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ナナリアの独白:前編

リリィお姉ちゃんが風邪を引き一晩が経った。病状は未だ安定せず魘されるリリィお姉ちゃんを見ているのはとても辛い。


あれだけ一人で綿密に旅程を試行錯誤したり夜中まで武芸の稽古に励んでいたら普通の人間ならば三日も持たないだろう。人一倍働き、それを悟らせない様に飄々としている姿には感銘を受ける。

私も幼少期はそんなリリィお姉ちゃんに憧れてあれこれと励んだが、剣術以外はまるで長続きがしなかった。

だが、寝込むまで頑張らなくても良いのでは?と、少しでも思った私が恥ずかしい。リリィお姉ちゃんはいつでも正しいのだ!


クーロン王都のお膝元であるブレンダーの宿場町に辿り着いた私達一行はそれだけで大騒ぎとなった。


何しろリリィお姉ちゃんはこの旅団の要であり旗印だ。無事にアムスティアの地へと送ってあげたい。けど、問題は山積みだ。まず鍵を握るであろうマリアンヌ•ゲースが所在不明だ。アムスティアとの定期便の旨も当たらなければならぬし、帰還命令を受けているメイリー王女をリンシャルまで護送せねばならない。


あれこれ考えてても仕方がないか…先ずは一つ一つ解決していこう。メイリー王女の護送、そしてクーロンにあるアムスティア大使館に遣いを出しリリィお姉ちゃんの無事を報告させよう。それと定期便の確保か。これも大使館から本国に掛け合って貰い一等艇を手配して貰わなければ。こればかりは私が直接交渉しなくちゃな。幸い人材は余るほど居る。ランゼとコッペリオン出身の冒険者達に声を掛けてリリィお姉ちゃんの護衛を頼もう。


家出同然とはいえ国元を飛び出した私の話を本国の者達がどれだけ信用してくれるかは分からない。だが、陛下…兄上ならばきっと力を貸してくれる筈だ。そこに賭けるしか無い。


大使館には私が出向くとして、フローラ殿にもご同行願おうか。庶子とはいえゴールディンモートの元王族でギルド長だ。それなりの権限はあるだろうし、交渉事には慣れている筈。


マルシェラ殿にはシュカと共に食料物資の調達を頼むか。愛想良く周囲を和ませるマルシェラ殿と海千山千の商人であるシュカで有れば大抵の物資は揃うだろう。


あぁ、そういえばリリィお姉ちゃんは錬金術師を雇いたいと言っていたか。それも探さなくちゃな…


「騎士ランゼ、今から私はフローラ殿を引き連れ、メイリー王女を護送し、アムスティア大使館へ向かいます。飛空艇の段取りやリリィお姉ちゃんの無事を報告して…そうね、五日後には戻ります。それまでリリィお姉ちゃんの事を頼みましたよ?」


「畏まりました、ナナリア王女様!留守の間、この命に代えてもお嬢様をお守りする事を誓いましょう!」


頼もしい返事を受け、私はフローラ殿を連れマルシェラ殿に物資の補給と錬金術師の捜索を言付けるとクロッカス中隊と合流してリンシャルへと足を向けた。


「ナナリア様、センティス卿の容体は大丈夫ですの?」


「少し魘されてはいますが時期に熱が下がり容体は安定するでしょう。ご心配されずともリリアナ様の元には優秀な者が多く集っています。今は王城に無事帰還することを考えましょう。」


「そ、そうですわよね!わたくしが心配していても仕方ありませんものね!陛下からの帰還命令を無視するなど出来ませんわ!」


「日が暮れる前には到着する筈です。それまではゆっくりしていましょう。」


安心させる様な口調で語り掛けるとメイリー王女は弱々しく微笑み他愛のない会話を続けた。その間ひっきりなしにリリィお姉ちゃんの事を聞くメイリー王女を見ていると幼かった頃の自分を思い出した。



暫く馬車を走らせていると崖に差し掛かる。

リンシャルは山と山の間に出来た盆地になっている都市だ。

攻め難く、守り易い作りをしている。

しかし山内には盗賊が多数隠れ住み巡回兵の目を掻い潜り盗賊行為を繰り返していると聞く。


運が悪かったのだろう。

隊長クロッカスとフローラ殿、主だった隊員が山内の警戒に出ていた隙を突かれ私達の馬車は取り囲まれた。


「命が欲しくば女と食い物を置いてけ!」


「黙れ!貴様らの様な下賤な輩にやる食料など麦一粒も無いわッ!」


「どうやら死にてえ様だな?野郎ども!縊り殺せェ!!」


隊員達と盗賊の喧騒が馬車内に響く。何事かと怯え震えるメイリー王女を抱きしめどう打開するかを必死に考える。馬車扉を少し開き前後を確認する。前に三十、後ろにも同数くらいだろうか…


こんな時リリィお姉ちゃんなら、いの一番に飛び出し纏めて倒すだろうか、あるいはメイリー王女を連れ崖に飛び込むか。幸い下は高い木々が連なっている。腕や足の一本や二本折れても後から来たクロッカス中隊の衛星兵が手当てしてくれる筈だ。どちらもリスクはある、だが決断しなければ多少の抵抗のうちに捕まり男達の慰み者となるのは火を見るより明らかだ。


考えろ、考えろ私!



……私が選んだのは後者だった。私はお姉ちゃんの様に大魔法を使えないし、この人数相手に盗賊が馬車に取り付く前に殲滅出来るほど自分の腕に自信はない。だが飛び降りれば命は助かるだろうとの試算だった。


「メイリー王女、三つ数えたら飛び出しますよ?」


「ふぇ?よ、よく分かりませんが分かりましたの。」


「一、ニぃ、三ッ!!」


「キャーッ!人生二度目の自殺行為ですのーー!!!」


メイリー王女を抱き抱え馬車から飛び降りる。自分がクッションとなりメイリー王女には怪我を負わせない様に夢中で庇った。


バギバギッ、と音を立てて枝が折れる。痛たたた……どうやら利き足と利き腕が折れてる様だ。


こういう時、リリィお姉ちゃんなら自分で治癒魔法をつかってパパッと治しちゃうんだろうけど、私には生憎適正がない…火水風土氷雷の六属性が精々だ。


「ナナリア様!折れているのですわ?!私を庇った為においたわしや…」


あわわ、と口に手を当て右往左往するメイリー王女。心配させちゃったか…ごめんなさい。だから私は安心させる様ににへら、と笑い、こう口にした。


「大丈夫大丈夫!きっと何とかなります!きっとそのうち通りすがりの治癒術師が現れるんじゃないですか?あははー!」


お姉ちゃんならこうやって軽口を叩いて安心させる筈だ。勿論通りすがりの治癒術師になんて心当たりはない。


「本当ですの?!それこそ通りすがりの治癒術師が現れない限りはどうにもならないですわ!あぁ、でもここに居ては追手に捕まえられてしまいますの!さっ、私の肩で支えますのでいますわよ!」


ありがとう、と小さく礼を言い少し背の高いメイリー王女の肩に無事な方の腕を回し森の中を彷徨う。木の根が分かれ丁度良いくらいの窪みでひと心地付いた私はお姉ちゃんが馬車での移動中に手渡してくれたマジックバッグの中身を確認する。


食料は……三日分、節約すれば五日分はある。水も同程度だ何とかなる筈。お姉ちゃんに助けられてばかりだな、私。ダメダメだ…


「ナナリア様が食料と水を持っていて助かりましたわ!やがて異変に気付いたクロッカス中隊がきっと助けてくれます!それまでの辛抱ですわ!」


「水も食料もリリィお姉ちゃん…じゃなくてセンティス卿が私に持たせてくれたんです。私は何もしていません。」


「センティス卿…!あの蛮族お子ちゃまがそこまで用意周到な性格をしていたとは俄かに信じられませんですわ!だけど……ナナリア様の様子を見る限り余程信頼しておりますのね?」


「うん、お姉ちゃんは私が兄…陛下と母上、リアスティーナ姉上以外で唯一信用、信頼している人ですから…!初めてお会いした時からお姉ちゃんは優しかったんです。」


「時間は幾らでもありますし、お話して下さらないかしら?」


「ええ、少し長くなりますが…ーー」


私はゆっくりと過去を語りだした。

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