奥の手
さぁーて、どうしようか。
未だに一割程度しかダメージを与えられていない格上相手だ。
困ったなぁ。
「おいおい、どうしたぁー?粋がってた割にはこの程度かよ?俺様はまだまだピンピンしてるぜぇ、嬢ちゃん。」
「ふん、粋がっているのはそっちでしょ?私はまだまだ本気を出してないわよ?」
「そうかい、そうかい。ならこれを取ってみな?」
親指で自らの首を指し示すゴッサム。
挑発に乗ってはいけない。
私は淡々と次の手を切った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あぁー、もう!ゴッサム強すぎぃ!」
「はは、姉貴は難しく考えすぎだよ。ゴッサムは聖魔法と雷魔法に弱い。主人公とマリアンヌ、リリアナを育ててれば余裕な相手なのに、姉貴ってばリリアナを早々に切り捨てただろ?リリアナは早熟タイプだけど、実は魔法火力ではオリヴィアを抜いて一番なんだぜ?」
「だってぇ…色々なヒロインを育てたかったし…」
「まぁ、その気持ちは分かるけどさぁ。リリアナを育てるのが嫌なら付与魔法って手もある。聖属性か雷属性を武器に付与させるんだよ。そうすれば、弱点を付ける。」
「そっかぁ!幸太は物知りだなぁ。」
「姉貴はリサーチ不足なんだよ。今時の人間がネット使えないってのもどうかしてると思うぜ?」
「うっ…それは言わないで!」
「プッ…アハハハハ」
「フフフ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ふと甦った前世の記憶。
まだ私が実家で暮らしてた頃に初プレイで中ボスたるゴッサムで躓いた時、弟の幸太から助言を貰った時の事だ。
付与魔法。
これならば、未熟な私でもゴッサムに勝てるかも知れない。
イメージは剣を覆う聖なる雷。
如何なる闇をも切り裂く聖なる雷光だ。
「付与剣【裁定轟雷】」
一歩、踏み出す。
その一太刀は軽々と強靭なゴッサムの肉体を斬り伏せ、内臓を焼いた。
返す手で左腕と右足を切り落とし、心臓へと突きを見舞った。
「ーーガァッ!おいおい、そいつぁ危ねえな。そんな物騒な奥の手があるたぁ、恐れいったぜ。だが、俺様を嘗めるなよ…メスガキぃ…!」
その瞬間、ゴッサムの殺気が倍増した。
気づいたら私の左腕は宙を舞っていた。
「【欠損再生】、【防御強化四乗】」
全く動きが見えなかった。
飛んだ左腕を治癒し、防御を四倍まで引き上げた。
「【雷天罰】」
上空から轟音を立てゴッサムの身に神雷が降り注ぐ。
未だに鳴り止まぬ轟音を片端に私はマシューの方へ視線を向ける。
善戦しているのか、ヨハンを確実に追い詰めてはいたが、様子がおかしい。
「ヌゥ…小賢しいガキ共め!ならば、狙うはそこの小娘のみ!」
ヨハンが口にした言葉、小娘とは誰を指しているのか。
考えなくても分かる。ヨハンの真後ろに居たマリアンヌだろう。
私は全速力でマリアンヌとヨハンの元へ駆け込んだ。
「マリー!」
気が付けばマリアンヌの事を愛称で呼んでいた。
この子を失いたくない。
私は無我夢中で駆け出した。
しかし、無情。
私とマリアンヌとの距離は開きすぎていて間に合わない。私は自分の無力を呪った。
その時、一角天馬に乗ったマシューが叫ぶ。
「マリアンヌさん!」
一瞬動きが止まったヨハンの元へ私は限界を越えて飛び出した。
ヨハンの魔法が直撃したマリアンヌを抱き抱え私はヨハンを蹴り飛ばし、ありったけの魔力を治癒魔法に込めた。
(この子だけは…絶対に死なせない!)
今まで見たことのない純白の光がマリアンヌを包み込んだ。
「貴方は絶対に死なせないわ…!マシューを支えてあげて…!」
その一心で私はマリアンヌを治療した。
すると起き上がったヨハンは突然高笑いをし、マリアンヌを狙おうとする。
させない!
私は一気に距離を詰めるとヨハンの手足を斬り飛ばした。
「ウグゥッ…アァッ!わ、たしの腕と足が…!おのれ…おのれぇー!リリアナぁー!」
「あんたに構ってる暇はないの。じゃあね、噛ませ犬さん。」
大上段に構えた私の剣がヨハンに当たる寸前…!
ヨハンは魔力を暴走させ爆ぜた。
あ…これ、ちょっと…ヤバい…かも。
私はそのまま意識を失った。
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