開いた口が塞がらない
「カァーッ!久々の外の空気は旨ぇなッ?お天道さんが眩しいぜッ!!」
「隊長、少し静かにして頂けますか?私は今再び地上に出られた喜びに浸って居るんですから。」
「カァーッ!ほんとお前さんは堅いな、フルルーシカ!そんなんだから婚期を逃すんだーーふべらっ」
「淑女に失礼な事を言った隊長のお口はお仕置きです。 」
赤髪の偉丈夫が宙を舞う。これ一国の英雄なんだぜ?
クロッカス中隊を引き連れ地上へと舞い戻った私は、何故かクロッカスと副長の夫婦漫才を見せられている。
ダンジョン内で部隊員が全員目覚めるまで一日滞在し、クロッカスと話し合いを行い共に撤退をし、今に至る。
途中、クロッカスに試合を挑まれたりしたけど副長のフルルーシカさんに顔面鉄拳されて大人しくなったが…命の恩人だと慕われるのはむず痒いけど、この人多分戦闘狂のカテゴリーだよね?
「ナァ、リリィの嬢ちゃん!本当にこんな貰っても良いのか?」
「うん。別に私達は過剰数要らないし、クロッカス達は必要なんでしょう?それに交換条件だし!」
「カァーッ!その若さで何て懐のデカさだ!こりゃさぞかしいい女になるなッ!カカッ!」
私が渡したのはクロッカス中隊がこのダンジョンに訪れた最大の理由である万病に効く果実、アムリィタがごつそり入ったマジックバックである。
少し魔法の練習がてら周辺の魔物を狩りすぎて色んな物が手に入った。
しかも珍しい武器と面白そうな装備も手に入ったからホクホクだ、後でランゼに自慢しよ。
「ふふんッ!生憎既に売り切れだよ!【届かぬ名工より近くの武器屋】って言うでしょ?ほらほら?」
所謂、灯台下暗し的な意味で使われる言葉だ。
「な、何でしょうかッ?!あまりチラチラ見られると恥ずかしいですからッ!!た、隊長!見ないでぇ!!」
「んぁ?フルルーシカの奴どしたんだ?」
「アハハ、ごめんごめん!ちょっと揶揄っただけだからさ!すぐ元に戻るよ」
アハハ、フルルーシカの反応面白いなぁ!私の恋愛反応器官がギュインギュイン言ってるよ?
和気藹々と話し合いながら暫く歩くとコッペリオンの城壁が見えて来る。
「じゃあギルドによって解散!ちゃんと覚えてる?」
「オウよ!二日後の朝に北門だろ?あれ、三日後だったか?」
「四日後です!丸一日ギルドで事情聴取で拘束され、王城にも挨拶しなければなりません。それに損耗した物資や食料の買い込み、隊員達も休息が必要でしょう。国元に帰ったら直ぐにバハル要塞に救援に向かわなければなりません。それからーー」
「あー分かった。細かいことはフルルーシカに全権委ねる!全員聞けー!俺とフルルーシカはこれからコッペリオンでの用事を諸々済ませて来る。各自班単位で行動して物資を購入するように!あと、これは俺からの奢りだ、みんなで酒でも飲んで来い!但し交代でだぞ?色街に行っても衛兵沙汰だけは起こすなよー?んじゃ解散!」
んー、なんだろこの適当感。けど妙に締める所は締めてて、ポケットマネーまで出すとは。
兵達を見ると良い意味で馬鹿にして笑いながらも尊敬の眼差しを送っている。あぁ母国の英雄だからか。納得した。
救出したは良いけど、既に事切れて居た人も少なくは無かった。だからこその心のケアなんだろうな。
不思議な人だ、人を惹きつける魅力を持っている、とでも言えば良いだろうか。
改めて助けられて良かった、と心底思う。
「お嬢様、お帰りお待ちしておりました!」
「出迎えご苦労様ぁ!ちゃちゃっとギルドで報酬貰いに行こうー」
「お供します」
門の前で待っていたランゼと合流し、王都内へ入る。
予めメッセンジャーとしてこの時間に帰るという伝言をダリアに頼んで伝えてて貰ってたからスムーズに合流出来た。
「ギルドマスターがお待ちです。此方へどうぞ!」
コッペリオン支部で最初に会った受付嬢さんに案内されて私達四人はギルマスの執務室へ。
扉が開き、直ぐにソファを勧められ香りの良い紅茶とクッキーが運ばれて来た。
「先ずはリリアナ様、任務達成おめでとうございます。此方が報酬と頼まれていた書類です。」
「ありがとう、フローラさん。あ、ギルド間での通信装置って本部まで届くんだっけ?あ、私は後で良いや。先にクロッカス達の話進めちゃって!」
出来ればギルド本部に連絡を入れてジェシカと話したい。
まぁランゼからギルド経由で速達便で手紙を送ってるから大丈夫だけど直接声を聞きたい。
凄いよね、鳥人が国連に雇われて手紙の配達員やってるんだからさ。
ランゼの居たマルバラ支部は小さい街だったから通信設備が近くの街、遠くてもここコッペリオンが限界だった。
「お気遣いありがとうございます。改めましてクロッカス様、及びクロッカス中隊の皆様の御生還、心より祝福致します。」
「此度の協力、誠に感謝する。貴国とは同盟関係である、後程御上から感謝の言葉と品が届くだろう。重ねて救援としてリリアナ殿達を遣わせて頂きお心遣い感謝している。九死に一生を得たよ。」
「わたくし共としてもクーロンの英雄たるクロッカス様、または中隊の皆様が生存していたと言う事実に驚いています!流石はクーロンの剣と言った所ですね。災害級主並みの敵とそこのランゼから大方の話は伺っておりますが、詳しくお伺いしたいのです。お願い出来ますでしょうか?」
「勿論だとも。その為に俺達は来たからな!」
「では案内の者を。ご協力感謝します。」
「オウよ!じゃあなリリィの嬢ちゃん!」
「ばいばーい」
クロッカスはニカッと笑ってフルルーシカを連れて出て行った。
「さてリリアナ様。先程の問いへの返答ですが、一応可能では有ります。ですが膨大な量の魔石と引き換えに時間は二分あるかどうか…そして、通信装置を扱うにはSランク以上の資格が必要となるので…階級は此方で手続きを行いSランクに引き上げる事は出来るのですが魔石が…申し訳ありません。近隣が戦争状態で物資支援してしまい今現在ギルドには…」
この通信装置、私の幼馴染にして世界に誇る天才。
ルル…ーールルイア•ブラックベリー•エンディミオンが主導でセンティス領都マルセムにある魔法研究施設通称【梟の塔】が開発した。
原案出したのは私だけど、完成してたんだなぁ…技術の進歩を感じる。
「ん?魔石が有れば良いの?」
「えぇ、ギルドとしても買取額を上げ冒険者からの買取を強化しているのですが…生活に魔石は不可欠ですから…」
魔石かぁ。幸いというか大量にもってるんだよなぁ。
というのもクロッカス中隊が起きるまでの時間、手合わせはしなかったけど魔物狩りでクロッカスと勝負して大量の戦利品が約八畳相当のマジックバック三つ分。
通信装置にどれだけ使うかは知らないけど流石に足りないはず無いよね?
ガラガラガラッと音を立てて執務室の応接机から溢れる程の量の魔石。
フローラさんの顔を見て不敵に笑う。
「これと同じ量があと二つあるよ?」
その言葉を聞いたフローラさんの開いた口が更に開いた。
「……はっ!ギルドで買い取らせて頂きますぅー!!」
勝ったな。




