旅立ち、新たな仲間と共に
しばらく門前で時間を潰していると、二十代くらいの女性が私の元へとやって来た。
「あの…リリーさんでしょうか?ギルマスから獣魔の首輪を此方に届ける様に言われてきたのですが。」
「リリーだよ。お姉さんありがとう!忙しいのにごめんね?あ、お姉さんお名前は?」
「はい、メルティと申します。あと、こちらが従魔召喚、返還用の指輪です。使役している方が魔力を込めるとその場に召喚、返喚される仕組みとなっております。」
少し不思議そうな顔をしながらもきちんと名乗ってくれた。
メルティさんか。
素敵なお姉さんだ。
そして変な事を聞く私にもきちんと対応してくれるとは、恐れ入る。
お役所感が否めないが、それが仕事だもんね。
「メルティお姉さんね…うん、覚えた!説明もしっかり覚えたよ!」
「は、はぁ…。では、私は仕事が残っているのでこれで…失礼します。あ、従魔はギルドに届け出が必要ですので後程ギルドにお越しくださいね?」
「分かった、じゃあまた後でね、メルティお姉さん!」
暫しの別れを伝えると私はマルシェラちゃんの元へ向かった。
辿り着くとマルシェラはみぃちゃんの上に頭を起きお昼寝していた。
「ただいまぁー!はいこれ、従魔の首飾り!みぃちゃんに付けてあげて?」
「んぅ…?あー、リリーかー。お帰りー、随分早かったなぁ?ウチ、夕方まで来ないと思ってたわー。」
「あはは、流石にそこまで待たせないって!んじゃ、早速行きますか!あ、こっちは召喚、返喚用の指輪だって。使い方は分かる?」
「ん?あーなるほど。なんとなく分かるわー。」
「そう?良かった。じゃあ改めて…町へレッツゴー!」
「れっつごー?良く分からへんが、行くでみぃちゃん!ふふ…!町、楽しみやなぁ。」
マルシェラちゃん、凄く楽しそう。
あれだけ町に行きたがってたもんなぁー。
早く色々見せてあげたい!
あー、でも私アムスティアの王都まで行かなきゃいけないんだよなぁ。
ノリでマルシェラちゃん連れてきたけど、着いてきてくれるだろうか?
まぁ、その辺は少し落ち着いたら話してみよう。
町に戻りがてら、ゆっくりと残り少ない魔物を倒しながら私達はマルバラへと辿り着いた。
早速ギルドへ向かおう…と、思ったが、先にみぃちゃんを返喚した方が良いよね?
幾ら首輪を付けてるとはいえ、スタンピードを終えただでさえ昂っているのにこれ以上刺激する訳にはいかない。
マルシェラちゃんに説明すると、理解していたのか直ぐにみぃちゃんを返喚してくれた。
門を過ぎ、町へ入ると私はマルシェラちゃんの手を握り、ゆっくりと町中を探索する。
別に少し位寄り道しても平気だろう。
途中でダリアを発見する。
ダリアも此方に気が付いたのかゆっくりと向かってくる。
「リリー、その子は?」
「あー…ダンジョンに捕まってて連れてきたの!魔物使いで、首輪を貰うのにさっきランゼの居場所を聞いたんだ。」
道中マルシェラちゃんとは話の大筋を決めていた。
お互いで認識していた方が齟齬が無くて楽だろう。
マルシェラちゃんもアムスティアに連れていくならランゼには正体を教えるつもりだ。
私の中でランゼはアムスティアまで強制連行確定である。
まぁ、本人も着いて来る満々だろうな。
元々居なくなった私を探すためにギルドに入ったんだから、目的が達成された訳でギルドに拘る必要もないだろう。
「ほう…魔物使いねー?今度その魔物を見せて貰っても良いかい?あぁ、私はダリア。森で倒れてたリリーを拾った冒険者だよ!よろしく!」
「ウチ、マルシェラです。リリー同様、この辺の土地勘が無くて…」
「マルシェラねー。まぁ、任しときな!アタシはこの辺じゃ結構顔が利くからねー!子供の一人や二人、面倒の一つくらい見てやれるさ!」
どうやらダリアとマルシェラちゃんは仲良くやっていけそうだ。
「ダリアー、とりあえずギルド行こ?魔獣の登録とかダンジョンの話とか色々話す事あるし。」
「そうだね、アタシもギルドに向かう途中だったんだ!マルシェラ、一緒に行っても良いかい?」
「え?あ、うん。ウチはかまへんよ!」
三人でギルドに向かった。
ギルドに着くとメルティさんに事情を話し、早速ランゼの元へ向かう。
ランゼは何やら色々と書類仕事をしていた様だが、私が通されると早々に打ち切り前のソファーへ腰掛けた。
「いやぁー、度々悪いねギルマス。アタシなんかがここに居ちゃ場違いかねえ?」
ん?ダリア、今更気を遣ってるのかな?
まぁ巻き込んじゃったのは申し訳ないけど、ダリアには知っておいて欲しいな、引き留めよう。
「あー、ダリアも一応いて欲しい。私の事とか、今後の話にも触れると思うから。」
「そうかい?まぁ、そう言うなら残ろうかね。」
うん、もしマルシェラちゃんが残るって言うのならダリアに面倒を見て貰いたいなぁって思ってる。
マルシェラちゃんも懐いてるっぽいし、Aランクのダリアが側に居るなら安全だろう。
「じゃあ私から報告するね。…っと、その前にこの子はマルシェラちゃん。こっちはランゼ。」
「冒険者ギルドマルバラ支部ギルドマスターのランゼだ。お嬢様の家臣でもある。」
「マルシェラですー。よろしゅうね。」
「顔合わせも終わったところで…ランゼ、百年前ジェネシス家で誘拐事件が起きたのって知ってる?拐われたのがこのマルシェラちゃん。呪いで半魔族化してて拐われた当時の姿なの。」
マルシェラちゃんの事情は道中で色々と聞いた。
百年経っても若いのは半魔族化の呪いの影響とは驚いた…!
「百年前…ジェネシス家…?私もお嬢様にお仕えしてからアムスティアの歴史は叩き込みましたが、その様な話は見聞きした事がありませんね。ですが、ジェネシス家の方とあらばお嬢様と同じ対応をさせて頂きます。先程は失礼しました。」
「かまへんで!あとマルシェラでええわ。ウチ長いこと貴族社会から離れとったし、気楽な方がすっかり慣れとるから。」
「わかった。言葉は崩すが、主の手前マルシェラ様とお呼びさせて頂こう。」
「任せるわ。んん?てかリリー、アムスティアの貴族なん?初耳やわー。」
あれ…?
「あ、私の事、何も話してなかったわ…てへッ☆」
「てへッ☆じゃないわー!てことはリリー、アムスティアに帰るん?」
おお、ノリ突っ込みだ!じゃなくて…
「そう、その事を伝えようと思ってね?私としてはここに居る四人でアムスティアを目指したいんだけど、ダリアやマルシェラちゃんの気持ちもあるだろうし…特にダリアは拠点から離れる訳だから護衛依頼として依頼を出したいんだー。どう?」
「ちょっと、待ってくれ。情報量が多すぎてちんぷんかんぷんだよ…」
「あー、ごめん。ゆっくりで良いから考えといて。」
多分死天王の件でまた混乱させるだろうなぁ…
ゴッサムの事について触れるからには多分ガーファンクルについても教えなくちゃね。
相当探してたみたいで、旅の何処かで遭遇するかも知れないし。
「ふぅ…一つずつ、教えてくれ。まずはリリー、あんたは貴族で間違いないね?」
「うん。改めて名乗るよ。リリアナ・アルデン・センティス、アムスティア王国の伯爵だよ。ランゼは私の家臣。あ、態度は今まで通りで良いからね?」
「ふぅ…リリーがそう言うならそうさせて貰おうかね。じゃあ次の質問だよ。何故、近くの森で倒れてたんだい?」
私は事の経緯…というか憶測を並び立て、それを説明しながら話した。
あれはマリアンヌの魔法、多分時間に作用する類いだ。
それが突発的に何か条件を満たしたのか、それとも暴発したのかはわからないけど、こうして五年後にやってきた。
うん、自分で言ってて意味がわからない!
「五年前から時間を飛んできた…ねぇ。だが、ギルマスの態度を見る限り、嘘じゃないんだろうね。分かった、信じるよ。」
「ありがとう。」
「それからアムスティアまでの護衛依頼だったね?勿論受けるさ。こうしてリリーと出会ったのも何かの縁さね。こっちから頼むよ。」
「本当に?ありがとう!よろしくね!」
うぅー、正直断られるかと思ってた…ダリア!なんて心が広いんだぁ…少しうるって来ちゃった。
「ウチも行くで。リリーと…離れとうないもん!」
顔を真っ赤に染めそんなことを言われると、変なテンションになりそうだ。
くぅ~…可愛いい!
抱き締めたい…抱き締めてもいいよね?
「マルシェラちゃんもありがと。」
「私もお供させて頂きます。」
「ギルマスの仕事は、サブマスのメルティに既に引き継ぎの準備をしてます。少し時間が掛かりそうなので三日ほど頂けますか?」
ほえー、メルティさんサブマスだったんだ。
あの若さでサブマスって、かなり優秀なんだろうなー。
うちで雇いたいくらい。
そんな偉い人を使い走りに出すとは…
まぁ、緊急事態だったし仕方ないか。
ぐぅ~
私のお腹が鳴った。恥ずかしい…!
「私は構わないよ。それじゃ先にスタンピード終了の宴をしよっか!私、お腹空いちゃったよ…ランゼ、準備を!あ…お金…ええい、支払いはマシューにでもさせなさい。あれでも伯爵なんだから余裕でしょう。」
「はっ、ただいま!宴は僭越ながら私が支払いましょう。」
「うん、ごめんね…ありがと!」
「これでもギルドマスターなので、多少の蓄えは有りますからお気になさらず!」
少し締まらないけど、私達の新たな旅はこうして始まる。
けど、今は少しだけ休憩…皆、大変な思いをしたんだから労ってあげないと。
五年か…皆どんな風に成長したのか、今から会うのが楽しみだなぁ…!
次回更新は三月となります。
更新時はTwitterで報告させて頂きます。
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