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漢のYUJYO

三日が過ぎ、早朝に布陣をした全軍の前に私は立っていた。


私の両脇には偵察から戻ってきたジョセフとアルトリオとメルトリア伯、センティス騎士団長、近衛騎士団長、王国騎士団長が控えていた。



一段高い台に立ち私は声を張り上げる。



「これより、海を渡りバルッセ公国領土へと侵入する!これまでも諸君らが見てきた通り、私は様々な魔法を使う事が出来る。この海さえ私にとっては大した障害にはならない!海を越え大陸に上陸すればバルッセ公国側は見過ごす訳にはいかないだろう。何度も衝突はある筈だ!しかしこれは名誉の戦いであり、戦女神ヴァルキュリアの二つ名を持つこの私が先陣を切り、傷付いた者は治癒神の聖女たる私が癒そう。何も恐れる事は無いッ!我に続けェーッ!」



『うぉぉぉおおおーーー!!!』



私の演説が終わり、行軍を開始する。


キャメロットは港町であるため私は魔力を消費し結界で足場を形成した。


むぅ…約200㎞の海の上を歩けるほどの結界を作るのは少し骨が折れる。


消費される魔力は微々たるものなので私の気の持ち様なんだろうけど。


昼過ぎに一度行軍を止め昼休憩を取る。


行軍は順調そのもので大人が二十人並んで歩ける様な広さで結界を作ったので事故らしい事故は一度もなかった。


あと丸四日ほどの工程、何事も無ければいいのだが…


そんな風に一人考えていると、メルトリア伯…バルムンク殿が声を掛けてくる。


「お疲れ様です、閣下。やはり貴女には将足る才が溢れている。先程の演説で軍の士気も上がり必ずや応えてくれるでしょうな…ククク、これで齢十一とは末恐ろしい…貴女が味方であることだけが我が国の救いなのでしょうな…!」


いつもはリリアナ殿と呼ぶし、妙に畏まった口調でバルムンク殿はそう言った。


うぅ…この化け物親父がこんな態度を示すなんて気味が悪い…


「恐れ入ります。ですが私はまだまだ若輩の身、生ける伝説と名高いバルムンク殿から褒められるのは背筋が凍る思いですよ。過大評価をし過ぎですよ。それにいつもの口調はどうされたのですか?」


「いえいえ、閣下の部下としての立場を鑑みての事。それにそんなに自己過小評価をしていては他の者が自信をなくしてしまうというもの。ご自愛されよ。」


「……肝に命じておきます。」


私はそう返事をした。

私とバルムンク殿の会話を聞いていたジョセフが私の前に立ちバルムンク殿へと立ちはだかる。


「おい、バル!てめぇ何を考えてやがる?お前が敬語をつかう時、それは相手を嵌めるか、何か考えてる時だけだ。お嬢に何か不利益をもたらすってんなら俺が相手になるが…?」


ジョセフの右手は左腰に提げられた愛剣に当てられている。


え?抜くの?

ジョセフご乱心?


YUJYOが壊れたの?


「何も考えちゃいねえよ。お前の主に取り入ろうって訳でもねえ。だが、少し考えが甘過ぎるのを指摘したい。こっちは15000に徴兵した2000を加えた17000、相手は一国でその兵数は10万近くだ。この意味が分かるか?幾ら一騎当千の力を持ち合わせていようと兵の数は圧倒的不利だ。そして万が一こちらの総大将が討ち取られる様なことがーー失礼した、閣下ご気分を害したのであれば改めて詫びをしたい。」


ジョセフが殺気を込めるとバルムンク殿は易々と引き下がった。


「お嬢は俺が守る。この命に代えーー」


ジョセフの言葉を遮る様に私は言葉を被せた。


「謝罪は不要です。私の考えが甘いと言う意見も分かります。なるべく被害は抑えるつもりですが、ユグドラ嬢を助ける為ならば私はこの命、幾らでも捨てましょう!友を助けるというのはそういう事なのだと貴殿方三人を見て私は学んだつもりですよ?」


ジョセフが過去に話してくれた会話を思い出し、私はバルムンク殿に訴えた。


ジョセフが学生だった十五年前、まだ騎士学校に籍を置いていた三人が帝国との戦争に志願兵として従軍した時の話。


ジョセフは照れ臭そうに話していたけど、お互いライバルと意識しながらも四年間の長い時間を、共に過ごし、窮地には駆け付け助け合って危機を乗り越えたのだという。


その時三人の関係を聞くとジョセフはこう言った。


『平民出のあっしはお貴族様から煙たがれましてねぇ。学生時代の最初の一ヶ月は友人と呼べる存在はいやせんでした。けど、あるきっかけが孤独だったあっしを救ってくれたんでさぁ。そんでアルとバルがあっしに興味を持つ様になり、気付いたら三人で過ごす時間が増えたんでさ。お互いライバル視しながらも実力を認め切磋琢磨する存在…あいつらが困ってたら俺はこの命を捧げても悪くねえと思いやす。お嬢もそんな存在を見付けてくだせえ。』


私はただただジョセフの話に聞き入った。


結局仲良くなったきっかけというのは教えてくれなかったけど、バルムンク殿とアルトリオは隣で聞いていたから覚えていたのだろう。


目を閉じ何かを思い起こした表情をしている。



「ジョセフ、お前は昔から変わらねえな。その甘っちょろい考えは止めろと俺は何度もお前に訴えたが…そうか、だが…悪くはねえのかもな。俺もリリアナ嬢に賭けてみるとするか。フッ…」


バルムンク殿は軽く笑うとジョセフへと拳を突き付けた。ジョセフもそれに応じ拳を重ねる。アルトリオも参加して三人で笑い始めた。



これが男のYUJYOってやつなんだろうか。


少し変だけど…少し良いなって思う。


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