豊穣の大樹海5
全員第三者視点、後半リリアナ視点です。
ブクマ700超えた記念で更新しまーす!
集中…集中…集中…。
少女は意識を異形の魔法生物、泥沼男に割いた。
【豊穣の大樹海】二十五階層の隅から隅までを泥沼男で、まるで杯に水を満たすかの如く。
草の根を掻き分けて、転がる岩の周りを、大樹の根元を、一片の痕跡すら見落とさない様に、慎重かつ迅速に二十五階層を泥で出来た人型の群体が一切の乱れなく突き進んで行く。
やがて群体の一体が痕跡を見付けた。
それは何の変哲もない野営の後だ。
数カ所に焚火と簡易天幕が置かれている。
そして不自然な程に巨大な何かが這った様な跡。
しかし群体の魔法発動者である少女は、まるで一辺の暗闇の中から一条の光明を捉えたかの様な感情を幻視する。
「見付けた!!」
少女は叫ぶと腰掛けていた岩から跳ね上がり仲間を連れ、二十四階層への階段を駆け降りた。
既に制圧し二十五階層への階段迄の最短距離を抑えている少女は迷う素振りさえ見せず駆け出す。
それに付き従う者は、ある者は主人の行動に間違いなどあるものかと実直に信じ、ある者はやれやれと言った風に首を左右に振りつつもその背を追った。
五人五色の表情を浮かべながらも根底に根差す志は同じだった。
『少女と同じ景色を見たい』、と。
歳も、生まれも、性別も、全く違う六人がそれぞれ、個々で感じていた形容詞は違えど、少女の背を追った。
忽然と消息を絶った少女を探し見知らぬ地へ己の双剣のみで旅をし五年の時を超え再会した少女を【至高の主人】と仰ぐ従者の青年。
歳は離れていようと背を預けるに足る【戦友】と認める褐色の女拳士。
四百年の呪縛から解いてくれた少女を【恩人】と慕い故郷の土を踏む為共に進む吸血鬼少女。
冒険者の顔役として新人に指導を行ってきた自らを軽く伸し驕っていた自分を導く少女を【先導者】と呼ぶ中堅。
魔導士としての自負を一瞬にして砕かれ氾濫を覆しその一挙一動を余すことなく観察し【心の師】と敬す淑女。
五人は脇目も振らず追いかけた。
リリアナ•アルデン•センティスと言う年端も行かぬ、しかしその内に秘めし極光を見失わぬ様に。
この先に待ち受ける苦難が有るとも知らずに…。。。
×+×+×+×+×+×+×
「到ちゃーくっ!!」
ふぅぅうー、流石に走りづらい森の中を、風刃や結界術で慣らしながらの全力疾走は疲れる。
マルシェラたんとメルティさんが何回か転びかけたけどその度に速度を緩めながら補助に回っていたので精神的にも大分疲れた…。
さて、クーロン王国のクロッカス第三中隊の野営地と思われる場所に辿り着いた。
簡易天幕の中には部隊員の私物や、支給品と思われる荷物のみで人っ子一人見当たらない。
次に焚火の周りを巡回するも巨大な何かが這った跡のみで他に痕跡は見当たらない。
「お嬢様、一つ提案が。」
「ん?どったの?」
「ボストンやマルシェラ様、メルティが息も絶え絶えでして。」
「あー、じゃあ適当に休ませてて?私はもう少し捜索を続けてみるよ」
「畏まりました。その様に伝えて参ります。」
『グワァぁあ…た…すけ…てぇ!!』
私は咄嗟に叫び声の方へ駆け出す。
暫く行くと今までの大木がマッチ棒に見えてしまう程、巨大な幹を誇る巨大人面樹が目の前に聳え立っていた。
青々とした葉が広がり、枝には林檎を模した半透明状の果実が沢山生っている。
私は強化した目で凝らし、自分の目を疑った。
その果実の中にそれぞれ人が入っていたのだから。
『Guwooooooo!!』
「えっ!?ちょっ!」
突然太く巨大な根が私を襲う。
「危ない、なッ!!」
【百式火弾幕】を咄嗟に放ち根っこを文字通り焼き尽くす。
「お嬢様!」
「ん!あいつが行方不明を出した正体だよ!」
「な…?!」
「私はあいつを牽制するからランゼとダリアで救助よろしく!足場はこっちで用意する!マルとボスは周辺警戒、メルは私の援護で!」
「「「了解」」」
全員を引き連れたランゼが合流し、それぞれに指示を飛ばす。
体力の切れている三人を私の周辺に配置して比較的元気なランゼとダリアに救助を任せる。
見た感じ、クロッカス中隊と思しき人達が捕らえられてる果実状の半透明の膜。
一定以上の攻撃に耐えるか、若しくは外敵に獲物を取られない様に保護している物と推測する。
このダンジョンにあれを脅かす様な外敵が居るかは不明だが…
弱点としては、順当に行けば斬撃、火属性だろうか。
だが生木なので氷、雷属性辺りも効きそうかな。
枝をしならせ鞭の様に私を狙い攻撃してくるが結界で防ぎ【爆炎雷刃】で押し返す。
『Gwaaaaoooo!!』
お?効いてる?
「メル、火属性で攻撃!間違っても枝から上は狙っちゃダメだよッ!狙うなら顔!!」
「はいっ!【火槍】!!」
メルティは火、水、氷の三属性を扱える。
氷属性が突出して得意だが火と水も中級魔法くらいの火力は出せる。
「お嬢様!救出した者たちは何方へ運べば宜しいでしょうか?」
「野営地に泥沼男を配置してるからそこまで運んで!結界で直通路を繋げる!!」
「承知!」
双剣を振り回し半透明果実を割ったランゼが救助を始める。
ダリアは付与魔法なのか黒腕に炎を宿しランゼの援護に回っている。
「マル、運搬の手伝いお願い出来る?」
「合点やで!」
みぃちゃんに跨ったマルがランゼの元にあっという間に辿り着くと、みぃちゃんが背に二人担ぎ上げ野営地へと姿を消した。
うん、あっちは任せて大丈夫そうだね。
「けっぷ…よぉーし、私も久々に本気出しちゃうぞー!」
MP回復薬を一気飲みして魔力を練る。
いつもの倍以上時間を掛けて練ったそれは私の全身を駆け巡り順応していく。
過去、たった一度だけ使った禁呪として封印していたそれは、山一つを消し飛ばし、草原を不毛の荒野へと変えた。
ぶっちゃけ凄く疲れるから使いたく無いんだけど、強敵認定したし良いよね?
「【雷神乃鉄槌ァー】!!」
「それは困るね。うん、凄く困る。」
「えっ?」
発動詞を叫んだ瞬間、突然背後から聞こえた声に私は振り返る。
意識を割いた瞬間練った魔力は霧散し、消えた。
膨大な魔力を喪失した反動が起こり、一瞬目眩が起きる。
瞬間、鋭く細いーーこの世界特有の直剣ではない剣、刀と形容するに相応しい一閃が大上段から振り下ろされた。
「つあっ!痛たたー!」
振り下ろされた一閃をギリギリ頭スレスレで耐え跳ね返す。
が、不意打直線蹴りが私の腹に命中する。
「初めましてリリアナ。やっと出会えた…!ボクはマオ。ずっと、見てたよぉー、クヒヒ…」
黒い外套の隙間から覗く銀色の髪に黒い瞳。
そしてフードを押し上げる2本の角。
ニヤリと笑った口の隙間から長い八重歯が覗きマオと名乗った謎の人物は不敵に笑った。




