【絢爛にして豪胆】、故に…
根っこに吹き飛ばされたルッカが何事も無かったかの様にムクリと立ち上がる。
右腕と左足が不自然な方向に曲がっており、『Aa...aaah...』と呻き声の様なものを上げながらも此方へと向かってくる。
左腕で右腕を掴み、曲がりを直すと黒い煙のエフェクトが包み、次の瞬間には完治していた。
同様に足も叩き、黒い煙がルッカの足を包み見た目上は完治している風に見える。
自然回復持ち?いや、あんな荒業を自然回復とは言えないか…だが厄介な事には変わりない。
コレなんてゾンビゲー?って感じだけど、向かってくるなら倒すのに代わりはない。
宙空に剣を三振り。ルッカの正面側面三方向から槍の如き根っこが強襲する。
串刺しと言うにはあまりに惨い惨劇にルッカは再び地に膝を突く。
地面に愛剣、もとい《喜望峰•翡翠》を突き刺すと根っこの波が更にルッカを襲い全身を突き刺す。
あぁ、成る程。
今ので大体扱い方が分かった。
剣が所謂指揮者で根っこは楽団、ある程度の命令を魔力を通して伝える事が出来る、って所かな。
蹲るルッカに近付き、角目掛けて叩き折る動作をしてみる。
バギンッと音を立てて角が折れると、黒い煙や肌の色が正常に戻っていく。
剣に込めていた魔力を霧散させ、鞘に納めるとルッカを貫いていた根っこが消えルッカはその場に倒れた。
「良かった…息はある。」
ルッカの傍らには角と注射器の様な器具と透明な薬瓶に黒い液体の入った物が転がっている。
ドロップ?ダンジョンで魔物を倒したらする筈だけど、どういう事?
人工でダンジョンモンスターを作れるって事?
十中八九魔王軍が絡んでるのは確定かな…
「これがシンカーって奴かな?」
薬品を振ってみると中で何かが蠢いてる様な、微細な振動が。
これ液体生物的な感じなのかな?
仮説を立ててみる。
注射器を使い体内に薬瓶の中身を取り込むと魔人化が起こる。
そして何故か倒すとアイテムをドロップする。
つまり人工的な魔物化…いや、正に魔人化と呼称するべきか。
「ーーー申し訳ないが被験体と【強制魔人化薬】を回収させて頂こうか」
突如耳元で囁かれた高い音。
それは言語であり、それを意識した瞬間、私は横っ面を殴られて五メートル程吹き飛んだ。
咄嗟に防御姿勢を取れたので地面に転がることは無かったが、不意打ちにはもっと注意をした方が良いかも。
「ふむ…強化具合が足りなかったか…【魔原生液体生物】の細胞活性化率を調整し直すか。待てよ…肉体改造を施し知能を少し上げるべきか…だが、知能を上げては怪我を負った場合自己修復を行わず諦めてしまうかも知れん。グレイティア殿に要相談だな。ーー」
パーカーの様な外套で顔を隠し何かをぶつぶつと延々と呟いている。
あんにゃろー!私を無視して考察に入ってる。
一撃は一撃だ!喰らえ!伯爵パーンチ!
説明しよう!
伯爵パンチとは魔法で身体能力を上限まで上げた私のエレガントさと清廉さを拳に乗せた一撃なのだ!当たればゴブリンなら消し飛ぶくらいの威力を誇るぞ!
他にも気合いと共に繰り出す伯爵キックや伯爵ヘッドバット、伯爵バックブリーカー、伯爵バスターなどがあるぞ!
「ぶへッ!」
無様な声を上げ地に這いつくばるイカれ野郎。
ふっふっふ、恨みは晴らしたぞ!狂研究者め!
捕獲して洗いざらい情報を吐いてもらーー
「横槍とは無粋な奴め。小生の灰色の脳細胞が死滅したら世界規模の喪失だぞ。被験体まで倒しおって…!貴様だけは絶対に許さん!!」
「カー…リア?!」
「むっ?私を知っているのか?だが私は知らん!ここで朽ち果てるが良い!!」
フードが外れ露わになった顔を見て私は驚愕した。
私は彼女を知っている。
原作の知識でだ。
つまり目の前に立っている女は原作に登場し、主人公達の前に立ちはだかる敵…
なのだが魔王軍には所属していない。
《悪魔爪》という組織がある。
カーリアはそこの研究員で人を恨み、魔族を恨み、世界を恨んだ。
悪魔爪は主人公と魔族の決戦に横から割り込み物語を掻き乱す存在、謂わば第三陣営である。
魔族を先に攻略すると、悪魔爪がアムスティアを滅ぼし、悪魔爪を先に対象とすれば、魔族が強大化し手に負えなくなる。
そんな厄介な連中の研究員が何故ここに?
てっきり魔王軍の手先だと思っていたのだが…
「何故貴方が人を魔人化させたの?魔王軍との関係は?」
「生憎だが黙秘させてもらう、依頼人の事は話せないな!」
「あー、魔王軍から仕事を受けたのか…多分グレイティア辺りと共同研究したのかな?大体分かった。」
「……!何故それを!?貴様は生かしておけん!」
うん、研究者気取ってるけどカーリアって口が軽いんだよね。
それでいてプライドが高くて戦闘も熟せるから手に負えない。
黙ってれば美人なのに時々ポンコツ具合を披露してくれるから憎むに憎めない。
そう…彼女、カーリア•フォンクライブは攻略対象のうちの一人だ。
《喜望峰》を構え何処からか出した酸入りのフラスコを何個も投げ付けてくるカーリアの対処をする。
実は普通に殴った方が強いのだが、それは言わぬが花、という奴だろう。
飛んでくるフラスコの隙間を縫い、地面に剣を突き刺す。
根っこがカーリアに殺到するが、酸で上手くガードしているらしくダメージを与えていない様だ。
「ーーカーリアちゃん!帰りが遅いから迎えに来たよ!【水爆烈風陣】!!」
うひゃあ!横から津波の嵐が私を襲い、慌てて結界を使い上空へと退避する。
このキーキーと甲高い声はーーやっぱり!
魔王軍死天王が一人、【絢爛にして豪胆】グレイティア•フルバスターその人だった。
最近死天王とのエンカ率多くない?バグってるレベルなんだけど…
勝てるかな?いや…死天王最弱では有るんだけど、フィールドが違うし、アイテムも無いからなぁ…
津波嵐が収まるまでは手も足も出ないし、今のうちに生き残る術を考えよう。
うーむ…原作の情報を整理しよう。
まずはフィールド。グレイティアとは旅の途中、何度か戦闘を繰り返し、最終戦で魔王城の近くにある町で戦うのだが、生憎ここは何もない草原。建物なんか建っていない。
そして次にアイテムだが二種類ある。グレイティアの正体である不死女王は聖属性が弱点で有り、道中で手に入る《女神の首飾り》の効果を使い弱体化させるか、《復活代償の十字架》で不死属性を無効化し、攻略するかの二択だ。
そう、グレイティアもめちゃくちゃ難しいが攻略対象である。
囁き忍者さんもね。
だが、現状はフィールドも違うしアイテムもまだ取得していない。所謂詰みである。
どうしたものか…
「お嬢…おっほん!お嬢さん、もし良ければ助太刀しよう。」
「え?」
聞いたことあるような無いような、けど何処か懐かしい声に振り向くとソレは居た。
服越しにも隠し切れないムキムキマッチョなボディに、何故かタキシードを着ており顔を仮面で隠した変たーー御仁で両腰には二振りの剣を履いている。
うん…こんな状況だけど、言わせて?
あんた誰?!しかもなんで空飛んでるの?!
ツッコミどころしかない…
「えっと…貴方は一体?」
「あっs…私の名は紳士仮面!!愛と平和と幼気な少女を守る正義の使者さ!お嬢…さん、私が来たからにはもう安心だ!ハーハッハッハア!!」
「えっと…凄く怪しいので遠慮します…」
見るからに胡散臭い口上を名乗り高笑いする変たーーもとい紳士仮面さんの助太刀を断り、私は戦略的撤退を試みる。
「何、遠慮する事は無いさ!我が正義の剣をとくと見るが良い!《千刃十字斬!!」
話を聞かず、グレイティア達の元へ身投げしたかと思うと両腕に二対の剣を取り、驚くべき速さで振り乱し津波嵐を文字通り切り割った。
え?凄ッ…!!もしかして紳士仮面ってかなり腕が立つ?
私は絶望の中に一条の光明を見出した。
紳士仮面…その正体は…!?
勘づいた方はお口にチャックですよー
おっと…!!そこの読者さん、如月の思考パータンを読んではいけない!!
サブヒロイン7/8人出ちゃいましたねえ。
リーチ掛かってんぞ、これぇ…
過半数以上出たので纏め。
ミュウ ほんわか教師
キャサリーヌ レオンハルト狂いの情報屋
メリッサ 名前のみ既出のハーピィ 出番なし!
グレイティア 自称天才(千年生きてりゃそりゃ誰より魔法の扱いが上手くなる)
テンカ ハイクヲヨメ!!カイシャクスリケン!!ゴウランガ!!
カーリア 研究狂い爆弾(強酸)魔
マルシェラ エセ関西弁ひんぬー少女 前々回ひん剥かれた可哀想な子(尚、過去話を漁り、投稿直前まで忘れてたテヘペロ)
??? 次章で出まっせ…頑張ります。




