまでは私が見守ろう。
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私には前世の記憶がある。
今世の赤ん坊の時からもずっと志波梨乃として生きていた記憶が。
この世界が前世の俗に言うギャルゲーというジャンルの世界だってことも知っている。
前世の弟がやっていた事も。
この義弟、マシューが主人公で、私はいわゆる攻略対象。
しかも初心者向けのチュートリアルってやつだ。
そんなの間違っている!
血が繋がらなくたって私達は姉弟なんだから!
この子をまともな子に育てる。
ハーレムなんて築かせない!
寧ろ乗っ取ってやるくらいの気概なんだから!
それが今の私の目標。
鍛えてみせるわ、お姉さんだもの。
次回更新はお昼頃に三本くらい纏めてします。




