閑話 姉の居ない日々2
あれよこれよとあっという間に年の瀬となり、新年のパーティーの日となった。
伯爵家当主代理として僕はそこに参加しなければならない。
まだまだ剣だけを振っていたいのだが、世間はそんな事を許してくれないようだ。
「坊っちゃま、時間です。」
「あ、うん。あと当主代理だからね?いい加減覚えて、パルメラさん?」
「畏まりました、坊っちゃま。」
「うん…全然畏まってないよね…?はぁ…もう、いいや。モガ、えっと…礼服の用意は出来てるかな?」
僕は幼馴染みの名を呼ぶ。
「ここに。それとマシュー坊っちゃん、私のことはモルガナとお呼びください。そんな親しく呼ばれては他の使用人に勘違いさせてしまいます。私と坊っちゃんはあくまでリリアナ様の代理とリリアナ様付きのメイド、その領分を犯すのは少々拙いかと。」
むぅー…幼馴染みの態度が冷たい。
僕は早口で捲し立てるモガに少しドン引きした。
「あ、うん…ごめんね、モルガナ。つい昔の癖で…あ、そうだ。僕が帰ったら使用人を全員集めてパーティーを開こう。メイド長のイレーネには伝えてあるけど、準備をしておいてくれるかな?」
「フッ…パーティーの準備は万全です。愚問ですよ、坊っちゃん。」
なんか最近僕の事をジョセフの真似をしているのか坊っちゃん坊っちゃん言うようになった年下の幼馴染みはパーティーの準備は抜かりなくしており、不敵に笑うのだった。
「あ、はい。行ってきます。」
話している間に着替え終えた僕は共に招待されているジョセフと共に馬車へと乗り込んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
パーティー会場に着くと僕は衛兵に招待状を見せ、会場入りする。
会場には多くの貴族家当主やその家族が居り、王城付きのメイドさんや執事さんが配膳をしている。
僕とジョセフが並んでテーブルを囲んでいると見知った顔がやって来る。
姉の親友であり、僕の戦友である。
ソラージュ侯爵家令嬢アンさんとミシェイラ侯爵家令嬢タニアさんだ。
隣には不機嫌そうに佇むアルフォード子爵家令嬢レインさんが居る。
「マー君、こんばんはー」
「マシュー、久し…ぶり。」
「タニアさん、アンさん、レインさんもご無沙汰してます。」
「ーーフンッ…」
うぅ…レインさんの冷たい視線が僕に突き刺さる。
あの目を浴びせられ続けると、新しい扉を開くから気を付けろとは、隣で大食いしているうちの騎士団長の談だが、どういうことだろう?
その扉を開けたら強くなるのならば、僕は構わず開けるんだろうけど、ジョセフにそれだけは止めとけって言われたから踏み止まっている。
「よくもノコノコ姿を現したものですわね、センティス伯爵家当主代理殿?」
「ちょっと、レインちゃーん!喧嘩はメッだよ?マー君も慣れない仕事を頑張ってるんだからさー!」
「そう。レインはただ、照れ隠ししてる。私と遊んでる時、『マシューさんは元気ですの?』って毎回聞いてくる。大丈夫、嫌われてない!」
アンさんが非常に似ているレインさんの声真似を披露して、僕達の立つテーブルは少し賑やかになった。
レインさんが、アンさんの口止めをしようとして僕の後ろに逃げ込んだアンさんがレインさんのプライベートをぶちまけた。
「レインね、あの時マシューをひっぱたいて後悔してるって。泣きながら、マシューに謝りたいって言ってた。」
「そう…なんですね。レインさん、僕が不甲斐ないばかりに色々とご迷惑をお掛けしました。」
「ふ、ふんッ…バラされては仕方ありませんわ。あの時の事、今ここでお詫び申し上げます。これからもリリーの後継としてその名に恥じぬよう精進なさい。」
「あはは…分かりました。肝に命じます。」
姉さんの後継として…か。
僕はうまくやれるのだろうか…?
「四公爵家の方々のおなーりー!」
レインさんと仲直りは出来たけど、最大の課題が残っている。
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